相補型金属酸化膜半導体 (ソウホガタキンゾクサンカマクハンドウタイ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
相補型金属酸化膜半導体 (ソウホガタキンゾクサンカマクハンドウタイ) の読み方
日本語表記
相補型金属酸化膜半導体 (ソウホガタキンゾクサンカマクハンドウタイ)
英語表記
Complementary Metal-Oxide-Semiconductor (コンプリメンタリー メタル オキサイド セミコンダクター)
相補型金属酸化膜半導体 (ソウホガタキンゾクサンカマクハンドウタイ) の意味や用語解説
相補型金属酸化膜半導体は、現代のデジタル集積回路を構成する最も基本的な半導体技術の一つである。一般的には、英語名称である「Complementary Metal-Oxide-Semiconductor」の頭文字を取ってCMOS(シーモス)という略称で広く知られている。我々が日常的に使用するパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット、デジタル家電など、あらゆる電子機器に搭載されているCPUやメモリといった半導体チップの大部分は、このCMOS技術を用いて製造されている。その最大の特徴は、動作時における消費電力が極めて低い点にあり、この特性がバッテリー駆動のモバイル機器の普及を支える根幹となった。CMOSは、その名の通り「相補的」な関係にある二種類のトランジスタを巧みに組み合わせることで、この低消費電力を実現している。 CMOSの構造と動作原理を詳細に理解するためには、まずその構成要素であるMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)について知る必要がある。MOSFETは、ゲートと呼ばれる制御端子に電圧を印加するかどうかで、二つの端子間(ソースとドレイン)に電流が流れるか否かを制御できる、電気的なスイッチとして機能する電子部品である。このMOSFETには、主に二つのタイプが存在する。一つはnチャネルMOSFET(NMOS)、もう一つはpチャネルMOSFET(PMOS)である。NMOSは、ゲートに正の電圧(論理的に「High」や「1」と表現される状態)が加えられるとオン状態となり電流を流し、電圧が加えられない(論理的に「Low」や「0」と表現される状態)とオフ状態となって電流を遮断する。一方、PMOSはこれとは正反対の特性を持ち、ゲートに電圧が加えられないLowの状態でオンとなり、正の電圧が加えられるHighの状態でオフとなる。このように、NMOSとPMOSは互いに逆の条件でオン・オフが切り替わる。この対照的な動作特性こそが「相補的」と呼ばれる所以である。 CMOS回路は、このNMOSトランジスタとPMOSトランジスタを一つずつペアにして構成されるのが基本単位となる。最も代表的な例として、論理を反転させる機能を持つ「インバータ回路」が挙げられる。CMOSインバータは、電源と接地(グラウンド)の間に、PMOSとNMOSを直列に接続し、両者のゲートを共通の入力端子、接続点を出力端子とする構造を持つ。この回路に入力信号としてHigh(高電圧)を与えると、NMOSはオンになるが、PMOSはオフになる。その結果、出力端子はオンになったNMOSを通じて接地側と接続されるため、出力はLow(低電圧)となる。逆に入力信号としてLow(低電圧)を与えると、今度はPMOSがオンになり、NMOSはオフになる。出力端子はオンになったPMOSを通じて電源側と接続されるため、出力はHigh(高電圧)となる。このようにして、入力とは逆の論理レベルを出力するインバータとして機能する。 このCMOSインバータの動作において最も重要な点は、入力がHighまたはLowのどちらかで安定している定常状態では、PMOSかNMOSのどちらか一方が必ずオフになっていることである。これにより、電源から接地までの間に電流が流れる経路が常に遮断されている。したがって、論理状態が変化しない限り、回路には貫通電流と呼ばれる無駄な電流がほとんど流れず、消費電力が限りなくゼロに近くなる。電力が消費されるのは、主に入力信号がHighからLow、あるいはLowからHighへと切り替わる、ごく短い過渡的な瞬間のみである。この特性が、CMOS技術が持つ圧倒的な低消費電力性の根源となっている。この基本単位であるCMOSインバータを複数組み合わせることで、AND、OR、NANDといったより複雑な論理ゲートを構築でき、それらをさらに集積することで、最終的にCPUやメモリなどの大規模な論理回路が形成される。システムエンジニアにとって、ハードウェアの性能、特に消費電力や発熱といった特性を理解する上で、その基盤となっているCMOSの動作原理を把握しておくことは、システム全体の設計や性能評価を行う上で極めて有益な知識となる。