エポック秒(エポックビョウ)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
エポック秒(エポックビョウ)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
エポック秒 (エポックビョウ)
英語表記
Epoch time (エポックタイム)
用語解説
エポック秒は、コンピュータシステムにおいて時刻を表現するための標準的な手法の一つである。これは、特定の起点をゼロとして、そこからの経過秒数を単一の数値で表現するものである。この起点は「エポック」と呼ばれ、協定世界時(UTC)における1970年1月1日午前0時0分0秒と定められている。例えば、この起点からちょうど1秒後であればエポック秒は「1」となり、1日後であれば「86400」となる。この形式は、Unix系オペレーティングシステムで標準的に採用されたことから「Unix時間(Unix time)」や「POSIX時間(POSIX time)」とも呼ばれる。エポック秒の最大の利点は、その単純さにある。時刻を一つの連続した数値として扱うことで、タイムゾーンやサマータイムといった複雑な要素を排除し、時刻の比較や差分の計算を容易にする。世界中のどのコンピュータでも同じ基準で時刻を扱えるため、システム間のデータ連携やログの解析において非常に重要な役割を担っている。
詳細を述べると、エポック秒の起点が1970年1月1日に設定された背景には、Unixオペレーティングシステムの開発時期が関係している。開発が本格化した当時、時刻を表現するための基準点として、キリの良い未来の日付が選ばれた。この基準は、その後の多くのシステムに引き継がれ、デファクトスタンダードとなった。エポック秒が基準とする協定世界時(UTC)は、国際的な標準時であり、原子時計によって極めて正確に維持されている。システムが時刻をエポック秒、すなわちUTC基準の経過秒数として内部的に保持することで、地理的な場所に依存しない一貫した時刻管理が可能になる。例えば、東京で記録されたエポック秒とロンドンで記録されたエポック秒は、同じ瞬間の出来事であれば全く同じ値を持つ。ユーザーに時刻を表示する際に、このエポック秒を各地域のタイムゾーン(日本標準時など)に合わせて変換することで、ローカル時刻として正しく表現できる。
エポック秒は、多くの場合、整数型のデータとして格納される。かつては32ビットの符号付き整数で表現されるのが一般的であった。しかし、32ビット符号付き整数が表現できる最大値は約21億であり、これをエポック秒に換算すると、2038年1月19日午前3時14分7秒(UTC)に限界を迎える。この時刻を超えると、数値がオーバーフローして負の値となり、1901年に巻き戻ってしまうという問題が発生する。これは「2038年問題」として知られている。この問題を解決するため、現代のシステムでは、より大きな値を表現できる64ビット整数でエポック秒を扱うことが標準となっている。64ビット整数であれば、事実上、人類が利用する範囲で枯渇する心配はない。また、システムによっては秒未満の精度、例えばミリ秒(1000分の1秒)やマイクロ秒(100万分の1秒)、ナノ秒(10億分の1秒)単位での時刻管理が求められることがある。その場合、エポック秒を浮動小数点数で表現したり、エポックからの経過ミリ秒などを64ビット整数で表現したりする方法が用いられる。
具体的な利用シーンは多岐にわたる。多くのプログラミング言語では、現在時刻をエポック秒で取得するための関数が標準で用意されている。データベースシステムにおいても、時刻情報を格納するデータ型として、内部的にエポック秒を利用しているものがある。また、ウェブアプリケーションにおけるセッションの有効期限管理、ファイルの最終更新日時の記録、分散システムにおけるイベントの発生順序の特定など、システム内部の様々な処理で時刻の基準として活用されている。
一方で、エポック秒には注意すべき特性もある。それは「うるう秒」の扱である。UTCでは、地球の自転のズレを補正するために、不定期に「うるう秒」が挿入されることがある。しかし、エポック秒の定義では、1日は常に86400秒として計算され、うるう秒は考慮されない。つまり、うるう秒が挿入された日も、他の日と同じく86400秒としてカウントが進む。これにより、厳密にはエポック秒とUTCとの間にわずかな差が生じることになるが、ほとんどのアプリケーションではこの差は無視できる範囲であり、問題となることは稀である。エポック秒はコンピュータが処理しやすい形式であるが、人間にとっては直感的に理解しにくい数値であるため、ユーザーインターフェースなどで表示する際には、必ず「2023年10月27日 10時00分00秒」といった、人間が読んで理解できる形式に変換される。この変換処理も、多くのプログラミング言語のライブラリによって容易に行うことができる。