周波数分割複信 (しゅうはすうぶんかつふくしん) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
周波数分割複信 (しゅうはすうぶんかつふくしん) の読み方
日本語表記
しゅうはすうぶんかつふくしん (シュウハスウブンカツフクシン)
英語表記
Frequency Division Duplex (フリークエンシーディビジョンダプレックス)
周波数分割複信 (しゅうはすうぶんかつふくしん) の意味や用語解説
周波数分割複信(FDD: Frequency Division Duplexing)は、無線通信において、送信と受信を同時に行う全二重通信を実現するための主要な方式の一つである。この技術は、特に携帯電話システムなど、リアルタイム性が求められる広範囲な通信で利用されている。 概要 周波数分割複信とは、文字通り、送信と受信にそれぞれ異なる周波数帯域を割り当てることで、両方向への同時データ伝送を可能にする技術である。これにより、互いの通信が干渉することなく、効率的かつ安定した双方向通信が実現される。例えば、無線での対話において、話者が同時に言葉を発しても互いの声が明確に聞こえる状態を技術的に作り出すための基盤となる。この方式は、一般的に全二重通信と呼ばれ、データの送受信が同時に行えるという特徴を持つ。送信と受信で使う周波数を分けることで、両方向の通信が物理的に独立し、相互干渉を避けながら通信の効率を最大限に高めることを目的としている。 詳細 周波数分割複信の基本的な動作原理は、利用可能な無線周波数スペクトルを二つの異なる帯域に分割することにある。一方は「アップリンク」と呼ばれ、移動端末(例えばスマートフォン)から基地局へのデータ送信に用いられる。もう一方は「ダウンリンク」と呼ばれ、基地局から移動端末へのデータ受信に用いられる。これらの二つの周波数帯域は、互いに十分な間隔(ガードバンド)を空けて配置される。このガードバンドは、送信と受信の信号が混信したり、強力な送信信号が微弱な受信信号に干渉したりするのを防ぐ役割を担い、通信品質の維持に不可欠である。端末は送信と受信で異なる周波数を用いるため、送信機と受信機は互いに独立して動作でき、同時にデータの送受信が可能となる。 FDDの最大の特長は、送信と受信が物理的に分離された周波数帯域で行われるため、全二重通信が容易に実現される点にある。全二重通信とは、通信路の両端が同時に情報の送受信を行える状態を指し、電話のようなリアルタイム性を要する双方向のやり取りに適している。これにより、データ伝送の遅延を最小限に抑え、応答性が求められるアプリケーション、例えば音声通話やビデオ会議、オンラインゲームなどに非常に適している。送信と受信が独立しているため、どちらかの方向のデータ伝送がもう一方に影響を与えることがなく、安定したスループットを維持しやすい特性を持つ。 FDDの利点としては、まず高いリアルタイム性が挙げられる。送信と受信が同時並行で進むため、遅延が少なく、応答性に優れた通信が可能である。これは、通信の待ち時間がユーザー体験に直結するアプリケーションにおいて特に重要である。また、送信と受信のデータ量がほぼ対称的なサービス、例えば音声通話やP2P(Peer-to-Peer)通信において非常に効率的である。さらに、固定された周波数帯を割り当てるため、通信プロトコルが比較的シンプルになり、基地局と端末間の同期も容易に実現できる。これは、システムの設計と運用を簡素化する上で有利に働く。 一方で、FDDにはいくつかの欠点も存在する。最大の欠点は、送信と受信のために二つの独立した周波数帯域を確保する必要があるため、利用可能な周波数資源を多く消費する点である。無線周波数スペクトルは有限な公共資源であり、この消費量の多さは、周波数割り当ての柔軟性を低下させる要因となる。また、アップリンクとダウンリンクで必要なデータ量が非対称な通信、例えばWebブラウジングや動画視聴のようにダウンロード量が圧倒的に多い場合に、少ない方の帯域が十分に活用されず、周波数資源の無駄が生じる可能性がある。このような非対称トラフィックへの適応性は、時分割複信(TDD)方式に劣る場合がある。TDDは同じ周波数帯域を時間で区切って送受信を切り替えるため、必要に応じて送受信の時間配分を柔軟に変更できるが、FDDでは周波数帯域が固定されているため、このような柔軟な対応は困難である。 周波数分割複信は、第3世代(3G)移動通信システム(W-CDMAなど)や第4世代(4G)移動通信システム(LTEの一部)において広く採用されてきた実績を持つ。また、固定無線アクセス(FWA)や衛星通信、一部の無線LAN規格など、多くの無線通信システムで基盤技術として利用されている。これらのシステムでは、安定した同時双方向通信が不可欠であり、FDDはその要件を満たすために有効な手段として現在も活用されている。