機能要件 (キノウヨウケン) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
機能要件 (キノウヨウケン) の読み方
日本語表記
きのうようけん (キノウヨウケン)
英語表記
functional requirements (ファンクショナル・リクワイヤメンツ)
機能要件 (キノウヨウケン) の意味や用語解説
機能要件とは、システムが具体的に「何をすべきか」、つまりどのような機能や動作を提供する必要があるかを定義したものである。これは、システムがユーザーや他のシステムに対してどのような振る舞いをするかを明確に記述するものであり、ユーザーがシステムに期待する具体的な操作や処理の内容を指す。例えば、「ユーザーが商品検索キーワードを入力し、関連する商品一覧が表示される」という動作は機能要件の一つである。システム開発において、この機能要件は開発チームが目指すべき目標を明確にし、顧客との認識のズレを防ぎ、テストの基準を定める上で極めて重要な役割を果たす。システム開発の初期段階で機能要件を明確に定義することは、プロジェクトの成功に直結すると言える。 機能要件の詳細な記述は多岐にわたる。具体的には、ユーザーインターフェースに関する要件、データの処理に関する要件、外部システムとの連携に関する要件、そして業務ロジックに関する要件などが挙げられる。ユーザーインターフェースに関する要件としては、例えば「ユーザーはログイン画面でユーザーIDとパスワードを入力してシステムにログインできる」や「商品一覧画面には、商品の画像、名称、価格、在庫状況が表示される」といった、画面表示や入力フォームに関するシステムとのインタラクションが該当する。 次に、データの処理に関する要件は、システムがどのようにデータを操作するかを定義する。「ユーザーは新規顧客情報を登録できる」「登録済みの顧客情報は編集できる」「不要になった顧客情報は削除できる」「指定した条件で顧客情報を検索できる」「購入履歴に基づいてポイントを計算し、会員ランクを自動更新する」といった、CRUD(Create, Read, Update, Delete)操作やデータ加工、計算処理がこれに含まれる。これらはシステムが内部で実行する主要な処理となる。 外部システムとの連携に関する要件は、システムが他のシステムとどのようにデータを交換したり、特定のサービスを利用したりするかを記述する。「当システムは決済サービスと連携し、クレジットカード情報を安全に処理できる」「受注情報を基幹システムに連携し、在庫情報を更新する」のように、API連携やバッチ処理によるデータ連携などが代表的である。 さらに、業務ロジックに関する要件は、特定のビジネスルールや業務の流れをシステムがどのように実現するかを定義する。「購入金額が10,000円以上の場合は送料無料とする」「注文から24時間以内であれば、ユーザーは注文をキャンセルできる」といった、条件に基づく処理やワークフローがこれに該当する。また、「ユーザーは自分のアカウント情報(氏名、住所、電話番号、メールアドレス)をいつでも確認し、更新できる」といった、アカウント管理に関する機能も含まれる。セキュリティに関する機能要件としては、「システムは認証されたユーザーのみが管理画面にアクセスできるようにする」といった、認証や認可、アクセス制御といった機能自体の要件が挙げられる。 機能要件を記述する上でのポイントはいくつかある。第一に、明確性、具体性、網羅性、一貫性を保つことである。曖昧な表現や解釈の余地がある言葉は避け、「誰が」「何を」「どのように」行うのかを具体的に記述する必要がある。例えば、「システムは速やかに処理を行う」という記述は曖昧であり、「ユーザーが検索条件を指定して商品を検索すると、その条件に合致する商品の一覧が表示される」のように、外部から見たシステムの振る舞いや結果を具体的に記述することが重要である。 また、機能要件はシステムの外部から見た振る舞いを記述するものであり、具体的な技術的な実装方法や内部構造については記述しないのが原則である。例えば、「データをMySQLデータベースに保存する」といった記述は、実装方法に言及しているため機能要件としては不適切である。「ユーザーが入力した顧客情報は、システムに永続的に保存される」のように、外部から見た結果のみを記述するべきだ。 機能要件は、システム開発のライフサイクル全体を通じて重要な役割を果たす。まず、要件定義フェーズで顧客や関係者から詳細にヒアリングし、分析することで収集される。収集された要件は、設計フェーズでシステムの構造や動作の詳細に落とし込まれ、実装フェーズで実際のコードとして具現化される。そして、テストフェーズでは定義された機能要件が正しく実装されているかを確認するための基準となる。運用段階に入ってからも、機能追加や変更の要望があった際には、既存の機能要件との整合性を確認しながら進める必要がある。このように、機能要件は一度定義したら終わりではなく、プロジェクトの進行とともに変化する可能性も考慮し、適切に変更管理を行うことが重要である。 機能要件は、システムの「何を」実現するかを定義するものであるが、システムの品質や性能、セキュリティといった「どのように」実現するかを定義する非機能要件とは異なる。両者はシステムの全体像を構成する上で不可欠であり、機能要件が提供する価値を非機能要件が支える関係にある。例えば、「ユーザーはログインできる」という機能要件に対し、「ログイン処理は3秒以内に完了する」「不正アクセスからシステムを保護する」といった非機能要件が、その機能の品質を担保する。どちらか一方だけでは、期待される品質のシステムを構築することはできない。 機能要件は通常、要件定義書の一部として文書化される。具体的な記述方法としては、ユースケース記述やユーザーストーリーといった形式が用いられることも多い。ユースケース記述は「誰が(アクター)」「何を(機能)」「どのように(システムの振る舞い)」行うかを詳細に記述し、ユーザーストーリーは「~として、~したい、~なので」という簡潔な形式でユーザーの視点から機能を表現する。これらの成果物は、開発チームと顧客の間での共通理解を促進し、誤解を解消するための重要なコミュニケーションツールとなる。システムエンジニアを目指す者にとって、機能要件を正確に理解し、適切に記述する能力は、高品質なシステム開発を成功させるための基礎となるのである。