多元接続 (タゲンセツゾク) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
多元接続 (タゲンセツゾク) の読み方
日本語表記
多元接続 (タゲンセツゾク)
英語表記
Multiple Access (マルチプルアクセス)
多元接続 (タゲンセツゾク) の意味や用語解説
多元接続とは、限られた無線周波数帯や時間といった通信資源を、複数のユーザーが同時に、かつ効率的に利用できるようにするための技術や仕組みの総称である。 携帯電話やWi-Fiなど、現代のあらゆる無線通信システムにおいて、多くの人々が同時にインターネットに接続したり通話したりする状況は日常的である。しかし、利用できる無線周波数帯は有限であり、もし一人のユーザーが全ての帯域を占有してしまえば、他のユーザーは通信できなくなる。この問題を解決し、限られた資源を有効に活用するために、多元接続技術が不可欠となる。複数の通信を同時に成立させることで、通信システム全体の容量を増加させ、より多くのユーザーを収容できるようになる。 多元接続には、主に以下の代表的な方式が存在する。 周波数分割多元接続 (FDMA: Frequency Division Multiple Access) は、利用可能な周波数帯域を複数の小さな周波数チャネルに分割し、それぞれのチャネルを異なるユーザーに割り当てる方式である。例えば、ラジオ放送で異なる放送局がそれぞれ異なる周波数を使っているのと同様に、各ユーザーは割り当てられた周波数帯域内で独立して通信を行う。この方式はアナログ通信時代から利用されており、仕組みが比較的単純であるという特徴を持つ。しかし、各チャネル間に干渉を防ぐためのガードバンド(未使用の周波数帯域)が必要となり、周波数資源を完全に効率的に利用できないという側面がある。また、ユーザー数が増えると、割り当てられる周波数帯域が狭くなり、個々の通信速度が制限される可能性がある。 時分割多元接続 (TDMA: Time Division Multiple Access) は、利用可能な時間軸を短いタイムスロットに分割し、それぞれのタイムスロットを異なるユーザーに順番に割り当てる方式である。各ユーザーは、自身のタイムスロットが割り当てられた短い期間だけデータを送信し、次のユーザーにタイムスロットを譲る。これを非常に高速に繰り返すことで、ユーザーはあたかも連続して通信しているかのように感じる。TDMAはデジタル通信システムで広く利用されており、GSM(第2世代携帯電話システム)などで採用されていた。FDMAと比較して、ガードバンドが不要なため周波数利用効率が高く、また、一つの周波数帯域を複数のユーザーで共有できる利点がある。 符号分割多元接続 (CDMA: Code Division Multiple Access) は、FDMAやTDMAのように周波数や時間を厳密に分割するのではなく、すべてのユーザーが同じ周波数帯域と時間を使って同時に通信を行う方式である。各ユーザーはそれぞれ異なる「拡散符号」と呼ばれる特殊なデジタル符号を用いてデータを変調(符号化)して送信する。受信側は、そのデータを受信したいユーザーの拡散符号と一致する符号で逆変調(復号)することで、目的のデータのみを取り出すことができる。他のユーザーのデータは異なる拡散符号で変調されているため、ノイズとして認識され、排除される。この方式は、秘匿性が高く、干渉に強く、また、ユーザー数が増えても通信速度が急激に低下しにくいという特徴がある。第3世代携帯電話システム(W-CDMAなど)で広く採用された。 直交周波数分割多元接続 (OFDMA: Orthogonal Frequency Division Multiple Access) は、直交周波数分割多重 (OFDM) 技術をベースとした多元接続方式である。OFDMは、利用可能な広帯域の周波数帯域を多数の狭い周波数サブキャリアに分割し、それらを互いに干渉しないように直交関係(数学的に無関係な関係)を持たせて並列にデータ送信を行う技術である。OFDMAは、この多数のサブキャリア群を、さらに時間と周波数の二次元的な資源ブロックとして細かく分割し、各資源ブロックを異なるユーザーに動的に割り当てる。これにより、ユーザーの通信状況や通信要件に応じて、柔軟かつ効率的に資源を割り当てることが可能となる。高速大容量通信に適しており、第4世代携帯電話システム(LTE)、第5世代携帯電話システム(5G)、および最新のWi-Fi規格(Wi-Fi 6など)で主要な多元接続方式として採用されている。 空間分割多元接続 (SDMA: Space Division Multiple Access) は、アンテナの指向性(特定の方向に電波を強く送受信する特性)やMIMO(Multiple-Input Multiple-Output: 複数アンテナによる送受信)技術を活用し、空間的な分離によって複数のユーザーが同じ周波数・時間で通信できるようにする方式である。基地局が複数のアンテナを持ち、各アンテナからの電波の位相や振幅を適切に制御することで、特定のユーザーがいる方向にだけ電波を集中させたり、異なるユーザーからの信号を空間的に分離して受信したりする。これにより、同じ周波数帯域を複数のユーザーが空間的に異なる場所で同時に利用できるようになり、システム全体の容量を大幅に向上させることが可能となる。OFDMAなど他の多元接続方式と組み合わせて利用されることが多く、特に5Gのような高密度な通信環境でその効果を発揮する。 これらの多元接続技術は、それぞれ異なる原理に基づいて通信資源を分割・共有することで、限られた資源を最大限に活用し、より多くのユーザーに安定した高速な通信環境を提供することを可能にしている。現代の複雑な通信システムにおいては、これらの方式が単独で使われるだけでなく、互いに組み合わされて利用されることで、通信の効率性、容量、信頼性がさらに高められている。システムエンジニアにとって、これらの多元接続技術の理解は、無線通信システムの設計、構築、運用において基盤となる重要な知識である。