可変長サブネットマスク (カヘンチョウサブネットマスク) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
可変長サブネットマスク (カヘンチョウサブネットマスク) の読み方
日本語表記
可変長サブネットマスク (カヘンチョウサブネットマスク)
英語表記
Variable-length subnet mask (ヴァリアブルレングスサブネットマスク)
可変長サブネットマスク (カヘンチョウサブネットマスク) の意味や用語解説
可変長サブネットマスク(VLSM: Variable Length Subnet Mask)は、IPアドレスを効率的に割り当てるためのネットワーク設計技術である。この技術を理解するためには、まずIPアドレスとサブネットマスクの基本的な役割を知る必要がある。IPアドレスは、ネットワーク上の機器を識別するための住所であり、ネットワークを識別する「ネットワーク部」と、そのネットワーク内の個々の機器を識別する「ホスト部」に分かれている。サブネットマスクは、IPアドレスのどこまでがネットワーク部で、どこからがホスト部かを定義するための32ビットの数値である。ネットワークをより小さな複数のネットワーク、すなわちサブネットに分割する「サブネット化」を行うことで、IPアドレス空間を整理し、管理を容易にし、不要な通信(ブロードキャスト)の範囲を限定することができる。従来、サブネット化を行う際には、分割したすべてのサブネットで同じ長さのサブネットマスクを使用する固定長サブネットマスク(FLSM: Fixed Length Subnet Mask)が用いられていた。しかし、この方法ではIPアドレスに大きな無駄が生じるという問題があった。VLSMは、この問題を解決するために考案されたものであり、一つの大きなネットワークを分割する際に、サブネットごとに異なる長さのサブネットマスクを適用することを可能にする。これにより、各サブネットが必要とするホスト数に応じて、最適なサイズのアドレス空間を割り当てることができ、IPアドレスの利用効率を大幅に向上させることができる。 VLSMの具体的な仕組みを理解するために、固定長サブネットマスク(FLSM)の問題点から見ていく。例えば、`192.168.10.0/24`というネットワークが存在し、これを複数の部署に割り当てる状況を考える。このネットワークでは、254台のホストを接続できる。もし、営業部に50台、開発部に100台、そしてルーター間を接続するために2台のホストアドレスが必要なネットワークセグメントが存在するとする。FLSMを用いて、これらの要件を満たすためにネットワークを分割する場合、最も大きな開発部の100台を収容できるサイズですべてのサブネットを作成する必要がある。100台のホストを収容するには、ホスト部として7ビット(2の7乗-2 = 126ホスト)が必要となるため、サブネットマスクは`/25`(255.255.255.128)となる。このマスクでネットワークを分割すると、すべてのサブネットが126台のホストを収容できるサイズになる。開発部には適切だが、50台しか必要ない営業部には76台分のアドレスが無駄になり、ルーター間の接続にいたっては2台しか必要ないにもかかわらず124台分ものアドレスが浪費されることになる。このように、FLSMでは各サブネットの規模が異なる場合に、アドレスの無駄遣いが避けられない。 これに対してVLSMは、サブネットをさらに細かくサブネット化するという考え方で、この無駄を解消する。VLSMを用いた設計では、まず最も多くのホスト数を必要とするネットワークから順にアドレスを割り当てていくのが一般的である。先の例で言えば、まず開発部の100台のホストを収容するために、`192.168.10.0/24`のネットワークから`/25`のサブネットマスクを適用し、`192.168.10.0/25`のサブネット(アドレス範囲: 192.168.10.0~192.168.10.127)を割り当てる。次に、50台のホストが必要な営業部には、残りのアドレス空間である`192.168.10.128/25`の中から、6ビットのホスト部(2の6乗-2 = 62ホスト)を持つ`/26`のサブネットを切り出して割り当てる。具体的には`192.168.10.128/26`(アドレス範囲: 192.168.10.128~192.168.10.191)となる。最後に、ルーター間の接続に必要な2台のホストのためには、2ビットのホスト部(2の2乗-2 = 2ホスト)を持つ`/30`のサブネットマスクが最適である。残っているアドレス空間`192.168.10.192/26`の中から、`192.168.10.192/30`(アドレス範囲: 192.168.10.192~192.168.10.195)を割り当てる。このように、VLSMを用いることで、各サブネットの実際の要件に合わせたサイズのネットワークを構築でき、IPアドレスの浪費を最小限に抑えることが可能となる。 VLSMを導入するには、使用するルーティングプロトコルがVLSMに対応している必要がある。サブネットマスクの情報を含めずに経路情報を交換するクラスフルルーティングプロトコル(RIPv1やIGRPなど)ではVLSMを利用できない。サブネットマスク情報も合わせて経路情報を広告するクラスレスルーティングプロトコル(RIPv2, OSPF, EIGRP, BGPなど)を使用することが前提となる。現代のネットワークではクラスレスルーティングプロトコルが標準的に利用されているため、VLSMは広く採用されている技術である。IPアドレス、特にIPv4アドレスが枯渇しつつある現代において、アドレス資源を有効活用することは極めて重要であり、VLSMはそのための根幹をなす技術と言える。システムエンジニアを目指す上で、この柔軟で効率的なIPアドレス設計手法を理解し、実践できる能力は必須のスキルである。