【ITニュース解説】飲酒が腸内細菌による肝臓への攻撃を助長してしまう悪循環が明らかに
2025年09月05日に「GIGAZINE」が公開したITニュース「飲酒が腸内細菌による肝臓への攻撃を助長してしまう悪循環が明らかに」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
新たな研究で、慢性的な飲酒が腸内細菌による肝臓攻撃を助長する悪循環の存在が判明。アルコールが腸内細菌の働きに影響を与え、肝臓にダメージが蓄積しやすくなるというメカニズムが解明された。
ITニュース解説
人間がお酒を飲むと、その主成分であるアルコールは、主に肝臓で分解され、体外へと排出される。しかし、アルコールを過剰に摂取し続けると、肝臓には大きな負担がかかり、その機能が徐々に低下していくことは広く知られている。アルコール性肝疾患と呼ばれる病態は、脂肪肝、肝炎、そして最終的には肝硬変といった重篤な状態へと進行する可能性がある。これまでの研究では、アルコールそのものや、それが分解される過程で生じる有害物質が、直接肝臓の細胞を傷つけることが主な原因だと考えられてきた。しかし、最近の研究によって、慢性的な飲酒が肝臓にダメージを与える新たな、そしてより複雑なメカニズムが明らかになった。それは、腸の中に住む無数の細菌、つまり「腸内細菌」が、肝臓への攻撃に加担するというものだ。
私たちの腸内には、数多くの種類の細菌が共生している。これらをまとめて「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)」と呼ぶ。腸内細菌は、食べ物の消化吸収を助けたり、ビタミンを合成したり、免疫機能を調整したりと、私たちの健康を維持するために非常に重要な役割を担っている。しかし、そのバランスが崩れると、体に悪影響を及ぼすこともある。今回の研究では、慢性的にアルコールを摂取し続けると、この腸内細菌叢のバランスが大きく変化することがわかった。具体的には、普段はあまり増殖しない特定の種類の細菌、特に「クレブシエラ・ニューモニエ」という菌が、異常に増えてしまうのだ。
このクレブシエラ・ニューモニエという細菌は、私たちの体に新たな問題を引き起こす。この菌は、驚くべきことに、私たちの腸内で独自に「エタノール」を作り出す能力を持っているのだ。エタノールとは、まさにアルコールの主成分そのものである。つまり、アルコールを飲んでいない時でも、腸内のこの細菌が、体内でアルコールを作り続けている状態になる可能性があるということだ。しかも、この細菌が作り出すエタノールは、私たちが飲んだアルコールと同じように、私たちの体に影響を与える。
腸壁は、私たちの体にとって重要なバリア機能を果たしている。消化された栄養素を取り込む一方で、腸内の有害な物質や細菌が体内に侵入するのを防ぐ「門番」のような役割を担っている。しかし、アルコールや、腸内細菌が作り出すエタノールは、この腸壁のバリア機能を傷つける作用がある。これにより、腸壁の透過性が高まり、通常では体内に侵入しないような細菌由来の毒素や、消化されていない食物の断片などが、血液中に流れ込みやすくなる。この状態は「リーキーガット(腸漏れ)」とも呼ばれる。
腸壁を通過して血液中に流れ込んだこれらの有害物質は、血管を通じて全身を巡り、最終的に肝臓へと到達する。肝臓は、体内の毒素を解毒する主要な臓器であるため、流れ込んできた有害物質を処理しようと働く。しかし、腸内細菌が作り出すエタノールや、その他の細菌由来の毒素が継続的に肝臓に流入すると、肝臓は休むことなく働き続けなければならなくなる。この過剰な負担が、肝細胞に直接的なダメージを与え、さらに肝臓内で強い炎症反応を引き起こす。炎症は、体の防御反応の一つではあるが、慢性的に続くと組織を破壊し、肝臓の機能をさらに低下させてしまう。
ここで「悪循環」が生じる。まず、慢性的なアルコールの摂取が腸内細菌叢のバランスを崩し、クレブシエラ・ニューモニエのようなエタノール産生菌を増加させる。次に、これらの細菌が腸内でエタノールを生成し、これが飲んだアルコールと相まって腸壁のバリア機能を破壊し、リーキーガットを引き起こす。そして、傷ついた腸壁から、細菌が作り出したエタノールや他の毒素が肝臓へと流れ込み、肝臓に炎症と損傷を与える。肝臓の機能が低下すると、体全体の代謝や解毒能力がさらに悪化し、それがまた腸内環境の悪化を招くという負の連鎖が続く。肝臓の機能不全は、腸内の環境を健全に保つための代謝産物の供給を妨げたり、免疫応答を変化させたりすることで、腸内細菌叢のさらなる乱れを招き、エタノール産生菌がより一層増殖する土壌を作ってしまうのだ。このように、アルコール摂取が引き金となり、腸内細菌が介在することで、肝臓へのダメージが自己増殖的に進行する、まさに「悪循環」が形成されるわけである。
この研究は、アルコール性肝疾患の発症メカニズムについて、これまでの理解を大きく広げる画期的なものだ。単にアルコールが肝臓に悪いというだけでなく、腸内細菌という新たなプレーヤーが、その病気の進行に深く関与していることを示している。この発見は、アルコール性肝疾患の治療法や予防法の開発に大きな希望をもたらす。例えば、腸内細菌叢のバランスを正常に戻すようなプロバイオティクス(善玉菌を補給する治療)や、特定の有害な細菌の増殖を抑える抗生物質、あるいはより根本的に腸内細菌叢全体を入れ替える糞便移植といった、これまでにないアプローチが考えられるようになる。また、お酒を飲む量が比較的少なくても肝臓病になってしまう人がいるのはなぜか、という長年の疑問の一部も、腸内細菌の個体差によって説明できる可能性がある。この新たな知見は、今後、私たちの健康を守るための医療や研究に、大きな進展をもたらすだろう。