【ITニュース解説】Claude CodeでGit Worktreeの移動→PR上の指摘内容の修正→PRへの反映までをコマンド一発で行う

ソフトウェア開発の現場では、チームで協力して一つの製品を作り上げていく。その際、自分が書いたソースコードを他の開発者に確認してもらい、問題がないかレビューを受ける工程は不可欠である。このレビュー依頼は「プルリクエスト（PR）」と呼ばれ、コードの品質を保つために重要な役割を果たす。しかし、PRにはしばしば修正すべき点、いわゆる「指摘」が寄せられる。開発者はその指摘内容を確認し、コードを修正し、再びPRに反映させるという一連の作業を繰り返す必要がある。この作業は、特に複数のプロジェクトを並行して進めている場合、現在の作業を中断して修正対応にあたる必要があり、手間と時間がかかるという課題があった。

このPR修正作業の効率化を目指し、AIとGitの機能を組み合わせた画期的な手法が考案された。具体的には、大規模言語モデルである「Claude 3」を活用し、PR上の指摘内容の修正から、その内容をPRへ反映させるまでの一連の流れを、たった一つのコマンド実行で自動化するというものである。この自動化により、開発者は単純な修正作業から解放され、より本質的な開発業務に集中できるようになる。この仕組みの核となるのが、Gitの「worktree」という機能と、AIへの適切な指示（プロンプト）の生成である。

まず、「Git worktree」について説明する。通常、Gitで別の作業に移る際は「ブランチ」を切り替える操作を行う。しかし、ブランチを切り替えると、現在作業中のファイルの状態も一緒に切り替わってしまうため、作業途中の変更を一時的に保存する「stash」などの操作が必要になることが多く、やや手間がかかる。一方、「worktree」は、一つのソースコードリポジトリ（保管場所）から、複数のブランチをそれぞれ別のフォルダとして同時に展開できる機能である。これにより、例えばAという機能の開発をメインのフォルダで行いながら、それとは全く別のフォルダで、急ぎのバグ修正Bに対応するといった並行作業が、ブランチを切り替えることなくスムーズに行えるようになる。今回の自動化手法では、このworktree機能を活用することで、現在の作業を一切中断することなく、別のフォルダでPRの修正作業をAIに実行させることが可能になっている。

次に、コマンド一発で実行される自動化の具体的な流れを解説する。この自動化は、複数のコマンドを順番に実行する「シェルスクリプト」というプログラムによって実現されている。第一に、コマンドが実行されると、スクリプトはまず修正対象のPRが属するworktreeのフォルダへ移動する。これにより、現在の作業環境に影響を与えることなく、修正作業専用の環境を準備する。第二に、「GitHub CLI」という、コマンドラインからGitHubを操作できるツールを使い、対象のPRに寄せられたレビューコメント（指摘内容）を全て取得する。第三に、取得したレビューコメントと、修正対象となるソースコードの内容を組み合わせ、AIであるClaude 3に渡すための指示文（プロンプト）を自動で生成する。このプロンプトには、「このソースコードに対して、以下の指摘があります。これらの指摘を全て満たすようにコードを修正してください」といった具体的な指示が含まれている。第四に、生成されたプロンプトをClaude 3に送信し、コードの修正を依頼する。Claude 3は指示内容を理解し、指摘箇所を修正した新しいソースコードを生成して返す。第五に、スクリプトはAIが生成したコードを受け取り、元のソースコードファイルに上書きして適用する。最後に、修正されたファイルをGitの管理下に登録（コミット）し、その変更内容をGitHub上のPRに反映（プッシュ）する。これら一連の複雑な手順が、開発者がコマンドを一度入力するだけで、人の手を介さずに自動で完了する。

この自動化がもたらすメリットは大きい。最大の利点は、生産性の向上である。PRの細かな修正といった定型的な作業をAIに任せることで、開発者はその待ち時間に別の開発タスクを進めることができる。これにより、開発プロセス全体が高速化される。また、手作業によるコミットメッセージの入力ミスや、プッシュのし忘れといったヒューマンエラーを防ぐ効果も期待できる。AIが開発ワークフローに深く組み込まれることで、人間はより創造性が求められる設計や、複雑な問題解決に集中できるようになる。今後、このようなAIを活用した開発支援ツールはさらに進化し、ソフトウェア開発の現場に不可欠な存在となっていくことが予想される。初心者エンジニアにとっても、Gitの高度な機能やAI活用の基本を理解しておくことは、将来のキャリアにおいて大きな強みとなるだろう。