【ITニュース解説】Exotic RD-0120 derivatives. Pt.2: Tripropellants, RLV, methane
2025年09月12日に「Medium」が公開したITニュース「Exotic RD-0120 derivatives. Pt.2: Tripropellants, RLV, methane」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
旧ソ連の宇宙往還機ブランを軌道に乗せたエネルギアロケットのRD-0120エンジン。その珍しい派生型や進化を探る記事の第2弾だ。再利用型ロケット技術やメタン燃料など、最新のロケット推進剤開発について解説する。
ITニュース解説
ロケットエンジンは、人類が宇宙へと旅立つために不可欠な技術の核だ。その歴史の中で、ソビエト連邦が開発したエネルギアロケットのコアステージに搭載されたRD-0120エンジンは、画期的な存在だった。このエンジンは、ブラン宇宙往還機を地球周回軌道へと送り出すという、当時の宇宙開発における非常に野心的な目標を達成した。RD-0120は、燃料として液体水素、酸化剤として液体酸素を使用する、いわゆる「液体推進剤ロケットエンジン」であり、その高い比推力(推進効率の指標)と信頼性は、当時の最先端技術を象徴するものだった。液体水素と液体酸素は、燃焼時に水蒸気のみを排出するため、環境負荷が低いという利点も持っている。
しかし、宇宙開発は常に進化を求める分野であり、RD-0120エンジンの優れた技術を土台にしつつも、さらなる性能向上、コスト効率化、多様なミッションへの対応を目指して、数多くの「派生型」や改良コンセプトが検討されてきた。これらの派生型は、単に既存エンジンの性能を微調整するだけでなく、推進剤の新しい組み合わせや、ロケット全体の再使用性といった、未来の宇宙輸送システムを見据えた革新的なアイデアを内包していたのだ。エンジンの性能を最大限に引き出し、新たな宇宙利用の可能性を広げることが、これらの派生型開発の目的だったと言える。
その中でも特に注目された技術の一つが「トリプロペラント」方式だ。通常のロケットエンジンは、燃料と酸化剤の2種類の推進剤を用いるが、トリプロペラント方式では、3種類の推進剤を組み合わせる。例えば、燃料を2種類と酸化剤を1種類、あるいはその逆の組み合わせが考えられる。この方式の大きなメリットは、エンジンの運用状況に応じて推進剤の混合比を柔軟に変更できる点にある。ロケットが地球の重力に逆らって上昇する初期段階では、最大の推力を効率良く生み出す組み合わせを使用し、宇宙空間での軌道変更や精密な姿勢制御が必要な段階では、燃費効率を最適化した組み合わせに切り替えることが可能になる。これにより、一つのエンジンで多様な運転モードを実現し、ロケット全体の性能を向上させ、より多くのペイロード(搭載物)を宇宙へ運べるようになる。RD-0120エンジンの技術的基盤は、このような複雑な制御を必要とするトリプロペラントエンジンの開発にも応用され、その実現可能性を探る上で重要な役割を果たした。
さらに、宇宙輸送の未来を語る上で避けて通れないのが「再使用型ロケット(RLV)」の開発だ。従来のロケットは、打ち上げごとに多くの部品が使い捨てられていたため、非常に高額なコストがかかっていた。RLVは、まるで航空機のように機体やエンジンを繰り返し使用することで、打ち上げコストを大幅に削減し、宇宙へのアクセスをより手軽に、頻繁にすることを目的としている。アメリカが1990年代に推進したX-33計画は、このRLVの実現を目指した大規模な技術実証プログラムだった。X-33は、単段式軌道投入機(SSTO)と呼ばれる、一度の打ち上げで地球周回軌道に到達し、その後地球に帰還して再使用されることを目指した実験機であり、そのために多くの革新的な技術が投入された。RD-0120エンジンの派生技術も、このような再使用型ロケットの推進システムに応用できる可能性が探られた。再使用型エンジンには、過酷な打ち上げと帰還を繰り返しても性能を維持できる堅牢性、迅速な整備を可能にする設計、そして着陸時などに必要な推力の精密な調整能力が求められ、RD-0120が持つ高度な制御技術がその基礎となることが期待されたのだ。
現代のロケット開発において、次世代の推進剤として特に注目されているのが「メタン」だ。メタンを液体酸素と組み合わせたメタン・液体酸素推進システムは、多くの点で優れた特性を持っている。液体水素に比べて密度が高く、同じ推力を得るための燃料タンクをより小さくできるため、ロケットの構造をコンパクトにできる。また、液体水素のように極低温での貯蔵が必須ではないため、燃料の取り扱いが比較的容易だ。さらに、メタンは天然ガスから安価に大量に入手でき、燃焼生成物も比較的クリーンであるため、エンジンの劣化が少なく、再使用性を高める上で有利だとされている。将来的に火星探査などにおいて、現地で資源(二酸化炭素と水)からメタンを生成し、それを燃料として利用する「現地資源利用(ISRU)」の可能性も指摘されており、宇宙探査の持続可能性を高める上でも重要な選択肢となっている。RD-0120エンジンの高性能な液体酸素・液体水素エンジンに関する知見は、メタンを燃料とする新たなエンジンの設計思想や、その燃焼効率、構造的安定性を向上させる上で貴重な教訓となっており、メタンエンジンの開発競争を加速させている。
これらの技術革新は、それぞれが独立した分野ではなく、密接に関連し合っている。高性能なエンジン技術がトリプロpeラントやメタン推進剤の効率的な燃焼を可能にし、それらの新しい推進方式は再使用型ロケットの実現性を高める。そして、再使用型ロケットの実現は、宇宙輸送のコストを劇的に引き下げ、より広範な人々や産業が宇宙を利用できる未来を切り開く。システムエンジニアを目指す皆さんにとって、ロケットエンジン、推進剤、そして再使用型ロケットといった分野は、単に物理学や化学の知識だけでなく、複雑なシステムを設計・統合・制御するソフトウェア技術、高度なデータ解析、そして人工知能(AI)といった最先端のIT技術が求められる、非常に刺激的でやりがいのある領域だ。これらの技術進化は、単にロケットが速く遠くへ飛ぶようになるというだけでなく、宇宙空間での通信インフラの構築、地球環境の精密な観測、新たな資源探査、さらには一般の人々が宇宙旅行を楽しむといった、私たちの社会全体に計り知れない変革をもたらす可能性を秘めている。RD-0120エンジンから始まった技術の系譜は、このように広範囲にわたる未来の宇宙開発へとつながり、その最前線でシステムエンジニアの活躍が期待されている。