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【ITニュース解説】「火星の土から金属を作る方法」を科学者らが探っている、火星基地の建材を現地調達できるかも

2025年09月08日に「GIGAZINE」が公開したITニュース「「火星の土から金属を作る方法」を科学者らが探っている、火星基地の建材を現地調達できるかも」について初心者にもわかりやすく解説しています。

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ITニュース概要

科学者らが、将来の火星基地建設に向けて、火星の土から金属を製造する技術を研究している。この技術は、地球から大量の建材を輸送するコストと手間を省き、現地で資材を調達することが目的。火星での有人探査計画を大きく前進させる可能性がある。(119文字)

ITニュース解説

将来の宇宙開発において、人類が火星に長期間滞在し、活動拠点となる基地を建設する計画が現実的な目標として検討されている。しかし、この壮大な計画には解決すべき大きな課題が存在する。その一つが、建設資材の輸送問題である。基地の建設には、構造材や部品など、膨大な量の資材が必要となるが、それらをすべて地球からロケットで運ぶのは、コストと技術の両面で極めて非効率的だ。地球から火星へ1キログラムの物資を運ぶだけで数千万円以上の費用がかかるとも言われており、基地建設に必要な資材をすべて輸送することは現実的ではない。この問題を解決するため、科学者や技術者たちは「現地資源利用(In-Situ Resource Utilization, ISRU)」という考え方に注目している。これは、必要な物資を現地、つまり火星で調達し、利用するというアプローチである。その中でも特に期待されているのが、火星の地表を覆う土や砂、いわゆる「レゴリス」から金属資源を取り出し、建材として利用する技術だ。

火星のレゴリスには、地球の土壌と同様に様々な鉱物が含まれており、特に酸化鉄が豊富に存在することが探査によって明らかになっている。酸化鉄は、地球上では鉄鉱石として製鉄の主原料となる物質だ。もし火星のレゴリスから鉄などの金属を効率的に精錬できれば、基地の骨格となる構造材や、各種ツール、部品などを3Dプリンターといった技術と組み合わせて現地で生産することが可能になる。これにより、地球からの輸送量を劇的に削減でき、火星での持続的な活動基盤を築く上で決定的な一歩となる。

しかし、火星で金属を精錬する方法は、地球上の製鉄プロセスとは根本的に異なるアプローチが求められる。地球で主流の高炉法では、鉄鉱石をコークス(炭素)と共に高温で熱し、炭素の力で酸化鉄から酸素を奪い取る「還元」という化学反応を利用して鉄を取り出す。このプロセスには大量の炭素が必要不可欠だが、火星には利用可能な炭素資源が乏しい。そのため、炭素を使わない新しい精錬技術が必要となる。そこで研究が進められているのが、「溶融酸化物電気分解(Molten Oxide Electrolysis, MOE)」と呼ばれる技術である。これは、電気の力を利用して金属酸化物を金属と酸素に直接分解する方法だ。

溶融酸化物電気分解のプロセスは、まず火星のレゴリスを摂氏1600度以上の高温で加熱し、ドロドロに溶かすことから始まる。この溶融したレゴリスの液体の中に、陰極(カソード)と陽極(アノード)という二種類の電極を挿入し、強力な電流を流す。すると、電気分解が起こり、液体中の金属酸化物が分解される。プラスの電気を帯びた金属イオンはマイナスの電気を帯びた陰極に引き寄せられ、そこで電子を受け取って純粋な金属となって析出する。一方、マイナスの電気を帯びた酸素イオンはプラスの電気を帯びた陽極に引き寄せられ、そこで電子を放出して酸素ガスとして発生する。この方法により、レゴリスから直接、鉄やアルミニウム、チタンといった複数の金属を精錬できる可能性がある。

この技術の最大の利点は、建材となる金属を生成できることだけではない。副産物として純粋な酸素ガスが発生することも、極めて重要な意味を持つ。酸素は、宇宙飛行士が呼吸するために不可欠な生命維持の根幹をなす物質である。さらに、酸素はロケット燃料の酸化剤としても利用できる。火星から地球へ帰還するためのロケット燃料を現地で製造できれば、打ち上げ時に帰還用の燃料を大量に積んでいく必要がなくなり、探査ミッション全体の設計をより効率的で柔軟なものに変えることができる。つまり、溶融酸化物電気分解という一つのシステムが、建設、生命維持、輸送という、火星基地の運営に不可欠な複数の要素を同時に支える基盤技術となり得るのだ。

もちろん、この技術を火星で実用化するには、まだ多くの技術的課題を乗り越える必要がある。摂氏1600度以上という高温を安定して維持するための強力なエネルギー源をどう確保するか、過酷な火星環境で長期間にわたって安定稼働できる高耐久性の装置をどう開発するか、そしてプロセス全体を遠隔操作または自律的に行うための高度な制御システムをどう構築するかなど、解決すべき問題は山積している。エネルギー源としては、太陽光が地球の半分程度しか届かない火星では、小型の原子炉などが有力な候補とされている。これらの課題解決には、材料科学やロボット工学、エネルギー工学など、多岐にわたる分野の知見を結集させた、まさにシステムエンジニアリング的なアプローチが不可欠となる。この挑戦は、地球とは全く異なる制約条件下で、ゼロから持続可能な社会基盤システムを構築する壮大な試みと言えるだろう。

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