【ITニュース解説】サウジアラビアは世界最大の格ゲーの祭典「EVO」を買収して「スポーツウォッシング」をしているという批判
2025年09月04日に「GIGAZINE」が公開したITニュース「サウジアラビアは世界最大の格ゲーの祭典「EVO」を買収して「スポーツウォッシング」をしているという批判」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
サウジアラビアの国家プロジェクトQiddiyaが、世界最大の格闘ゲーム大会「EVO」の運営企業を買収した。サウジアラビアはeスポーツを新たな国家事業としているが、人権問題から目をそらす「スポーツウォッシング」だと批判を受けている。
ITニュース解説
世界最大の格闘ゲーム大会であるEVOを運営するRTS社が、サウジアラビアの国家プロジェクトであるQiddiyaによって完全買収されたというニュースは、eスポーツ業界と国際社会に大きな議論を巻き起こしている。この買収は、単なる企業の合併・買収という側面だけでなく、eスポーツという文化、国際政治、そして倫理的な問題が複雑に絡み合っているため、特に注目されている出来事だ。
EVO、正式名称Evolution Championship Seriesは、長年にわたり格闘ゲームコミュニティの頂点に君臨してきた大会だ。ストリートファイター、鉄拳、ギルティギア、大乱闘スマッシュブラザーズといった人気タイトルを競技種目とし、世界中のトッププレイヤーたちが毎年ラスベガスに集結して、その年の最強を決める舞台となってきた。EVOは単なる競技大会を超え、格闘ゲーム文化の中心地であり、プレイヤーやファンにとっての「聖地」とも言える存在だ。新しい戦略や技術が生まれ、コミュニティの結束が深まる場所として、その歴史と伝統は非常に重い。
今回の買収を行ったQiddiyaは、サウジアラビアが推進する巨大なエンターテインメント都市開発プロジェクトの名を冠する企業であり、その背後にはサウジアラビアの政府系ファンドであるPublic Investment Fund (PIF)が存在する。サウジアラビアは近年、「Vision 2030」という国家戦略を掲げ、石油に依存する経済からの脱却を目指している。その中で、観光、エンターテインメント、テクノロジー、そしてeスポーツといった非石油産業への大規模な投資を積極的に行っているのだ。eスポーツは世界中で急速に市場が拡大しており、特に若年層からの関心が高いため、サウジアラビアはこれを新たな国家事業の柱の一つと見なしている。すでに同国は、世界中の著名なゲーム開発会社への投資や、自国での大規模なeスポーツイベントの開催など、この分野に巨額の資金を投じてきた経緯がある。
しかし、このEVOの買収に対して、ゲームニュースメディアのKotakuをはじめとする多くのメディアや人権団体からは「スポーツウォッシング」であるとの厳しい批判が上がっている。スポーツウォッシングとは、国家や企業がスポーツやエンターテインメントといった人気のある活動に多額の投資をすることで、自らのイメージを向上させたり、過去の不都合な事実(例えば人権侵害や環境問題など)から人々の目をそらさせたりしようとする行為を指す。サウジアラビアは、女性の権利、言論の自由、LGBTQ+の権利、そしてジャーナリストの殺害疑惑など、国際社会から長年にわたり厳しい批判を受けてきた歴史がある。このような人権問題の背景を持つ国が、世界中の多様なファンに愛されるEVOのようなイベントを買収することは、自国のイメージを改善し、国際的な批判を和らげるための手段ではないか、という疑念が持たれているのだ。特に、格闘ゲームコミュニティは多様な背景を持つ人々で構成されており、サウジアラビアの人権問題とEVOの関連性について、倫理的な問題意識を持つプレイヤーやファンは少なくない。
EVOの買収がeスポーツ業界、特に格闘ゲームコミュニティにもたらす影響は多岐にわたるだろう。ポジティブな側面としては、Qiddiyaの潤沢な資金力がEVOの規模拡大や運営の質向上に貢献する可能性が挙げられる。より高額な賞金、大規模な会場、最先端の配信技術の導入により、大会としての魅力を一層高めることができるかもしれない。これは、プロプレイヤーの活動を支援し、大会をより洗練されたエンターテインメントへと進化させる可能性を秘めている。
一方で、懸念される点も少なくない。サウジアラビアの価値観や方針がEVOの運営に影響を与える可能性だ。例えば、特定の地域のプレイヤーやスポンサーが排除されたり、イベントの内容が変更されたりするリスクも指摘されている。eスポーツは競技性だけでなく、その独自のアート性や文化的な側面も強く、それが巨大な資本によって変質させられることを危惧する声もある。企業買収は、組織の文化や運営方針に大きな変化をもたらすことが一般的であるため、EVOがこれまで築いてきたコミュニティとの関係性や、イベントが培ってきた精神がどのように維持されるかが今後の大きな焦点となる。
システムエンジニアを目指す皆さんにとって、このニュースはIT業界が単に技術開発を行う場ではないことを示唆している。eスポーツは、ゲーム開発、オンラインプラットフォーム、高速なネットワークインフラ、クラウドコンピューティング、大規模なデータ分析、そしてリアルタイムストリーミング技術など、数多くのIT技術によって支えられている。しかし、その運営やビジネスモデルは、純粋な技術力だけでなく、国際情勢、大規模な資金調達、文化的な理解、そして倫理的な判断といった多角的な要素に大きく左右される。
大規模な投資が、どのように新たなITインフラの導入を可能にし、あるいは既存のシステムにどのような変更をもたらすのか。例えば、買収後には、より堅牢なサーバーシステムの構築、セキュリティの強化、グローバルなデータ管理ポリシーの策定、あるいは新しいストリーミングプラットフォームへの対応など、多岐にわたるITプロジェクトが発生する可能性がある。
また、私たちはどのようなシステムを開発し、それが社会にどのような影響を与えるのかという倫理的な視点を持つことの重要性も、このニュースは教えてくれる。ITのプロフェッショナルとして、技術的な専門知識を磨くだけでなく、グローバルな視点、倫理的な判断力、そして社会全体の動きを理解する能力も養うことが不可欠である。IT業界は単なるコードを書く場ではなく、世界のビジネス、文化、政治が交差する、きわめてダイナミックなフィールドであり、そこには常に新しい挑戦と、時に複雑な問題が存在するのだ。