【ITニュース解説】Shakespeare makes you a better engineer.
2025年09月17日に「Dev.to」が公開したITニュース「Shakespeare makes you a better engineer.」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
システムエンジニアはコードを書く能力だけでなく、無限にある選択肢の中から最適な解決策を見極める「識別力」が重要だ。AIモデルがコードだけでは識別力を伸ばせないように、人間も多様な経験を通じてこの判断力を養う。シェイクスピアの暗唱など一見無関係な活動も、優れたエンジニアになるための判断力を育むのだ。
ITニュース解説
ニュース記事は、システムエンジニアにとって最も重要な能力の一つとして「洞察力(discernment)」を挙げている。これは、物事の本質を見抜き、適切に判断する能力のことである。人工知能(AI)モデルの性能を評価する際にも、この洞察力がいかに優れているかが、そのモデルが実際にどれだけ役立つかを正確に予測する指標となっているという。
ソフトウェアを開発する現場では、構文を正しく書く能力、つまりプログラム言語のルールに沿ってコードを記述する能力は確かに必要不可欠である。しかし、これはエンジニアリングという広範な仕事のほんの一部に過ぎない。構文を理解し、書けることは、優れたシステムエンジニアになるための前提条件であり、それ自体が最終目標ではない。構文は完璧でも、洞察力が不足しているモデルは、より複雑なエンジニアリングの課題に対しては期待に応えられない結果となることが多い。
システムエンジニアという職業の本質は、無限に広がる問題解決の空間の中で、最適な道筋を見つけ出す「パスファインディング」にある。目の前にある問題を解決するために、どのようなアプローチが最適か、どのような設計が望ましいか、どの技術を選ぶべきかなど、解決策へと続く無数の選択肢の中から、常に最善の判断を下していく能力が求められる。これは、単に与えられたタスクをこなすだけでなく、誰もが正解を知らない状況で、自ら最善の道筋を切り開いていくことに他ならない。
特に経験豊富なシニアエンジニアは、この「主観的な判断を下す能力」が平均よりもはるかに優れている。彼らは、問題解決の各段階で複数の選択肢を比較検討し、その都度、状況に応じて最も適切と思われる判断を下す。その結果として導き出される解決策は、多くの場合、最適な道筋に近いものとなる。これは、まるで熟練したレーシングドライバーが、与えられたコースで最も速く走れる「最適なレーシングライン」を瞬時に見つけ出すことに似ている。
AIのコーディングモデルは、高速で、より効率的に、そして安価に動作するように設計されることが多い。そのため、これらのモデルは膨大な量のコードやプログラミングに関する情報のみを使って学習し、強化されている。もし、レーストラックのような明確なルールと限られた選択肢の中で最適な解を見つけるだけであれば、このような訓練方法で十分かもしれない。しかし、プログラミングの問題空間は、レーストラックのように限定されたものではなく、無限に広大である。この無限の空間の中から効率的に最適な道筋を見つけ出すためには、コードに関する知識だけでなく、人間がこれまでに培ってきたあらゆる知識や経験、そして人間そのものが持つ多様な能力が総動員される。
記事は、一見プログラミングとは直接関係ないように見える活動が、実はこの「洞察力」を養う上で非常に重要であると指摘している。例えば、組織的なスポーツに参加すること、シェイクスピアの作品を暗唱すること、聖書の一節を記憶すること、あるいはピアノを演奏することなどである。これらの活動は、直接的にコードを書くスキルを向上させるわけではない。しかし、これらを通じて、人は集中力、パターン認識能力、記憶力、感情の理解、問題解決への多角的なアプローチ、そして何よりも「判断を下す能力」を無意識のうちに磨いている。日々の経験に加え、これらの多様な分野での学びが、物事の本質を見抜き、適切な判断を下す「洞察力」を形成し、洗練させるのである。
このことはAIモデルにも当てはまる。非常に効率的で、特定のタスクに特化して訓練されたモデルは、そのタスクにおいては驚くほど優秀な結果を出すことがある。しかし、単に構文的に正しいコードを生成するだけでなく、より難易度の高い問題に対して、洗練された、つまり「エレガントな解決策」を見つけ出すこととなると、話は変わってくる。記事ではこれを「深夜3時におむつを替える方法を知っている」ことと例えているが、これは、単なる知識や技術の羅列ではなく、現実世界での複雑な状況判断や、予期せぬ事態への対応、感情的な側面を含んだ問題解決能力といった、より広範な経験から得られる「洞察力」が不可欠であることを示唆している。つまり、システムエンジニアを目指す上では、技術的な知識の習得はもちろん重要だが、それだけでなく、多様な経験を通じて「洞察力」を養うことが、真に優れたエンジニアへと成長するための鍵となるのである。