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【ITニュース解説】Britain’s ‘Sunbird’ Rocket Says Mars in a Month. Really?

2025年09月08日に「Medium」が公開したITニュース「Britain’s ‘Sunbird’ Rocket Says Mars in a Month. Really?」について初心者にもわかりやすく解説しています。

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ITニュース概要

英国のPulsar Fusion社が、核融合推進ロケット「Sunbird」を開発している。従来の技術を大幅に超える速度を実現し、火星への到達時間を従来の半分以下に短縮することを目指す。この新技術が宇宙探査に革新をもたらすか注目される。

ITニュース解説

現在の宇宙探査では、最も近い惑星である火星へ到達するまでに半年から9ヶ月もの長い時間を要する。この長い航行期間は、宇宙飛行士の被ばく量増加や物資補給の困難さなど、有人火星探査における大きな障壁となっている。この課題を根本から解決する可能性を秘めた新しい技術として、英国のPulsar Fusion社が開発を進めている「核融合ロケット」が注目を集めている。この技術は、宇宙船の速度を劇的に向上させ、火星までの移動時間を現在の半分、将来的にはわずか1ヶ月に短縮することを目指す野心的なプロジェクトである。

現在主流のロケットは、燃料と酸化剤を燃焼させて発生する高温ガスを噴射し、その反作用で推進力を得る「化学ロケット」である。この方式は短時間で大きな推力を得られる利点があるが、大量の燃料を必要とし、燃費、すなわち推進剤の噴射速度には限界がある。そのため、一度加速すると後は慣性で飛行することが多く、長距離の移動に時間がかかっていた。これに対し、Pulsar Fusion社が開発する「サンバード」と呼ばれる推進システムは、「直接核融合駆動(Direct Fusion Drive, DFD)」という方式を採用している。これは、太陽の中心で起きているエネルギー発生の仕組みと同じ「核融合」を利用するものである。核融合とは、水素のような軽い原子の原子核同士を、超高温・超高圧の状態で衝突させて融合させ、ヘリウムのようなより重い原子核に変える反応のことである。この過程で、質量のほんの一部が莫大なエネルギーに変換される。核融合ロケットは、この反応によって生成された摂氏数億度にも達するプラズマ(原子核と電子が電離した状態のガス)を、強力な磁場を使って制御し、ノズルから直接高速で噴射することで推進力を得る。化学ロケットと比較して、核融合ロケットは桁違いに高い噴射速度を実現できる。これは「比推力」という指標で表され、燃料効率の良さを示す。比推力が高いエンジンは、少ない燃料で長期間にわたって加速し続けることができるため、最終的に到達できる速度が化学ロケットとは比較にならないほど高くなる。同社が掲げる時速約53万キロメートルという目標速度は、この高い比推力によって実現されるものである。

火星まで1ヶ月という目標は魅力的だが、その実現には極めて高い技術的ハードルが存在する。最大の課題は、核融合反応を宇宙船という限られた空間内で、安定して持続させることである。地上にある巨大な実験施設でさえ、核融合エネルギーを安定して取り出すことはまだ実現できておらず、世界中の研究者が開発を競っている段階にある。これを小型・軽量なロケットエンジンとして実用化するには、数々のブレークスルーが必要となる。また、数億度の超高温プラズマを扱う技術も非常に困難である。プラズマがエンジンの壁に少しでも触れれば、壁は一瞬で蒸発してしまう。そのため、強力な磁場を用いてプラズマを真空中に閉じ込める「磁場閉じ込め」という技術が不可欠となる。この磁場を生成・制御するためには、超電導磁石や高度な制御システムが必要であり、大量の電力も消費する。さらに、核融合反応は中性子などの放射線を発生させるため、乗員や精密な電子機器を防護するための重厚な放射線遮蔽も必須となる。この遮蔽は宇宙船全体の重量を増加させる要因となり、推進システムの設計に大きな制約を与える。これらの課題を解決し、安全性と信頼性を確保した上で、実際に宇宙を航行できるエンジンを開発する道のりは、決して平坦ではない。

この核融合ロケット開発は、物理学や材料工学だけでなく、システムエンジニアリングやソフトウェア技術が核心的な役割を担うプロジェクトである。超高温プラズマをナノ秒単位で精密に制御するシステムは、センサーからの膨大なデータをリアルタイムで処理し、磁場コイルへの出力を最適化する高度なフィードバック制御ソフトウェアによって実現される。エンジンの設計段階では、複雑なプラズマの挙動や熱の流れを予測するため、スーパーコンピュータを用いた大規模な物理シミュレーションが不可欠であり、そのためのシミュレーションモデルの開発や解析も重要となる。さらに、宇宙船全体を統合するシステムも複雑を極める。核融合炉、電力供給システム、推進システム、生命維持装置、航法システムなど、多数のサブシステムが相互に連携して動作する必要がある。これらのシステムを安定して稼働させ、異常発生時には自律的に問題を検知し、対処するフォールトトレラントなシステム設計が求められる。また、地球との通信が困難な深宇宙空間で活動するため、宇宙船の自律的な判断能力を高めるAI技術の導入も検討されるだろう。放射線が飛び交う過酷な環境で正常に動作し続ける、耐放射線性を備えたハードウェアとソフトウェアの設計も、プロジェクトの成否を分ける重要な要素となる。Pulsar Fusion社の挑戦は、まだ基礎研究の段階を脱していない部分も多いが、もし実現すれば、人類の活動範囲を太陽系全体へと広げるための重要な一歩となる。この壮大な目標に向けた開発プロセスそのものが、制御工学、シミュレーション技術、高信頼性システム設計といったIT分野における新たな技術革新を促進する原動力となるだろう。

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