【ITニュース解説】テレワークで管理職の不安は増加、従業員とのギャップが鮮明に　パーソル総合研究所が調査

現代の働き方において「テレワーク」という言葉は、もはや特別なものではなくなった。オフィスに出社せず、自宅やカフェなど、場所にとらわれずに働くスタイルを指すこの働き方は、IT技術の進化とともに多くの企業で導入が進んだ。特にパンデミックをきっかけに急速に広まり、その利便性や柔軟性が注目された。しかし、最近の調査によると、このテレワークを巡る状況に変化が見られている。大手企業を中心にテレワークの実施率が低下し、「原則出社」を求める動きが強まっているというのだ。この動きの背景には、管理職が抱える様々な不安や課題があり、従業員との間で意識のギャップが広がっていることが明らかになっている。システムエンジニアを目指す皆さんにとって、こうした働き方の変化は、将来のキャリアや仕事環境に直結する重要なテーマとなるだろう。

パーソル総合研究所が発表した調査結果は、特に従業員1万人以上の大企業において、テレワークの実施率が低下傾向にあることを示している。これは、一度普及したテレワークが、再びオフィス中心の働き方へと回帰しつつある現状を浮き彫りにするものだ。多くの企業が「原則出社」の方針を打ち出し、従業員に対してオフィスでの勤務を推奨、あるいは義務付けるケースが増えている。この背景には、企業がテレワークのメリットだけでなく、デメリットや課題も肌で感じるようになったことがある。一時的な措置として導入されたテレワークが、長期的な視点で企業の生産性や組織文化に与える影響を評価し直した結果と言える。

このテレワークから出社への回帰の動きを牽引している主な要因の一つが、管理職がテレワーク環境下で抱える不安と課題である。管理職は、チーム全体の目標達成とメンバーの育成に責任を持つ立場だ。テレワーク環境では、以下のような具体的な問題に直面することが多い。

まず、「部下の状況把握」の難しさがある。オフィスであれば、部下の顔色やちょっとした会話から、業務の進捗状況や精神的な変化を察知しやすかった。しかし、リモート環境では、意図的に連絡を取らない限り、部下の状況が見えにくくなる。特に、新入社員や経験の浅いメンバーにとっては、気軽に相談できる機会が減り、孤立感を感じやすくなる場合もある。

次に、「コミュニケーションの質の低下」も大きな懸念事項だ。テキストベースのチャットやビデオ会議だけでは、偶発的な雑談や非公式な情報共有が生まれにくい。これにより、チーム内の連帯感や一体感が薄れ、イノベーションにつながるような自由な意見交換が阻害される可能性がある。管理職としては、チームビルディングやモチベーション維持が困難になると感じる。

さらに、「適切な評価制度の構築」も課題となる。オフィス勤務では、業務プロセスや協力体制、勤務態度なども評価の対象となりやすかったが、テレワークでは成果主義が強まりがちだ。しかし、全ての業務が成果のみで評価できるわけではなく、特にチームで協働するプロジェクト型の業務では、個々の貢献度を公平に測ることが難しい場合がある。

「セキュリティ対策」も管理職にとって頭の痛い問題だ。従業員が自宅のネットワークや個人所有のデバイスを使って業務を行う場合、企業の情報資産が不正アクセスや情報漏洩のリスクに晒される可能性が高まる。管理職は、情報セキュリティポリシーの徹底や、適切なツールの導入と運用について常に気を配る必要がある。システムエンジニアを目指す皆さんにとっても、情報セキュリティは非常に重要な知識分野となる。

このように管理職が多くの不安を抱える一方で、従業員側、特に若い世代やシステムエンジニアのような専門職種では、テレワークに対して異なる認識を持っていることが多い。従業員にとっては、通勤時間の削減、ワークライフバランスの向上、集中しやすい環境の確保など、テレワークには多くのメリットがあると感じられる。実際に、通勤によるストレスがなくなり、その分の時間を自己学習や家族との時間にあてられるため、生産性が向上したと感じる人も少なくない。

しかし、管理職の視点から見ると、これらのメリットが組織全体の生産性やチームの一体感にどう貢献しているのかが見えにくく、かえってマネジメントの負荷が増大していると感じる。この認識のズレこそが、今回明らかになった「ギャップ」の本質である。従業員は柔軟な働き方を求め、管理職は組織としての統制や生産性の維持・向上に悩む。この両者の溝を埋めることが、今後の働き方を考える上で極めて重要となる。

システムエンジニアを目指す皆さんにとって、このテレワークを巡る議論は特に重要な意味を持つ。システム開発の多くは、PCとネットワークがあれば場所を選ばずに実施できる。クラウド環境や各種開発ツール、コミュニケーションツールを活用すれば、リモートであっても高い生産性を維持できる可能性がある。

しかし、それは同時に、適切な環境構築とセキュリティ対策が不可欠であることを意味する。リモートで開発を進めるためには、セキュアなVPN接続、クラウドベースの開発環境、バージョン管理システム、タスク管理ツール、ビデオ会議システムなど、様々なITインフラやツールを使いこなすスキルが求められる。また、ネットワークの安定性や、自宅の作業環境の整備も重要になる。

さらに、システムエンジニアは、単にコードを書くだけでなく、チームメンバーとの連携、要件定義のための顧客との対話、問題解決のための議論など、多岐にわたるコミュニケーションを必要とする。テレワーク環境下でも、これらのコミュニケーションを円滑に進めるための工夫や、オンラインでの協調作業スキルが不可欠だ。管理職の不安の一つである「コミュニケーションの質の低下」は、システムエンジニアの業務にも影響を与えるため、積極的にオンラインでのコラボレーションを促進する役割も担うことになる。

テレワークの普及は、働き方に大きな変革をもたらしたが、その運用にはまだ多くの課題が残されている。特に、管理職の不安と従業員の期待との間に生じたギャップは、企業が今後の働き方を検討する上で無視できない要素だ。システムエンジニアを目指す皆さんは、こうした働き方の変化を単なるトレンドとして捉えるのではなく、IT技術がどのように働き方を支え、またどのような課題を生み出すのかを深く理解する必要がある。

これからの企業は、テレワークのメリットを最大限に活かしつつ、デメリットを克服するための新たなマネジメント手法やITソリューションを模索していくことになるだろう。例えば、より高度なプロジェクト管理ツールや、従業員のエンゲージメントを高めるためのオンライン施策、セキュリティを強化する技術導入などが考えられる。システムエンジニアとして、こうした新しい働き方を技術的に支え、より効率的で安全な環境を構築する役割は、今後ますます重要になる。オフィスとリモートのハイブリッド型勤務が主流となる中で、ITの力でどのように組織の課題を解決し、生産性を向上させていくか。この問いに答えを出すことが、これからのシステムエンジニアに求められる大きな挑戦となるだろう。