【ITニュース解説】TypeScript + Phaser で古典的なゲームAIを実装してみた
2025年09月08日に「Zenn」が公開したITニュース「TypeScript + Phaser で古典的なゲームAIを実装してみた」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
TypeScriptとゲームフレームワークPhaserを使い、Webゲームを開発。索敵や攻撃など、ルールに従ってキャラクターが自律的に行動する古典的なゲームAIの実装方法を解説。ゲームAIの基礎を学ぶための実践的な内容である。(118文字)
ITニュース解説
Web技術の進化に伴い、ブラウザ上で動作する高品質なゲーム開発が活発になっている。その中でも、ゲーム内のキャラクターに知能を持たせ、自律的に行動させる「ゲームAI」は、プレイヤーに豊かな体験を提供するための重要な要素である。今回紹介する技術記事は、プログラミング言語「TypeScript」とゲーム開発フレームワーク「Phaser」を用いて、古典的なゲームAIをWebゲームに実装した事例を解説している。
この記事で開発されたゲームでは、タコやイカといったキャラクターが、特定のプログラムに従って動くだけでなく、周囲の状況を自ら判断して行動を選択する。例えば、マップ上を探索し、敵キャラクターを発見すると追跡して攻撃する。自身のヒットポイントが減少すれば、回復アイテムを探しに向かう。このような一連の行動は、「ルールベース」と呼ばれる古典的なAIの手法によって実現されている。ルールベースAIとは、「もし敵が視界に入ったら、攻撃する」「もしHPが30%未満になったら、退却する」といったように、「条件」と「行動」を組み合わせた単純なルールの集合体で、キャラクターの複雑な振る舞いを構築する考え方である。
このAIの具体的な設計パターンとして、記事では「ステートマシン」と「ビヘイビアツリー」という二つの代表的な手法が紹介されている。ステートマシンは、キャラクターの行動を「状態(ステート)」という単位で管理する手法である。例えば、「平常状態」「追跡状態」「攻撃状態」「アイテム探索状態」といった状態を定義し、それぞれの状態で実行する処理をあらかじめ決めておく。そして、特定の条件が満たされると、ある状態から別の状態へ「遷移」する。HPが一定以下になるという条件で「攻撃状態」から「アイテム探索状態」へ遷移する、といった具合だ。この手法は構造が単純で理解しやすいが、状態の種類が増えすぎると、状態間の遷移ルールが複雑に絡み合い、管理が困難になるという課題がある。
このステートマシンの課題を克服するための一つのアプローチが「ビヘイビアツリー」である。ビヘイビアツリーは、キャラクターの行動判断のロジックを木構造で表現する手法だ。このツリーは「ノード」と呼ばれる命令の単位で構成される。例えば、「敵が近くにいるか?」を判断する条件ノードや、「敵を攻撃する」といった具体的な行動を実行するアクションノードなどがある。これらのノードを「シーケンス」や「セレクター」といった制御用のノードで組み合わせることで、複雑な判断ロジックを構築する。「シーケンス」は、子ノードを順番に実行し、一つでも失敗したら処理を中断する。「セレクター」は、子ノードを順番に試し、一つでも成功したらその時点で処理を終了する。この仕組みにより、「まず敵への攻撃を試み(シーケンス)、それが不可能なら(セレクター)、次にアイテムを探し、それもなければ周囲を探索する」といった優先順位を持った柔軟な行動選択が可能になる。ステートマシンに比べて再利用性や拡張性が高く、より複雑で知的なAIを体系的に設計できる。
記事で紹介されているゲームでは、このビヘイビアツリーの考え方を採用し、TypeScriptで実装されている。使用されている技術のTypeScriptは、JavaScriptを拡張した言語であり、静的型付けという特徴を持つ。これにより、開発中にエラーを発見しやすくなり、大規模なプログラムでも品質を保ちながら効率的に開発を進めることができる。また、ゲーム開発の基盤となっているPhaserは、2Dゲーム制作に必要な描画処理や物理演算、入力受付といった機能を豊富に提供するフレームワークであり、開発者はゲームのロジックやAIの実装といった本質的な部分に集中できる。
このゲームAIの実装事例は、システムエンジニアを目指す者にとっても多くの学びがある。一見、ゲーム開発は特殊な分野に見えるかもしれないが、その根底にあるのは、複雑な要求を整理し、論理的な構造に落とし込んでプログラムとして実現するという、システム開発全般に共通する思考プロセスである。ルールベースの考え方や、ステートマシン、ビヘイビアツリーといった設計パターンは、Webサービスのユーザーの状態管理や、複雑な業務フローを自動化するシステムの設計など、様々なIT分野で応用可能な知識と言える。一つの課題に対し、適切な技術(TypeScript, Phaser)を選定し、設計パターンを駆使して解決策を実装していく一連の流れは、まさにシステムエンジニアの仕事そのものである。