【ITニュース解説】第868回 UbuntuでAMD Radeon RX 9060 XTを使用する
ITニュース概要
Linux OSのUbuntu 24.04で、AMD製グラフィックボード「Radeon RX 9060 XT」を動かす手順を解説。小型PCへの取り付けからOS上でのドライバ設定まで、ハードとソフト両面での導入方法がわかる。
ITニュース解説
Ubuntuというオペレーティングシステム(OS)上で、AMD社の比較的新しいグラフィックボードである「Radeon RX 9060 XT」を正常に動作させるための具体的な手順と、その背景にある技術的な仕組みについて解説する。この記事は、ASRock社の「DeskMeet X300」という小型のパソコンキットに、このグラフィックボードを組み込み、最新の長期サポート版である「Ubuntu 24.04 LTS」をインストールするケースを想定している。コンピュータがどのようにして新しい部品を認識し、その性能を最大限に引き出すのかを理解することは、システムエンジニアを目指す上で非常に重要な知識となる。 パソコンの動作は、OSと、CPUやメモリ、グラフィックボードといったハードウェアが協調することで成り立っている。OSが各ハードウェアを制御し、その能力を利用するためには、「デバイスドライバ」と呼ばれる特別なソフトウェアが必要不可欠だ。ドライバは、OSからの抽象的な命令を、個々のハードウェアが理解できる具体的な命令へと翻訳する通訳のような役割を担う。特に、高度な3Dグラフィックス処理や並列計算を行うグラフィックボードは、その性能を完全に引き出すために専用の高性能なドライバが求められる。 Linuxディストリビューションの一つであるUbuntuは、オープンソースコミュニティを中心に開発が進められている。そのため、市場に登場したばかりの最新ハードウェアへの対応は、OSに含まれるカーネルやドライバのバージョンに依存する。LinuxカーネルはOSの中核部分であり、ハードウェアの認識や基本的な制御を司っている。今回使用するUbuntu 24.04 LTSは、「LTS(Long Term Support)」という名の通り、5年間の長期的なサポートが保証された安定版であり、企業システムや開発環境で広く採用されている。このバージョンは比較的新しいLinuxカーネルを搭載しているため、最新ハードウェアへの対応も期待できる。 まず、物理的な準備として、小型PCキットであるDeskMeet X300にRadeon RX 9060 XTを正しく取り付ける必要がある。自作PCと同様に、ハードウェアが物理的に正しく接続されていなければ、ソフトウェア側でどれだけ設定を行っても認識されることはない。 次に、Ubuntu 24.04 LTSをPCにインストールする。インストール直後の段階では、OSは基本的な画面表示機能を使ってデスクトップ環境を表示するが、この時点ではまだグラフィックボードの持つ高度な3Dアクセラレーション機能や計算能力が有効になっていない場合がある。 ここで重要になるのが、先述のデバイスドライバである。AMD Radeonグラフィックボードの場合、Linux環境では主に二種類のドライバが存在する。一つは、Linuxカーネルや「Mesa」と呼ばれる3Dグラフィックスライブラリに含まれるオープンソースのドライバ群だ。これらは世界中の開発者の協力によって開発されており、多くの場合、標準の状態で高い性能と安定性を提供する。もう一つは、AMD自身が提供するプロプライエタリなドライバ(AMDGPU-PRO)で、特定の業務用途や最新機能への対応を目的としている。 近年のUbuntuでは、オープンソースドライバの完成度が非常に高まっており、特別な理由がない限りはこちらを利用することが推奨される。Ubuntu 24.04 LTSは、新しいバージョンのLinuxカーネルとMesaを標準で採用しているため、Radeon RX 9060 XTのような新しいグラフィックボードも、特別なドライバを追加でインストールすることなく、OSのインストールだけで自動的に認識され、利用可能になる可能性が高い。 ただし、ドライバだけでは不十分な場合がある。ハードウェアを初期化し、正しく動作させるためには、「ファームウェア」と呼ばれる低レベルのソフトウェアも必要だ。このファームウェアはハードウェアメーカーによって提供され、OS起動時にカーネルによってグラフィックボードに読み込まれる。Linuxでは通常、「linux-firmware」というパッケージに各社ハードウェアのファームウェアがまとめられており、最新のグラフィックボードに対応するためには、このパッケージが最新の状態であることが望ましい。Ubuntu 24.04 LTSには、RX 9060 XTに対応したファームウェアが含まれているため、多くの場合、ユーザーが意識することなく読み込みは完了する。 実際にグラフィックボードが正しく認識され、適切なドライバが適用されているかを確認する作業は、システム管理の基本である。`lspci -k`というコマンドを実行すれば、システムに接続されているPCIデバイスの一覧と、それぞれに適用されているカーネルドライバを確認できる。また、`dmesg`コマンドでカーネルの起動ログを調べることで、起動中にファームウェアの読み込みに失敗していないかといった詳細な情報を得ることが可能だ。さらに、`glxinfo | grep "OpenGL renderer"`といったコマンドを使えば、3Dグラフィックス機能がどのグラフィックボードによって提供されているかを確認でき、設定が正しく完了したことを確かめられる。 UbuntuをはじめとするLinux環境で最新の高性能グラフィックボードを利用できることには、大きな意義がある。近年、AI開発や機械学習、科学技術計算といった分野では、グラフィックボードの持つ膨大な数の計算コアを利用した並列計算(GPGPU)が不可欠となっている。多くの開発ツールやライブラリがLinux環境を前提として開発されているため、安定したUbuntu上で最新のグラフィックボードがスムーズに動作することは、研究開発の効率を大幅に向上させる。また、オープンソースのドライバによってハードウェアがサポートされることは、特定の企業に依存しない、透明で持続可能な開発エコシステムを象徴している。 初心者にとって、こうしたハードウェアのセットアップやドライバの確認作業は、コンピュータの内部構造を学ぶ絶好の機会となる。OS、カーネル、ドライバ、ファームウェア、そしてハードウェアが、どのように連携して一つのシステムとして機能しているのかを具体的に知ることができる。問題が発生した際に、ログを読み解き、原因を特定して解決するという一連のトラブルシューティングの経験は、システムエンジニアとしてキャリアを築く上で極めて価値のあるスキルとなるだろう。