アモルファスシリコン(アモルファスシリコン)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

アモルファスシリコン(アモルファスシリコン)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

作成日: 更新日:

読み方

日本語表記

アモルファスシリコン (アモルファスシリコン)

英語表記

amorphous silicon (アモルファスシリコン)

用語解説

アモルファスシリコンは、非晶質シリコンとも呼ばれ、半導体材料であるシリコンの一種である。通常の半導体デバイス、例えばCPUやメモリに使用されるシリコンは、単結晶シリコンと呼ばれ、原子がダイヤモンド格子と呼ばれる規則正しい結晶構造を形成している。これに対してアモルファスシリコンは、原子の配列に規則性がなく、ランダムなネットワーク構造を持つ。この原子配列の不規則性が、アモルファスシリコンの物理的、電気的な特性を決定づける最も重要な要素である。システムエンジニアとしてハードウェアの基礎を理解する上で、特にディスプレイ技術やセンサー技術の分野で広く利用されるこの材料の知識は非常に重要となる。

アモルファスシリコンの構造的な特徴は、原子が規則正しく並んでいないために、一部のシリコン原子が結合すべき相手を持たない「未結合手」、すなわちダングリングボンドを多数内包することである。このダングリングボンドは、半導体内を移動する電子や正孔といったキャリアを捕獲する欠陥準位として働き、半導体としての電気的特性を著しく劣化させる原因となる。そのため、純粋なアモルファスシリコンは実用的な半導体材料として利用することが難しい。この問題を解決するために、製造プロセスにおいて水素を導入する手法が開発された。水素原子はダングリングボンドと結合し、その電気的な悪影響を打ち消す役割を果たす。この処理を水素化と呼び、水素化されたアモルファスシリコンは「水素化アモルファスシリコン(a-Si:H)」として知られる。現在、一般的にアモルファスシリコンとして利用されている材料のほとんどが、この水素化アモルファスシリコンである。

アモルファスシリコンのもう一つの重要な特性は、その光学特性にある。単結晶シリコンのバンドギャップが約1.1eVであるのに対し、アモルファスシリコンのバンドギャップは約1.7eVと広い。これにより、可視光領域における光の吸収係数が単結晶シリコンに比べて一桁以上大きいという特徴を持つ。これは、非常に薄い膜厚でも効率的に光を吸収できることを意味し、薄膜太陽電池や光センサーといった応用において大きな利点となる。

アモルファスシリコンの製造には、主にプラズマCVD法(化学気相成長法)が用いられる。この方法では、シラン(SiH4)などの原料ガスを導入した真空チャンバー内でプラズマを発生させ、ガスを分解する。分解されて生成したシリコンなどの原子が、ガラスやプラスチックといった基板上に堆積し、薄い膜を形成する。このプロセスの大きな利点は、成膜を200℃から400℃程度の比較的低い温度で行える点にある。高温プロセスを必要とする単結晶シリコンとは異なり、安価なガラス基板や耐熱性の低いプラスチックフィルム上にも成膜が可能である。さらに、プラズマCVD法は広範囲にわたって均一な膜を形成することを得意とするため、大面積の基板への適用が容易である。この低温・大面積・低コストという製造上の利点が、アモルファスシリコンの普及を後押しした最大の要因である。

IT分野におけるアモルファスシリコンの最も代表的な応用例は、液晶ディスプレイ(LCD)や有機ELディスプレイ(OLED)のバックプレーンに用いられる薄膜トランジスタ(TFT)である。ディスプレイは多数の画素(ピクセル)で構成されており、各画素の明るさや色を個別に制御する必要がある。アモルファスシリコンTFTは、この各画素に配置された微細なスイッチとして機能し、電圧を印加することで液晶の向きを変えたり、有機EL素子を発光させたりする役割を担う。アモルファスシリコンは、電子移動度こそ多結晶シリコンなど他の材料に劣るものの、大画面のガラス基板上に安価かつ均一にTFTアレイを形成できるため、大型テレビからスマートフォンまで、あらゆるディスプレイの大量生産を可能にした。

その他の応用分野としては、前述の光学特性を活かした薄膜太陽電池が挙げられる。軽量で曲げることも可能なフレキシブル太陽電池や、建物の窓や壁に設置する建材一体型太陽電池など、多様な形態での利用が進んでいる。また、大面積化が容易な特性から、医療分野で用いられるデジタルX線撮影装置のフラットパネルディテクター(FPD)のような、大面積イメージセンサーの材料としても不可欠な存在である。これらのデバイスは、アモルファスシリコンが持つ、低コストで大面積の電子デバイスを製造できるという独自の価値によって支えられている。