ソフトウェアエンコーダ (ソフトウェアエンコーダ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
ソフトウェアエンコーダ (ソフトウェアエンコーダ) の読み方
日本語表記
ソフトウェアエンコーダ (ソフトウェアエンコーダー)
英語表記
software encoder (ソフトウェアエンコーダー)
ソフトウェアエンコーダ (ソフトウェアエンコーダ) の意味や用語解説
ソフトウェアエンコーダは、コンピュータのCPUやGPUといった汎用プロセッサの処理能力を利用して、映像や音声などのデジタルデータを特定の形式へ変換、すなわちエンコード処理を実行するソフトウェアである。エンコードの主な目的は、データのサイズを圧縮することにある。元の巨大な映像・音声データを圧縮することで、ストレージへの保存効率を高めたり、インターネット経由でのストリーミング配信をスムーズに行ったりすることが可能になる。この処理は、映像や音声を取り扱うあらゆる場面で不可欠な技術となっている。ソフトウェアエンコーダは、専用のハードウェアを必要とせず、一般的なコンピュータ上でプログラムとして動作するため、導入コストが低く、機能の追加や更新が容易であるという柔軟性の高さが最大の特徴である。 エンコードの具体的な処理について解説する。映像データは、静止画の連続であるフレームから構成されている。ソフトウェアエンコーダは、これらのフレームに含まれる冗長な情報を削減することでデータを圧縮する。例えば、連続するフレーム間で変化の少ない背景部分などの情報は、差分のみを記録することでデータ量を大幅に削減できる。これはフレーム間予測と呼ばれる技術である。また、一枚のフレーム内においても、似たような色の領域をまとめて表現するフレーム内予測などの技術を用いて圧縮を行う。さらに、人間の目には識別しにくい細かな色の違いなどの情報を間引く処理も行われる。音声データに関しても同様に、人間の聴覚特性を利用して圧縮が行われる。人は特定の周波数の音が大きいと、その周辺にある小さな音が聞こえにくくなる性質がある。このマスキング効果を利用し、聞こえにくいと判断された音声情報を削減することで、音質を大きく損なうことなくデータ量を圧縮する。これらの複雑な計算処理を、ソフトウェアエンコーダはCPUやGPUのリソースを駆使して実行する。 ソフトウェアエンコーダの用途は多岐にわたる。最も身近な例は、動画のライブストリーミング配信である。配信者がカメラで撮影した映像とマイクで収録した音声を、リアルタイムでエンコードし、視聴者へ向けて送信する。この処理を担うのが、OBS Studioに代表される配信ソフトウェアに内蔵されたソフトウェアエンコーダである。また、動画編集ソフトウェアにおいても重要な役割を果たす。編集が完了した映像を、YouTubeなどのプラットフォームに適したMP4形式や、その他の形式の動画ファイルとして書き出す際に、ソフトウェアエンコーダが使用される。ビデオ会議システムも、各参加者のコンピュータ上でソフトウェアエンコーダを動作させ、映像と音声をリアルタイムに圧縮・伝送することで、円滑なコミュニケーションを実現している。他にも、既存の動画ファイルを別のデバイスで再生可能な形式に変換するトランスコーディング作業などでも活用される。 ソフトウェアエンコーダの利点は、前述の通り、その柔軟性と拡張性にある。H.264/AVCやH.265/HEVC、AV1といった新しい映像圧縮規格(コーデック)が登場した際も、ソフトウェアをアップデートするだけで対応が可能である。また、画質やビットレートに関する詳細なパラメータ設定や、複数の映像を合成するような高度な処理もプログラムで実装しやすいため、機能が豊富である点も強みと言える。一方で、欠点も存在する。最大の課題は、CPUやGPUへの処理負荷が高いことである。特に、4Kのような高解像度・高フレームレートの映像をリアルタイムでエンコードする場合、コンピュータに高い性能が要求され、性能が不足すると処理の遅延やフレーム落ちが発生する原因となる。また、処理中はプロセッサを常に高負荷状態で使用するため、消費電力が大きくなる傾向がある。 ソフトウェアエンコーダとしばしば比較されるのが、特定のエンコード処理に特化した専用の半導体チップであるハードウェアエンコーダである。ハードウェアエンコーダは、処理が高速で安定しており、消費電力も低いという利点を持つが、対応するコーデックが限定的で、機能の拡張が難しいという制約がある。近年では、Intel Quick Sync VideoやNVIDIA NVENCのように、CPUやGPUに内蔵されたハードウェアエンコード機能をソフトウェアから利用するハイブリッドなアプローチが主流となっている。これにより、ソフトウェアの柔軟性を保ちつつ、ハードウェアによる高速処理の恩恵を受けることが可能になった。システムエンジニアとしては、これらの特性を理解し、構築するシステムの要件、例えば品質、速度、コスト、柔軟性などを総合的に考慮して、最適なエンコード方式を選択する能力が求められる。