ソリッドモデル (ソリッドモデル) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
ソリッドモデル (ソリッドモデル) の読み方
日本語表記
ソリッドモデル (ソリッドモデル)
英語表記
Solid model (ソリッドモデル)
ソリッドモデル (ソリッドモデル) の意味や用語解説
ソリッドモデルとは、3次元CAD(Computer Aided Design)システムにおいて、物体の形状を完全に表現するためのデータモデルの一つである。これは、設計対象の物体が内部に詰まった中身のある状態、すなわち「ソリッド(固体)」として表現されることを特徴とする。システムエンジニアを目指す上で、製造業や建設業など様々な分野で利用される設計・生産システムを理解する上で、このソリッドモデルの概念は非常に重要となる。 ソリッドモデルが登場する以前の3次元CADは、主にワイヤーフレームモデルやサーフェスモデルを利用していた。ワイヤーフレームモデルは、物体の稜線(エッジ)と頂点のみを線で表現する方式で、透明な骨組みのように見える。この方式では、物体の表面や内部の情報を持たないため、中身があるのか、穴が開いているのか、あるいは単なる線の集まりなのかといった判別が困難で、複雑な形状では視覚的な把握も難しかった。次に登場したサーフェスモデルは、ワイヤーフレームに面情報を追加し、物体の表面を表現できるようにはなったが、あくまで表面の情報のみであり、内部が詰まっているかどうかは判断できなかった。例えば、表面が閉じているだけの球と、中身が詰まった球を区別することは困難であった。 これに対してソリッドモデルは、物体の外形だけでなく、その内部までも含めて「体積」を持つ存在として情報を保持する。これにより、コンピュータ上で設計されたモデルが実際に存在する物体と同じ性質を持つようになる。例えば、ソリッドモデルからは正確な体積、質量、重心などの物理的な特性を計算することが可能になる。これは、後の製造工程や物理シミュレーションにおいて極めて重要な情報となる。 ソリッドモデルの内部表現には、主に「境界表現(B-rep:Boundary Representation)」と「構成ソリッドジオメトリ(CSG:Constructive Solid Geometry)」の二つの方式がある。 境界表現(B-rep)は、物体の表面を構成する面(フェイス)、その面を構成するエッジ(稜線)、そしてエッジを構成する頂点(バーテックス)の集合と、それらの間の接続関係(トポロジー情報)によって形状を定義する方式である。例えば、立方体であれば6つの面、12のエッジ、8つの頂点とその間のつながりをデータとして保持する。B-repは、複雑な形状や自由曲面を柔軟に表現できる利点があり、現在の多くの商用CADシステムで採用されている主要な方式である。 一方、構成ソリッドジオメトリ(CSG)は、あらかじめ定義された基本的な図形要素(プリミティブ、例えば立方体、球、円柱、円錐など)を組み合わせ、ブール演算と呼ばれる集合演算(和集合、差集合、積集合)を適用して、より複雑な形状を生成する方式である。例えば、円柱から別の円柱を差集合で除去することで穴を開けたり、立方体に球を和集合で結合して角を丸めたりする。CSGは、形状の履歴が明確に残り、直感的な操作で形状を作成できる利点があるが、非常に複雑な自由曲面の表現には向かない場合がある。実際のCADシステムでは、これらの方式が組み合わせて使われることも多い。 ソリッドモデルの最大の利点は、その完全な形状情報にある。これにより、以下のような様々な高度な機能が実現される。第一に、設計された部品が他の部品と物理的に干渉しないかを確認する「干渉チェック」が正確に行える。これは、複数の部品を組み合わせて製品を作る際に、組み立て上の問題を防ぐために不可欠である。第二に、有限要素法(FEM:Finite Element Method)などのエンジニアリング解析(CAE:Computer Aided Engineering)との連携が容易になる。物体にかかる力や熱の伝わり方などをシミュレーションし、設計の妥当性を検証することが可能となる。第三に、CAM(Computer Aided Manufacturing)システムと連携し、NC工作機械(CNC:Computer Numerical Control)での加工プログラムを自動生成したり、3Dプリンターでの造形データを準備したりと、直接的な製造プロセスへの橋渡しが可能となる。ソリッドモデルはこれらの解析や製造の基盤データとなるため、設計から製造、そして製品ライフサイクル管理(PLM:Product Life Cycle Management)全体にわたるデジタルツインの実現に不可欠な要素となっている。 しかし、ソリッドモデルにも課題はある。ワイヤーフレームやサーフェスモデルに比べて、保持する情報量が格段に多いため、データサイズが大きくなり、それを取り扱うコンピュータの処理能力やメモリ容量がより多く必要となる。また、非常に複雑な自由曲面、例えば自動車のボディのような滑らかな曲面の表現や編集においては、特に初期のソリッドモデリング技術では限界があったが、今日のCADシステムはサーフェスモデリング技術と統合されることで、この課題は大幅に改善されている。 システムエンジニアがソリッドモデルを理解することは、製造業向けのCAD/CAM/CAEシステムやPLMシステムの開発・導入・保守に携わる上で不可欠である。これらのシステムは、企業の製品開発プロセスの中核を担い、ソリッドモデルはその心臓部にあたる。デジタル設計と製造の基盤として、ソリッドモデルは現代のモノづくりを支える重要なIT技術の一つと言えるだろう。