静的テスト (セイテキテスト) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
静的テスト (セイテキテスト) の読み方
日本語表記
静的テスト (セイテキテスト)
英語表記
Static testing (スタティックテスティング)
静的テスト (セイテキテスト) の意味や用語解説
静的テストは、ソフトウェア開発における品質保証活動の一つであり、プログラムを実際に実行することなく、その設計書やソースコードなどの成果物を検証するテスト技法である。実際にコンピュータ上でソフトウェアを動作させて、期待通りの振る舞いをするかを確認する「動的テスト」とは対照的なアプローチを取る。静的テストの最大の目的は、開発ライフサイクルのなるべく早い段階で、成果物に潜む欠陥や問題点を発見し、後工程での手戻りを防ぐことにある。これにより、開発全体のコスト削減と品質向上に大きく貢献する。 静的テストは、主に「レビュー」と「静的解析」という二つの手法に大別される。まずレビューとは、人間が成果物を読み合わせ、その内容を検証する活動である。レビューの対象はソースコードだけに限らず、要件定義書、設計書、テスト計画書、ユーザーマニュアルなど、開発プロセスで作成されるあらゆるドキュメントが含まれる。レビュー担当者は、ドキュメントに記述された内容に論理的な矛盾がないか、要求仕様を正しく満たしているか、曖昧な表現や誤解を招く記述がないかといった観点でチェックを行う。レビューにはいくつかの形式が存在し、代表的なものにウォークスルーやインスペクションがある。ウォークスルーは、成果物の作成者が主体となって内容を説明し、参加者からの質疑応答を通じて問題点を洗い出す、比較的非公式な手法である。一方、インスペクションは、司会進行役や記録係といった役割を明確に定め、事前に配布された資料とチェックリストに基づき、厳格なルールに則って進められる最も形式的なレビューである。これらのレビュー活動を通じて、プログラムが完成する前に設計上の根本的な誤りを発見したり、チーム内での仕様理解を統一したりすることが可能となる。 もう一つの主要な手法である静的解析は、専用のツールを用いてソースコードを機械的に分析し、問題点を自動で検出する技術である。静的解析ツールは、ソースコードの構造や文法を解析し、人間が見逃しがちな問題を効率的に発見する。例えば、組織やプロジェクトで定められたコーディング規約(変数の命名規則やインデントのスタイルなど)に違反している箇所を指摘したり、プログラムの実行には直接影響しないものの、将来的にバグの原因となりうる「潜在的な欠陥」を検出したりする。具体的には、宣言されたもののどこからも使用されていない変数、決して実行されることのない到達不能コード、メモリリークを引き起こす可能性のある処理パターンなどが挙げられる。さらに、近年の静的解析ツールは、SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティングといった、セキュリティ上の脆弱性につながる危険なコードパターンを検出する機能も備えている。このように、ツールによる自動解析は、網羅的かつ客観的な視点からコードの品質を評価するために非常に有効な手段である。 静的テストの重要性は、欠陥の早期発見がもたらすコスト削減効果に集約される。ソフトウェア開発において、欠陥の発見が遅れるほど、その修正に必要なコストは指数関数的に増大すると言われている。例えば、要件定義段階の誤りをプログラミング完了後に修正する場合に比べ、要件定義段階で発見して修正する方が、コストは数十分の一から数百分の一で済む。静的テストは、コーディングが開始される前の要件定義や設計の段階から実施できるため、致命的な問題を未然に防ぎ、開発プロジェクト全体の手戻りを最小限に抑えることができる。 ただし、静的テストも万能ではない。あくまで成果物の構造や記述内容を検証するものであるため、プログラムを実行した際の実際の振る舞いや性能、特定の実行環境下でのみ発生する不具合などを検出することはできない。これらの動的な性質を持つ欠陥を発見するためには、実際にソフトウェアを動作させる動的テストが不可欠である。静的テストと動的テストは、それぞれが異なる種類の欠陥を検出することを目的としており、互いに競合するものではなく、相互に補完し合う関係にある。静的テストによってソースコードや設計書の構造的な品質を確保し、動的テストによってソフトウェアの機能的な正しさを検証するというように、両者を適切に組み合わせることが、信頼性の高いソフトウェアを効率的に開発するための鍵となる。システムエンジニアを目指す上で、この二つのテストアプローチの違いと役割を正確に理解しておくことは極めて重要である。