【ITニュース解説】AIで社内の非構造化データを”見える化”できるAIサービス DNPが提供開始

2025年09月10日に「@IT」が公開したITニュース「AIで社内の非構造化データを”見える化”できるAIサービス DNPが提供開始」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

大日本印刷が、社内に散在する文書など形式の定まっていない「非構造化データ」をAIで分析・整理し、見える化する新サービスを開始した。これにより、チャット形式で必要な情報を誰でも簡単に検索・共有できるようになる。(118文字)

ITニュース解説

企業内には、日々膨大な量の情報が蓄積されている。しかし、その多くはファイルサーバーの奥深くに眠るWordやPDF、PowerPointといった形式の決まっていない文書ではないだろうか。こうしたデータは「非構造化データ」と呼ばれ、企業が持つ情報の8割以上を占めるとも言われている。これらは貴重な知識の宝庫でありながら、形式がバラバラなために検索が難しく、必要な情報を見つけ出すのに多大な時間と労力がかかっていた。結果として、特定の社員しか知らないノウハウが生まれ、その人がいなくなると業務が滞る「属人化」という問題も引き起こしてきた。このような課題を解決するため、大日本印刷(DNP)は、AIを活用して社内に散在する非構造化データを誰もが活用できる形に変換する「DNPドキュメント構造化AIチャットボット」の提供を開始した。このサービスは、社内の文書をAIに学習させ、チャット形式で質問するだけで、AIが的確な答えを文書の中から見つけ出して教えてくれる画期的な仕組みだ。

まず、このサービスが対象とする「非構造化データ」について理解を深める必要がある。データは大きく「構造化データ」と「非構造化データ」の二つに分類される。構造化データとは、Excelの表やリレーショナルデータベースのように、行と列で構成され、各項目に何が入っているかが明確に定義されたデータのことだ。例えば、顧客リストであれば「氏名」「住所」「電話番号」といった列が決まっており、コンピュータでの検索や集計、分析が非常に容易である。一方、非構造化データは、業務マニュアル、技術仕様書、議事録、報告書、メールの本文など、特定の形式を持たないテキスト中心のデータを指す。人間は文章を読めば内容を理解できるが、コンピュータにとっては、単なる文字の羅列に過ぎず、その意味や文脈を把握して必要な箇所だけを抜き出すことは従来非常に困難だった。この膨大で活用しきれていなかった非構造化データを、AIの力で"見える化"し、組織の共有資産に変えるのがこのサービスの目的だ。

では、このAIチャットボットはどのようにして文書の内容を理解し、質問に答えているのだろうか。その中核を担っているのが、近年急速に発展した大規模言語モデル(LLM)と、「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」と呼ばれる技術である。まず、企業は活用したいマニュアルや仕様書などの文書ファイルをシステムにアップロードする。すると、AIが自然言語処理(NLP)という技術を用いて、それらの文書を読み込み、内容を解析する。文章を意味のある塊に分割し、それぞれの内容をコンピュータが処理しやすい数値の羅列(ベクトル)に変換して、専用のデータベースに格納する。この準備段階を経て、利用者はチャット画面から自然な言葉で質問を投げかけることができるようになる。例えば、「製品Aのメンテナンス手順を教えて」と入力すると、システムはRAGの仕組みに沿って動き出す。RAGは「検索(Retrieval)」と「生成(Generation)」の二段階で構成されている。まず「検索」の段階で、AIは質問文の意味を理解し、先ほど作成したベクトルデータベースの中から、質問内容と関連性が非常に高い文書の箇所を瞬時に探し出す。次に「生成」の段階で、大規模言語モデルが、検索によって見つけ出された文書の記述を正確な「根拠情報」として参照しながら、質問に対する自然で分かりやすい回答文を生成する。このRAGという仕組みの最大の利点は、LLMが元々学習していない社内固有の専門用語や独自のルールといった情報に対しても、アップロードされた文書に基づいて正確に回答できる点にある。さらに、AIが回答を生成する際に参考にした元の文書の箇所を提示するため、利用者はその情報が正しいかどうかをすぐに確認でき、AIがもっともらしい嘘をつく「ハルシネーション」という問題を大幅に抑制できる。

このサービスを導入することで、企業は様々なメリットを享受できる。最も直接的な効果は、情報検索にかかる時間の大幅な短縮だ。これまで何時間もかけて分厚いマニュアルを読み込んだり、詳しい同僚を探して質問したりしていた作業が、チャットボットに聞くだけで数秒から数分で完了する。これにより、社員は本来注力すべきコア業務に多くの時間を割けるようになり、組織全体の生産性向上に繋がる。また、知識の共有と属人化の解消にも大きく貢献する。ベテラン社員が長年の経験で培ったノウハウや、特定の担当者しか知らなかった業務手順などを文書化してAIに学習させておけば、それらは個人の頭の中から組織全体の共有資産へと変わる。これにより、担当者の異動や退職に伴う知識の喪失リスクを低減し、安定した業務運営が可能になる。特に、新入社員や部署異動者の教育においては絶大な効果を発揮する。初歩的な質問を先輩に何度も聞くのは気が引けるものだが、AIチャットボットが相手なら、いつでも気兼ねなく質問できる。自ら調べて解決する習慣が身につき、早期の戦力化を促進するだろう。

この「DNPドキュメント構造化AIチャットボット」は、AI、特にLLMやRAGといった最先端技術が、企業の抱える現実的な課題をいかに解決できるかを示す優れた実例と言える。システムエンジニアを目指す者にとって、プログラミングスキルはもちろん重要だが、それ以上に、こうした技術を用いて顧客の業務をどのように効率化し、価値を提供できるかを構想する力が求められる。企業内に眠る膨大な非構造化データは、未開拓の油田のようなものだ。それをAIという掘削技術でいかに掘り起こし、活用していくかが、今後の企業の競争力を左右する重要な鍵となる。このニュースは、そのデジタルトランスフォーメーションの具体的な一歩であり、これからのITサービスが目指すべき方向性を示唆している。

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