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【ITニュース解説】人の「色の見え方」は脳のレベルで共通している可能性

2025年09月09日に「GIGAZINE」が公開したITニュース「人の「色の見え方」は脳のレベルで共通している可能性」について初心者にもわかりやすく解説しています。

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ITニュース概要

ドイツの研究で、人が色を見た際の脳活動パターンに共通性がある可能性が示された。他者の脳データから見ている色を分析した結果、人による「色の見え方」の違いという長年の問いに、脳レベルでは共通しているという答えを示唆している。

ITニュース解説

「自分が今見ているこのリンゴの『赤』は、隣にいる人が見ている『赤』と全く同じ色なのだろうか」という問いは、古くから人々を悩ませてきた哲学的なテーマだ。私たちは同じ「赤」という言葉を使ってコミュニケーションを取っているが、それぞれの頭の中で感じている主観的な色の体験、いわゆる「クオリア」が本当に同じであるかを確かめる術はなかった。しかし、近年の脳科学とデータ解析技術の進歩は、この長年の謎に科学的なメスを入れることを可能にした。ドイツの研究チームが発表した最新の研究は、人の脳活動を直接分析することで、「色の見え方」が脳のレベルで多くの人に共通している可能性を強く示唆する画期的なものだ。

人間が色を認識するプロセスは、まず目の網膜が光の特定の波長の情報を捉えることから始まる。この情報は電気信号に変換され、視神経を通って脳の後頭部にある視覚野へと送られる。そして、脳がこの信号を処理・解釈することで、私たちは初めて「赤」や「青」といった色を主観的な体験として認識する。問題は、この最終段階である脳での解釈プロセスが、人によってどれほど違うのか、あるいは同じなのかという点にあった。もし、人によって脳の配線や処理方法が全く異なれば、同じ赤いリンゴを見ても、脳内で起きている現象はバラバラである可能性も否定できなかった。今回の研究は、この脳内で起きている現象そのものに共通のパターンがあるかどうかを検証することを目的としている。

この研究の鍵となった技術は、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)と機械学習だ。fMRIは、脳の活動を可視化するための強力なツールである。脳の特定の部分が活発に働くと、その領域により多くの酸素を含んだ血液が送り込まれる。fMRIは、この血流の変化を磁気を使って捉えることで、脳のどの領域がいつ活動しているのかを3D画像データとして記録することができる。研究チームは、複数の被験者に様々な色の画像を見せながら、このfMRIを使って彼らの脳活動をスキャンし、膨大なデータを収集した。これは、いわば「特定の色を見たときの脳活動の設計図」を集める作業だ。

次に、収集したデータをもとに、コンピューターによるデータ解析が行われた。ここがシステムエンジニアにとっても興味深い部分だろう。研究者たちは、ある被験者Aさんの脳活動データを使って、機械学習モデルを訓練した。具体的には、「赤色を見たときの脳活動パターン」を入力すると「赤」と出力し、「青色を見たときの脳活動パターン」を入力すると「青」と出力するように、モデルを学習させる。これは、特定の入力データ(脳活動)と正解ラベル(見ている色)の関係性をコンピューターに学ばせる、典型的な教師あり学習の手法だ。この学習によって、脳活動パターンから色を解読(デコーディング)するモデルが完成する。研究の核心はここからだ。Aさんのデータだけで訓練したこのデコーディングモデルに、今度は全く別の被験者Bさんの脳活動データを入力してみたのである。もし、色の認識プロセスが人によって全く異なるなら、Aさんの脳の仕組みを学習したモデルでは、Bさんの脳活動を正しく解読できるはずがない。

しかし、実験の結果は驚くべきものだった。Aさんのデータで訓練されたモデルは、Bさんが見ていた色を、偶然とは考えられないほど高い精度で予測することに成功したのだ。これは、Aさんが「赤」を見たときに脳内で生じる神経活動のパターンと、Bさんが「赤」を見たときのパターンが、個人差を超えて非常に似ていることを意味している。つまり、私たちの脳は、特定の色情報に対して、共通の神経活動コード、あるいは共通のデータ表現形式を用いて処理している可能性が高い。この発見は、「私たちの見ている赤は、脳の物理的なレベルでは同じ現象かもしれない」という、長年の問いに対する強力な科学的証拠となる。

この研究成果の意義は、哲学的な問いに答えを与えただけに留まらない。IT分野、特にシステム開発の未来においても重要な示唆を含んでいる。最も期待される応用先の一つが、ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)だ。BCIは、脳活動を読み取ってコンピューターや義手などを直接操作する技術であり、現在は主に医療分野で研究が進んでいる。もし、脳における情報表現の「共通コード」が解明されれば、個人ごとに必要だった複雑なキャリブレーション(初期設定)を大幅に簡略化し、より多くの人が直感的に使えるインターフェースを開発できる可能性がある。例えば、デザイナーが頭の中で思い描いた色を直接デザインソフト上に再現したり、言葉を発せない人が思考だけで意思を伝えたりするシステムの精度が飛躍的に向上するかもしれない。また、人間の脳が情報をどのように効率的に符号化し、処理しているかを理解することは、より高性能な人工知能(AI)を開発する上での重要なヒントにもなる。今回の研究は、人間の認知というブラックボックスの一端を解明し、人間とテクノロジーの未来の関わり方を示す、重要な一歩と言えるだろう。

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