【ITニュース解説】かんたんにDocker超高速化＠Windows！開発前にやるべきたった１つの工夫

システムエンジニアを目指す初心者が、Windows環境でDockerを使った開発を始める際、しばしば「動作が遅い」という問題に直面することがある。特にWordPressのようなコンテンツ管理システムや、LaravelにViteを組み合わせたモダンなWebアプリケーションを開発する場合に、このパフォーマンスの低さが顕著に現れ、開発効率を大きく低下させる要因となる。この問題の根本原因とその解決策について詳しく解説する。

まず、Dockerとは何かを簡単に説明する。Dockerは、アプリケーションとその実行に必要なすべてのもの（コード、ランタイム、システムツール、ライブラリなど）を一つの「コンテナ」と呼ばれるパッケージにまとめて隔離し、どのような環境でも同じように動作させることができる技術だ。これにより、開発者は自身のPC環境に左右されず、いつでも同じ開発環境を素早く構築・共有できるようになるため、現在のソフトウェア開発において非常に広く利用されている。

Windows環境でDockerを利用する場合、多くはDocker Desktopというツールを使う。このDocker Desktopは、Windows上で直接Linuxコンテナを動かすのではなく、Windows Subsystem for Linux 2、略してWSL2という技術を基盤として動作している。WSL2は、Windowsの中に軽量な仮想マシンを作り、その中で本物のLinuxカーネルを動かす技術で、Windows上でLinuxアプリケーションを高い互換性とパフォーマンスで実行することを可能にする。Docker DesktopはこのWSL2のLinux環境を利用してDockerエンジンを動かし、コンテナを管理している。

さて、WindowsでのDocker開発が遅いと感じる主な原因は、ファイルのアクセス方法にある。開発するアプリケーションのソースコードやデータファイルは、通常、WindowsのCドライブなど、Windowsのファイルシステム上に保存される。しかし、DockerコンテナはWSL2上で動作するLinux環境の中にいるため、Windowsのファイルシステムにあるファイルを直接扱うことはできない。そこでDockerは、Windows上の特定のフォルダを、WSL2内のLinux環境、ひいてはその中のDockerコンテナからアクセスできるように「マウント」という形で共有する。

この「マウント」によるファイル共有の仕組みに、パフォーマンス低下の落とし穴がある。WindowsのファイルシステムにあるファイルをWSL2のLinux環境経由でDockerコンテナが読み書きする際、WindowsとWSL2の間で何度もファイルアクセスに関する通信が発生する。この通信は、特にファイルの読み書きが頻繁に発生するWebアプリケーションの開発において、大きなオーバーヘッドとなる。例えば、WordPressが大量のファイルを読み込む際や、ViteのようなJavaScriptのビルドツールがソースコードの変更を監視し、頻繁に再ビルドを行う際に、このファイルアクセスの遅さがボトルネックとなり、動作が非常に緩慢になるのだ。

このパフォーマンス問題を解決するたった一つの、そして最も効果的な方法は、開発プロジェクトのファイルをWindowsのファイルシステム上に置くのではなく、WSL2のLinuxファイルシステム内に直接置くことである。WSL2は、Windowsから独立した高性能なLinuxファイルシステムを内部に持っている。例えば、UbuntuをWSL2で導入した場合、そのファイルシステムは\\wsl.localhost\Ubuntu\home\your_user_name\your_projectのようなパスでWindowsからもアクセス可能だ。

プロジェクトのソースコードを最初からこのWSL2のLinuxファイルシステム内に配置すれば、Dockerコンテナは直接WSL2内のファイルシステムにアクセスできるようになる。これにより、Windowsのファイルシステムを経由する際の余計な通信が不要となり、ファイルアクセス速度が劇的に向上する。結果として、Dockerコンテナ内で動作するアプリケーションのパフォーマンスが大幅に改善され、WordPressの読み込み速度やViteのビルド速度などが、まるでネイティブのLinux環境で動かしているかのように高速になる。

この方法を実践するためには、開発環境のセットアップを少し変更する必要がある。まず、使用するWSL2のLinuxディストリビューション（例えばUbuntu）を起動し、そのLinux環境内でプロジェクトフォルダを作成し、Gitなどを使ってソースコードをクローンする。そして、普段使っているVS Codeのような統合開発環境は、WSL2のリモート開発機能を利用する。VS Codeのリモート開発機能を使えば、Windows上で動作するVS Codeが、WSL2内のLinux環境に存在するファイルを直接開き、編集できるようになる。また、Gitなどのバージョン管理ツールも、WSL2のLinux環境内にインストールして利用することが推奨される。

このようにして開発環境を構築することで、Windows上でDockerを使いながらも、ほぼLinuxネイティブに近い高速なパフォーマンスで開発を進めることが可能になる。遅いDockerの動作に悩まされていた開発者にとっては、この「プロジェクトファイルをWSL2のLinuxファイルシステム内に置く」というたった一つの工夫が、開発効率を飛躍的に向上させるための決定的な解決策となるだろう。システムエンジニアを目指す初心者も、この原則を理解し、実践することで、快適なDocker開発環境を構築できる。