オーバーヘッド(オーバーヘッド)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
オーバーヘッド(オーバーヘッド)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
オーバーヘッド (オーバーヘッド)
英語表記
overhead (オーバーヘッド)
用語解説
オーバーヘッドとは、コンピュータシステムにおいて、ある処理を実行する際に、その本来の目的を達成するために必要となる処理に加えて、付随的に発生する間接的な処理やリソース消費のことを指す。言い換えれば、目的のタスクを遂行するための「準備運動」や「後片付け」、「管理」にかかるコストであり、CPU時間、メモリ容量、ストレージ領域、ネットワーク帯域など、様々な形で現れる。オーバーヘッドは多くの場合、システムの機能性、信頼性、安全性、あるいは開発の生産性を確保するために意図的に導入されるものであり、必ずしも無駄なコストというわけではない。しかし、このオーバーヘッドが過大になると、システムのパフォーマンス低下の直接的な原因となるため、システムエンジニアは常にその存在を意識し、適切に管理する必要がある。
詳細に見ていくと、オーバーヘッドはシステムの様々な階層で発生する。まず、CPUに関するオーバーヘッドが挙げられる。現代のオペレーティングシステム(OS)は、複数のプログラム(プロセス)や処理(スレッド)を同時に実行しているように見せるために、ごく短い時間でCPUの使用権を切り替えるコンテキストスイッチという処理を行っている。この切り替えの際には、実行中のプロセスの状態をメモリに保存し、次に実行するプロセスの状態をメモリから読み込んで復元するという付加的な処理が発生する。この処理自体はアプリケーションの本来の目的とは無関係であり、典型的なCPUオーバーヘッドである。また、アプリケーションがファイル操作やネットワーク通信などOSの機能を利用する際に発行するシステムコールもオーバーヘッドの一因となる。システムコールが発生すると、CPUの動作モードがユーザーモードから特権的なカーネルモードへ移行し、処理後に再びユーザーモードへ戻るという切り替えコストが発生する。
次に、メモリに関するオーバーヘッドがある。プログラムがデータを扱う際、データそのもの以外にも管理情報のためのメモリ領域が必要となる。例えば、連結リストのようなデータ構造では、各データ要素が値だけでなく、次の要素を指し示すためのポインタ情報を保持する必要がある。このポインタ部分がメモリオーバーヘッドに相当する。また、プログラミング言語によっては、不要になったメモリ領域を自動的に解放するガベージコレクションという仕組みが備わっている。この仕組みはメモリリークを防ぎ開発効率を高めるが、どのメモリが不要かを判断するための管理情報を保持したり、解放処理を実行したりするためにメモリとCPUリソースを消費する。これも、アプリケーションの主目的ではない付随的な処理であるためオーバーヘッドと見なされる。
ネットワーク通信においてもオーバーヘッドは顕著に現れる。データを送信する際、送信したいデータ本体(ペイロード)に加えて、宛先アドレス、送信元アドレス、誤り検出符号といった様々な制御情報が付加される。これらの制御情報はプロトコルヘッダと呼ばれ、TCP/IPなどの通信プロトコルによって階層的に追加される。ヘッダ情報はデータ本体の通信ではないため、通信帯域を消費するオーバーヘッドとなる。特に、非常に小さなデータを頻繁に送受信する場合、ペイロードよりもヘッダの占める割合が大きくなり、通信効率が著しく低下することがある。さらに、通信の信頼性を確保するための確認応答(ACK)の送受信や、データの暗号化・復号処理も、本来のデータ転送以外のCPUリソースや帯域を消費するオーバーヘッドである。
ストレージに関してもオーバーヘッドは存在する。ファイルシステムは、ディスク上のどこにどのファイルが保存されているかといったメタデータを管理している。このメタデータが格納される領域は、ユーザーが直接利用するデータを保存するためには使われず、ファイルシステムを維持するためのオーバーヘッドと言える。また、突然の電源断などからファイルシステムの整合性を保護するジャーナリング機能は、データの変更履歴をジャーナルと呼ばれる特別な領域に先に書き込んでから実際のデータ領域に書き込むという二段階の処理を行う。これにより信頼性は向上するが、書き込み処理の負荷が増大するというパフォーマンス上のオーバーヘッドが発生する。
このように、オーバーヘッドはシステムのあらゆる側面に関わっている。システム設計やプログラミングにおいては、機能性や信頼性を確保するために不可欠なオーバーヘッドと、設計の不備や非効率な実装によって生じる不要なオーバーヘッドを区別することが重要である。そして、システムの性能要件に応じて、許容できるオーバーヘッドの範囲を見極め、そのトレードオフを考慮しながら最適な設計を選択する能力がシステムエンジニアには求められる。