【ITニュース解説】The Mary Celeste — Crew Disappearance
2025年09月15日に「Medium」が公開したITニュース「The Mary Celeste — Crew Disappearance」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
1872年12月、大西洋を漂流する船「メアリー・セレスト号」が発見された。帆は張られ積み荷も手付かずだったが、乗組員は誰一人おらず、その失踪は未解決の謎となっている。
ITニュース解説
1872年12月のある寒い日、大西洋上を静かに漂流する一隻の船が発見された。その船の名はメアリー・セレスト号。発見した船、デイ・グラツィア号の乗組員が乗り移って目にしたのは、無人で放置されたままの不気味な光景だった。航海に支障がない良好な状態の船体、無傷で手つかずの積荷であるアルコール樽、そしてしっかりと張られた帆。しかし、船上には一人として乗組員の姿はなく、船長夫妻と幼い娘、そして七人の乗組員全員が忽然と姿を消していたのだ。この事件は、システムエンジニアを目指す諸君が将来直面するかもしれない「原因不明のシステム障害」や「不可解なセキュリティインシデント」を解明する際の思考プロセスに、多くの示唆を与えてくれるだろう。
デイ・グラツィア号の乗組員がメアリー・セレスト号を調査した際、彼らが発見した状況は、まるでシステムエンジニアが障害発生時に残されたログや監視データを分析するかのようであった。船体そのものは損壊しておらず、航行に必要な設備も正常に機能する状態にあった。これは、システムの外形的には問題がないように見える状況に相当する。しかし、船の重要な機能である「乗組員」が完全に失われていた。救命ボートが一隻消えていたという証言も、システムにおける重要なコンポーネントが欠落している事態を示唆する。航海日誌は事件発生の約10日前の日付で途絶え、船内の様々な状況証拠が、突然の出来事を示していた。例えば、乗組員の私物や船長の六分儀といった貴重品が残されていたこと、調理途中の食事がそのままだったという初期の報告(後に誤報とされるが、当時の混乱を示す)は、異常が非常に急な出来事であった可能性を示唆する。これらの断片的な情報は、システムの「エラーログ」や「イベントログ」のように、何が起こったのかを解き明かす手がかりとなるが、同時に、多くの疑問を残すものでもあった。
メアリー・セレスト号は1872年11月7日にニューヨークを出港し、イタリアのジェノヴァへ向かう途上であった。乗組員全員の消失という前代未聞の事態に、当時の社会は大きく揺れ、ジブラルタルでの広範な捜査が行われた。しかし、当時の科学捜査技術や情報収集能力では、事件の真相に迫ることは極めて困難であった。この未解決の事態に対し、様々な仮説が立てられ、議論されてきたが、決定的な証拠に乏しく、今日に至るまで真実は謎に包まれたままである。
提唱された主要な仮説とその検証の試みは、システム障害の原因特定における「仮説構築と検証」のプロセスに相当する。
まず「海賊説」が浮上した。しかし、船が無傷で積み荷も残されていたため、この説はすぐに信憑性を失った。通常、海賊は積荷や貴重品を略奪するため、その痕跡が残らないことは極めて不自然だ。システムへの不正アクセスの場合、情報窃取や破壊が目的であれば、何らかの痕跡が残ることが多い。痕跡がない状態で重要な機能が停止したとすれば、より深く、巧妙な原因を疑う必要がある。
次に「暴動説」が考えられた。船内で乗組員による暴動が発生し、船長や家族、そして一部の乗組員が殺害された、あるいは船を放棄させられたというものだ。しかし、船内に争った痕跡は一切見つからず、船長も温厚な人物として知られていたことから、この説も説得力に欠けた。システム内部の人員による不正操作や破壊行為の場合、アクセスログや操作ログに不審な記録が残るはずだが、そうした痕跡が全くない場合、この説は成立しにくい。
最も有力視された説の一つに「自然災害説」、特に「火災の誤認」や「有毒ガス説」がある。メアリー・セレスト号が積んでいたアルコールは揮発性が高く、航海の途中で爆発や火災の危険性を感じた乗組員たちが、一時的に救命ボートで船を離れたが、その間に何らかの理由で船が漂流してしまい、戻れなくなったというシナリオだ。例えば、突然の荒天や海震などによって船が大きく揺れ、積荷からガスが発生していると思い込んだ、あるいは小さな火災の兆候を見てパニックに陥った可能性である。救命ボートが消えていたという証言は、この説を補強する。この状況は、システムが一時的に不安定になった際に、誤った判断やパニックにより、本来は不要なシャットダウンや重要なサービス停止を招いてしまったケースに似ている。また、システムの特定コンポーネントに発生した予期せぬ不具合が、全体に甚大な影響を及ぼし、利用者や運用者が適切な対処をできなかった状況と捉えることもできる。
他にも、船長が保険金詐欺を企てたという「保険金詐欺説」も浮上したが、船長が家族を同乗させていたこと、そして彼自身が裕福な人物であったことから、多大なリスクを冒してまで詐欺を行う動機に乏しく、これも否定された。システムで言えば、内部の人間による意図的な破壊活動だが、その動機やリスクと結果が整合しない場合は、別の原因を探る必要がある。
未解決のミステリーであるメアリー・セレスト号の事件は、システムエンジニアを目指す諸君にとって、多くの教訓を含んでいる。情報が断片的で不完全な場合、真実にたどり着くことがいかに難しいか。そして、表面的なデータだけでは全体像を把握できず、多角的な視点から仮説を立て、論理的に検証する力が不可欠であることを示している。将来、諸君が原因不明のシステム障害やセキュリティインシデントに直面した際、残された「ログ」や「監視データ」を丹念に分析し、時に「なぜこの情報が残されなかったのか」「もしこのログがあれば、何がわかっただろうか」という視点を持つことが、より堅牢なシステム設計と運用につながるだろう。不確実性を受け入れつつも、一つ一つの事象から最大限の情報を引き出し、最善の解決策を探る姿勢こそが、システムエンジニアに求められる資質なのである。この150年以上も語り継がれるミステリーは、私たちが複雑なシステム(ここでは船とその運用)を理解し、予期せぬ事態に対処する難しさを、時代を超えて示し続けている。