【ITニュース解説】AIに“性格”を与えて視点を自由に設定 NRIがデータ分析支援システムを発表

2025年09月09日に「@IT」が公開したITニュース「AIに“性格”を与えて視点を自由に設定 NRIがデータ分析支援システムを発表」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

野村総合研究所が、AIに役割や性格を設定し、様々な視点からデータ分析させるシステムを開発した。設定した視点に基づきAIが分析を行うことで、企業の多角的かつ迅速な意思決定を支援する。(106文字)

ITニュース解説

企業活動において、売上データや顧客データといった様々な情報を分析し、次の戦略を立てる「データ分析」は非常に重要である。しかし、従来のデータ分析には一つの課題があった。それは、分析結果が「誰が分析するか」によって大きく左右されてしまうという点だ。例えば、同じ販売データを見ても、営業担当者は「どの商品が売れているか」という売上拡大の機会に注目するだろう。一方、経理担当者であれば「どの商品の利益率が高いか」というコストや収益性の観点からデータを見るかもしれない。このように、分析者の立場や経験によって着眼点が異なり、分析結果に偏りが生まれることがある。この「視点の偏り」は、組織全体にとって最適な意思決定を行う上での障壁となり得た。

この課題を解決するため、野村総合研究所(NRI)は、AI(人工知能)を活用した新しいデータ分析支援システム「多視点分析システム」を開発した。このシステムの最大の特徴は、利用者がAIに対して「性格」や「役割」を自由に設定できる点にある。これにより、一つのデータに対して、まるで社内の様々な立場の人間が意見を出し合うかのように、多様な視点から分析結果を得ることが可能になる。

具体的には、利用者はシステム上でAIに「慎重な性格の経理部長」や「新しい技術に積極的な開発リーダー」、「顧客満足度を第一に考えるカスタマーサポート責任者」といった役割(ペルソナ)を与える。するとAIは、設定された役割になりきって、その立場から重要だと考えられるポイントに焦点を当ててデータを分析し、レポートを作成する。例えば、「慎重な経理部長」という役割を与えられたAIは、データの中からコスト超過のリスクや投資対効果の低い項目を鋭く指摘するだろう。一方で、「積極的な営業担当」の役割を与えれば、AIは新たな市場開拓のチャンスや潜在的な優良顧客の存在を示す分析結果を出力する。

このように、一つのデータセットから意図的に異なる複数の分析レポートを生成させることで、人間だけでは見落としてしまいがちなリスクや機会を発見しやすくなる。新製品の発売を検討する会議を想像してみよう。このシステムを使えば、「市場の成長性を楽観視する企画部長」の視点での分析レポートと、「潜在的な製造上の問題を懸念する生産管理部長」の視点でのレポートを事前に入手できる。これにより、会議の参加者は最初から多角的な情報に基づいて議論を始めることができ、より深く、バランスの取れた意思決定を迅速に行えるようになる。これは、分析者の属人性を排除し、データに基づいた客観的で質の高い意思決定を支援する強力なツールと言える。

このシステムは、近年の生成AI技術、特に大規模言語モデル(LLM)の進化によって実現された。システムエンジニアを目指す観点から見ると、このシステムはいくつかの重要な技術要素で構成されている。まず中核にあるのが、AIに的確な指示を与える「プロンプトエンジニアリング」という技術だ。利用者が設定した「性格」や「役割」を、AIが理解できるような具体的な指示(プロンプト)に変換し、期待通りの分析を行わせる仕組みが重要となる。また、様々な形式のデータをシステムに入力し、AIが処理できる形に整えるデータ連携機能や、AIが出力した分析結果を人間が直感的に理解できるよう、グラフや表を含む分かりやすいレポートとして表示するユーザーインターフェース(UI)の設計も欠かせない要素である。開発者は、単にAIを動かすだけでなく、いかにして人間の思考を補助し、スムーズな意思決定プロセスに繋げるかという視点でシステムを構築する必要がある。

この「多視点分析システム」の登場は、AIがデータ分析において果たす役割が新たな段階に入ったことを示している。これまでAIは、膨大なデータからパターンを見つけ出す計算ツールとしての側面が強かった。しかしこれからは、多様な視点を提供し、人間の思考を拡張する「知的なパートナー」としての役割を担うようになるだろう。AIに異なるペルソナを与えて議論させることで、人間が思いもよらなかった新たな洞察が生まれる可能性もある。データ分析の世界は、AIとの協業によって、より創造的で戦略的な領域へと進化していくことが期待される。

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