【ITニュース解説】プライム市場上場企業は生成AIをどのくらい活用しているのか？　デロイト トーマツ調査

近年、社会のあらゆる場面で注目されている「生成AI」が、実際のビジネスの現場でどのように活用されているのか、その実態を示す調査結果が発表された。この調査は、大手コンサルティングファームであるデロイト トーマツが、日本の株式市場の中でも特に厳しい基準をクリアした大企業が集まる「プライム市場」の上場企業を対象に行ったものである。この結果は、これからシステムエンジニアとして社会に出る上で、テクノロジーがビジネスにどう貢献しているかを理解するための重要な指標となる。

調査結果で最も注目すべき点は、回答した企業の実に9割が、すでになんらかの形で生成AIを導入しているという事実である。その内訳を見ると、47%の企業が「全社で導入している」と回答し、43%が「一部の部署や機能で導入している」と答えている。これは、生成AIがもはや一部の先進的な企業だけが試す実験的な技術ではなく、日本の主要な企業にとって、業務を遂行するための標準的なツールになりつつあることを示している。システムエンジニアを目指す者にとって、これは将来開発や運用に携わるシステムにおいて、生成AIとの連携や活用が当たり前になる可能性が高いことを意味する。

では、企業は具体的にどのような目的で生成AIを活用しているのだろうか。調査によると、最も多い目的は「業務効率化・コスト削減」であり、実に88%の企業がこれを挙げている。これは、これまで人間が時間をかけて行っていた定型的な作業をAIに任せることで、業務全体のスピードを上げ、人件費などのコストを削減したいという企業の強いニーズを反映している。具体的な活用シーンとしては、「情報収集・要約・翻訳」が88%、「文章・コンテンツの生成」が87%、「アイデアの創出」が76%と続いている。例えば、海外の長文の技術レポートを瞬時に日本語で要約させたり、会議の議事録を作成させたり、顧客へのメール文面を考えさせたりといった使い方が日常的に行われている。また、新しいサービスの企画を立てる際に、AIを相手にブレインストーミングを行い、多様な視点からアイデアを得るといった、より創造的な業務にも活用が広がっている。

一方で、生成AIの導入はメリットばかりではない。多くの企業がそのリスクや課題についても認識している。調査で最も多く指摘された課題は「情報漏えいのリスク」で、74%の企業が懸念を示している。これは、社員が業務上の機密情報や個人情報を、外部の生成AIサービスに入力してしまい、それが意図せず第三者に漏れてしまう危険性を指す。次に多かったのが「ハルシネーション」と呼ばれる、AIが事実に基づかないもっともらしい嘘の情報を生成してしまう現象で、66%が課題として挙げている。AIが生成した情報を鵜呑みにすると、誤った意思決定につながる可能性があるため、人間によるファクトチェックが不可欠となる。さらに、「著作権侵害のリスク」も61%の企業が懸念している。AIが学習データに含まれる他者の著作物を無断で利用してコンテンツを生成し、それが法的な問題に発展する可能性があるからだ。システムエンジニアは、こうしたリスクを技術的にどう管理し、安全にAIを活用できる環境を構築するかという重要な役割を担うことになる。

このような課題は存在するものの、生成AIを導入した企業の多くはその効果を実感している。調査では、73%の企業が「一定の効果が出ている」と回答しており、具体的な効果として「業務時間の削減」や「業務品質の向上」を挙げている。そして、多くの企業は現在の活用に留まらず、さらなる展開を見据えている。今後は、個人の生産性向上といったレベルから一歩進んで、顧客対応の自動化や高度化、製品開発プロセスの支援、さらには経営判断に関わるデータ分析など、よりビジネスの根幹に近い領域での活用を目指す動きが加速していくだろう。この流れは、生成AIを深く理解し、ビジネス課題の解決に応用できるシステムエンジニアの需要が、今後ますます高まっていくことを示唆している。この調査結果は、生成AIが日本のビジネスシーンにおいて急速に不可欠な存在となりつつある現状を明確に示しており、これからの技術者が身につけるべきスキルセットを考える上で、非常に重要な示唆を与えている。