【ITニュース解説】Strong Eventual Consistency - The Big Idea behind CRDTs
2025年09月09日に「Reddit /r/programming」が公開したITニュース「Strong Eventual Consistency - The Big Idea behind CRDTs」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
複数のコンピュータでデータを同期する際、同時更新による矛盾が課題となる。CRDTは、更新の競合が起きないように設計されたデータ構造だ。各々が自由に編集しても、最終的に全データが矛盾なく自動で同じ状態に収束する。(116文字)
ITニュース解説
現代の多くのアプリケーション、例えばリアルタイムで共同編集が可能なドキュメントツールや、多数のプレイヤーが同時に参加するオンラインゲームでは、複数のユーザーが同じデータに対して同時に変更を加えることが当たり前になっている。このような環境は「分散システム」と呼ばれ、複数のコンピュータ(ノード)がネットワークを介して協調しながら動作する。この分散システムにおいて最も重要な課題の一つが、各ノードが持つデータの「整合性」をいかに保つかという点である。
データの整合性にはいくつかのレベルがある。最も厳格なものは「強整合性」と呼ばれ、システム内のどのノードにアクセスしても、常に最新かつ同一のデータが読み取れることを保証する。銀行の残高照会のように、一瞬のデータの食い違いも許されないシステムで採用されるが、全てのノード間で常に同期を取る必要があるため、処理の遅延が発生しやすく、システム全体の応答性能が低下する原因にもなる。
そこで、より柔軟な整合性モデルとして「結果整合性」という考え方が生まれた。これは、システムに対する更新が行われた直後は、ノードによってデータが一時的に異なる状態になることを許容するが、新たな更新がなければ、いずれ全てのノードが同じ状態に収束することを保証するモデルである。これにより、システムは高い可用性と応答性能を維持できる。しかし、この結果整合性には大きな問題が残されていた。それは、複数のノードで同時に更新が行われた際に発生する「競合(コンフリクト)」をどう解決するかという点である。例えば、二人のユーザーが共有ドキュメントの同じ行を同時に編集した場合、どちらの変更を優先するのか、あるいはどのように統合するのかが明確に定義されていないと、データが意図しない状態になったり、一方の更新が失われたりする可能性がある。
この問題を解決するために提唱されたのが、「強い結果整合性(Strong Eventual Consistency, SEC)」という概念である。SECは、単なる結果整合性を一歩進め、競合が発生した場合でも、全てのノードが最終的に必ず同一の正しい状態に収束することを保証する。つまり、どのような順序でデータが複製・統合されても、最終的な結果は常に一意に定まる。これを実現するための具体的な技術的アプローチが「CRDTs(Conflict-free Replicated Data Types)」、日本語では「コンフリクトフリーな複製データ型」と呼ばれるものである。
CRDTは、そのデータ構造自体に、競合を自動的に解決するための数学的な性質が組み込まれている。操作がどのような順序で適用されても最終結果が変わらない「可換性」や、同じ操作を何度繰り返しても結果が変わらない「べき等性」といった性質を利用することで、中央のサーバによる調停なしに、各ノードが自律的にデータを更新し、それらを安全にマージすることを可能にする。
CRDTには大きく分けて二つのタイプがある。一つは、操作(オペレーション)を各ノードに伝播させる「Commutative Replicated Data Types (CmRDTs)」である。例えば、共有カウンターに対して「+1する」という操作は、誰がどの順序で実行しても最終的な合計値は変わらない。このような可換性を持つ操作のみを許容することで、コンフリクトの発生を防ぐ。もう一つは、データ状態そのものを他のノードとマージ(統合)する「Convergent Replicated Data Types (CvRDTs)」である。各ノードは自身のデータ状態のコピーを持ち、定期的に他のノードの状態とマージする。このマージ処理が、どのような組み合わせや順序で行われても必ず同じ結果になるように設計されているため、最終的に全ノードの状態が一致する。
CRDTの応用例は多岐にわたる。オンラインの共同編集ツールでは、各ユーザーの入力がCRDTとして扱われ、オフラインで編集した内容も後から競合なく同期される。また、分散データベースやチャットアプリケーション、SNSの「いいね」機能など、多くの場所でこの技術が活用されている。CRDTを用いることで、ネットワークの遅延や切断に強い、堅牢で応答性の高いアプリケーションを構築できる。このように、強い結果整合性とそれを実現するCRDTは、現代の分散システムにおけるデータ同期の複雑な問題を解決し、シームレスなユーザー体験を提供する上で不可欠な基盤技術となっている。