【ITニュース解説】Vibe Coding から、Drive Coding (欲動のコーディング)へ
2025年09月09日に「Qiita」が公開したITニュース「Vibe Coding から、Drive Coding (欲動のコーディング)へ」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
AIは指示通りのコードは書けるが、プロダクトを完成させるのは難しい。なぜならAIには「何を作りたいか」という強い目的意識、すなわち「欲動」がないからだ。開発の方向性を定め、AIを道具として使いこなすことがエンジニアの重要な役割となる。(118文字)
ITニュース解説
近年、人工知能(AI)がプログラムのコードを自動で生成する技術は目覚ましく進歩した。この事実に疑問を持つ人はもはや少ないだろう。では、なぜAIがコードを書けるようになったにもかかわらず、AIだけでソフトウェア製品を「完成」させることは依然として難しいのだろうか。その理由は、AIが時折、事実に基づかないもっともらしい情報を生成してしまう「ハルシネーション」という現象だけにあるわけではない。プロダクト開発の本質に、より根源的な課題が隠されている。
ソフトウェア開発の現場では、明確な設計図や最終的な目標が固まらないまま、いわば「雰囲気」や「感覚」で開発が進められてしまうことがある。これは「Vibe Coding(雰囲気のコーディング)」と呼べる状態だ。この進め方では、開発者は手探りで試行錯誤を繰り返し、時には手戻りも多く発生する。このような曖昧な状況でAIを活用しようとしても、期待する成果は得られない。AIに対して「いい感じのユーザー登録機能を作って」といった漠然とした指示を与えても、AIは何を「いい感じ」と判断すればよいのか理解できない。結果として、意図とは全く異なるコードが出力されたり、不完全な機能しか実装されなかったりする。AIは具体的な指示があって初めてその能力を最大限に発揮できるツールであり、曖昧な要求に応えることは苦手なのだ。
この問題を解決し、AI時代のソフトウェア開発を成功に導く鍵となるのが、「Drive Coding(欲動のコーディング)」という考え方である。これは、単にコードを書くという行為そのものではなく、その根底にある「なぜこのプロダクトを作るのか」「このソフトウェアで誰のどんな課題を解決したいのか」という強い目的意識、つまり「欲動(Drive)」を原動力として開発を推進していくスタイルを指す。この「Drive」こそが、プロダクトを完成へと導くための羅針盤となる。プロダクトが向かうべき方向を明確に定め、チーム全体が一貫した目標に向かって進むためのエネルギー源となるのだ。
「Drive Coding」を実践するためには、コーディング以前の工程が極めて重要になる。まず、ユーザーが抱える課題やニーズを正確に把握し、「何を作るべきか(What)」を定義する「要求定義」の能力が求められる。次に、その要求を実現するために、システム全体の構造やデータの流れ、各機能の連携方法などを具体的に計画する「設計」の能力が必要だ。これは、システム全体の品質や将来の拡張性を左右する重要な工程である。さらに、プロジェクトの目的や制約条件に応じて、最適なプログラミング言語やデータベース、クラウドサービスなどを選定する「技術選定」の判断力も不可欠となる。これらの、プロダクトの根幹を定める知的作業こそが、「Drive」の具体的な中身であり、人間が担うべき中心的な役割である。
このように考えると、AIと人間のエンジニアの役割分担が明確になる。AIは、人間が定義した要求と設計に基づいて、具体的なコードを生成する「実装(How)」の工程を担う、極めて優秀なアシスタントである。詳細な仕様書や設計図という名の「具体的な指示」さえ与えれば、AIは驚異的なスピードと正確さでコードを書き上げてくれる。一方、人間のエンジニアの役割は、そのAIに指示を出す司令塔となることだ。プロダクトの目的を定め、ユーザーの課題を分析し、最適な設計を行い、開発プロセス全体を管理する。つまり、人間はプロダクト開発の「戦略家」として、何をなぜ作るのかを決定し、その実現に向けた道筋を描く役割を担う。AIの登場によって、エンジニアは単純なコーディング作業から解放され、より創造的で本質的な課題解決に集中できるようになったと言える。
これからシステムエンジニアを目指す人々にとって、この変化は非常に重要である。プログラミング言語の文法やアルゴリズムを学ぶことは、もちろん基礎として不可欠だ。しかし、それと同時に、あるいはそれ以上に、「なぜこのシステムが必要なのか」「どうすればユーザーにとって価値のあるものになるのか」を深く思考する能力を養う必要がある。AIを単なるコード生成ツールとして使うのではなく、自らの「Drive」、つまり課題解決への強い意志を実現するための強力なパートナーとして使いこなす視点が求められる。AI時代に活躍するエンジニアとは、優れたコーディング能力を持つだけでなく、プロダクトをあるべき姿へと導く強い「Drive」を持ち、設計と意思決定を通じて開発を牽引できる人材なのである。