訴訟ホールド (ソショウホールド) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

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訴訟ホールド (ソショウホールド) の読み方

日本語表記

訴訟ホールド (ソショウホールド)

英語表記

litigation hold (リティゲーションホールド)

訴訟ホールド (ソショウホールド) の意味や用語解説

訴訟ホールドとは、将来的に訴訟や行政調査などの法的紛争が発生する可能性が高いと判断された場合に、企業や組織が関連するすべての情報を保全するよう義務付けられる措置のことである。この措置は、法的手続きの過程で必要となる可能性のある証拠が失われたり、改ざんされたりすることを防ぐ目的がある。特に、現代の情報社会においては、多くの情報が電子データとして存在するため、電子情報開示(eDiscovery)プロセスにおける重要な初期段階の一つとして位置づけられる。企業は、訴訟の兆候を認識した時点で、直ちにこのホールドを開始し、関連する文書、電子メール、データベース、その他の電子情報を、たとえ通常のデータ保持ポリシーに基づいて削除される予定であったとしても、削除せずに保持し続けなければならない。これを怠ると、証拠隠滅と見なされ、法的な制裁を受ける可能性があるため、企業にとって極めて重要な法的義務となる。 訴訟ホールドの具体的な運用は多岐にわたる。まず、企業は訴訟ホールドのトリガーとなる出来事、例えば訴状の受領、規制当局からの調査通知、または内部からの重大な不正行為の報告などを認識する。次に、法務部門や外部弁護士が中心となり、この法的義務の対象となる「関連情報」と「関連人物」を特定する。関連情報は、電子メール、チャット履歴、ファイルサーバー上の文書、データベースのエントリ、バックアップデータ、さらには従業員のスマートフォンやタブレットに保存された情報など、多岐にわたる電子データを含む。また、紙媒体の文書も対象となる。関連人物は、訴訟の内容に関連する業務に携わった従業員、管理職、情報システム部門の担当者などが含まれる。これらの特定された人物に対しては、「訴訟ホールド通知(Legal Hold Notice)」が発行され、対象となる情報の種類、ホールドの期間、情報保全の重要性、および情報の削除や改変が禁止される旨が明確に伝えられる。 ITシステム部門は、この訴訟ホールドを技術的に実現する上で中心的な役割を担う。通常の情報ライフサイクル管理(ILM)ポリシーでは、一定期間が経過したデータは自動的に削除されたり、アーカイブされたりすることが一般的である。しかし、訴訟ホールドが発動されると、対象となる情報は、この通常の削除プロセスから一時的に除外されなければならない。これには、メールサーバー、ファイルサーバー、データベース管理システム、エンタープライズコンテンツ管理システム、クラウドストレージなどの設定変更が必要となる場合が多い。例えば、ユーザーが誤ってファイルを削除しようとした場合にそれを防ぐ設定や、自動アーカイブシステムが対象データを削除しないようにする設定などである。また、バックアップデータに関しても、通常のローテーションポリシーに従って古いバックアップが上書きされないよう、対象期間のバックアップを別途確保することが求められる。 さらに、訴訟ホールドの対象となる情報が広範にわたる場合、企業は専用の訴訟ホールド管理ツールを導入することもある。これらのツールは、訴訟ホールド通知の配布、対象者の追跡、情報の特定と収集のプロセスを効率化し、コンプライアンスを確保するための監査証跡を記録する機能を提供する。システムエンジニアは、これらのツールの選定、導入、既存システムとの連携、そして安定した運用に深く関与する。データの保全だけでなく、後に証拠として提出できるよう、データの完全性(Integrity)を維持し、改ざんされていないことを証明できる形で保管することも重要である。これには、ハッシュ値の計算やタイムスタンプの付与といったフォレンジック技術が応用されることもある。 訴訟ホールドの解除は、訴訟が完全に終了し、すべての法的義務が果たされた後に、法務部門の指示に基づいて行われる。解除後、保全されていた情報は通常の情報ライフサイクル管理ポリシーに戻され、必要に応じて削除やアーカイブが行われる。この一連のプロセスを通じて、システムエンジニアは、単にシステムの開発や運用を行うだけでなく、企業の法的責任を理解し、その実現を技術的に支援する重要な役割を担うことになる。適切な訴訟ホールドの実施は、企業の法的リスクを軽減し、信頼性を維持するために不可欠な取り組みである。

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