LTH(エルティーエイチ)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
LTH(エルティーエイチ)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
ライトスルーキャッシュ (ライトスルーキャッシュ)
英語表記
LTH (エルティーエイチ)
用語解説
LTHとは、Last Transaction Holderの略称であり、主にデータベースなどの分散システムにおけるトランザクション管理で用いられる技術用語である。特に、複数の独立したリソースが関わる分散トランザクションの整合性を保証しつつ、その処理性能を向上させるための最適化手法の一つとして位置づけられる。この技術を理解するためには、まず前提となる分散トランザクションと、その整合性を保証するための代表的なプロトコルである2フェーズコミット(Two-Phase Commit, 2PC)についての知識が必要となる。LTHは、この2フェーズコミットプロトコルが持つ性能上の課題を解決するために考案された。システムエンジニアが、複数のデータベースやメッセージングキューなどが連携する複雑なシステムを設計、構築する際には、データの整合性をいかに効率的に保つかが重要な課題となり、LTHはその解決策の一つとして重要な概念である。
分散トランザクションとは、物理的に異なる場所にある複数のデータベースや、その他のトランザクション対応リソースにまたがる一連の処理を、全体として一つの論理的な単位として扱う仕組みのことである。この一連の処理は、すべてが成功裏に完了するか、あるいは一つでも失敗した場合にはすべてが実行前の状態に戻される(ロールバックされる)かのどちらかでなければならない。この「すべて実行するか、まったく実行しないか(All or Nothing)」という原子性(Atomicity)を保証するために、2フェーズコミットプロトコルが広く利用される。2フェーズコミットでは、トランザクション全体を監督する「トランザクションマネージャ(調整役)」と、個々の処理を担当する「リソースマネージャ(参加者)」が登場する。処理は二つのフェーズに分けて実行される。第1フェーズは「準備フェーズ」と呼ばれる。トランザクションマネージャは、すべてのリソースマネージャに対して、トランザクションを確定(コミット)できる状態にあるかを問い合わせる。各リソースマネージャは、自身の担当する処理を実行し、いつでもコミットできる状態になると、その状態を永続的なログに記録してから、トランザクションマネージャに「準備完了」を応答する。もし処理に失敗してコミットできない場合は「準備不可」を応答する。第2フェーズは「コミットフェーズ」である。トランザクションマネージャは、すべてのリソースマネージャから「準備完了」の応答を受け取った場合に限り、全員に対して「コミット」を指示する。一人でも「準備不可」の応答を返したか、あるいは応答がなかった場合は、全員に「ロールバック」を指示する。この仕組みにより、複数のリソースにまたがる処理の整合性が保たれる。しかし、このプロトコルには性能上の課題がある。各リソースマネージャは、準備フェーズで「準備完了」のログを書き込み、コミットフェーズで「コミット完了」のログを書き込むという、最低でも2回のディスクへのログ書き込みが発生する。ディスクI/Oは一般的に遅い処理であるため、これがトランザクション全体の遅延の大きな原因となる。
LTHは、この2フェーズコミットにおけるログ書き込みのオーバーヘッドを削減するための最適化手法である。Last Transaction Holder、すなわち「最後のトランザクション保持者」という名前が示す通り、参加するリソースマネージャのうち、特定の一つを特別な役割として指定する。この最適化の核心は、LTHに指定されたリソースマネージャに対して、第1フェーズである準備フェーズを省略させる点にある。具体的な動作は次のようになる。まず、トランザクションマネージャは、LTHに指定されていない通常のリソースマネージャに対しては、従来通り準備フェーズの問い合わせを行う。これらのリソースマネージャからすべて「準備完了」の応答を受け取ると、トランザクションマネージャはトランザクションがほぼコミット可能であると判断する。そして、最後に残ったLTHのリソースマネージャに対しては、準備の問い合わせをすることなく、直接コミットを指示する。LTHに指定されたリソースマネージャは、このコミット指示を受けて自身の処理を実行する。この処理が成功すれば、トランザクション全体のコミットが成功したと見なされる。もしLTHの処理が失敗した場合は、トランザクション全体が失敗したと見なされ、トランザクションマネージャは、すでに準備完了状態で待機している他のすべてのリソースマネージャに対してロールバックを指示する。この手法により、LTHに選ばれたリソースマネージャは、準備フェーズにおけるログ書き込みが不要となり、コミット時の1回のログ書き込みだけで済む。これにより、トランザクション全体で必要なログ書き込みの回数が削減され、特にネットワーク遅延が大きい分散環境において、トランザクションが完了するまでの時間を大幅に短縮できる。結果として、システム全体のパフォーマンス向上に寄与する。また、トランザクションがリソースをロックしている時間も短くなるため、システムのスループット向上にも繋がる。この最適化は、トランザクションに参加するリソースが一つだけの場合に特に有効であり、そのリソースが自動的にLTHとして扱われることになる。複数のリソースが参加する場合でも、そのうちの一つがLTHの機能をサポートしていれば適用可能である。一般的には、最も更新頻度が高いリソースや、最も信頼性の高いリソースをLTHとして選定することが多い。ただし、この最適化を利用するには、トランザクションマネージャおよびリソースマネージャがLTHに対応している必要がある。例えば、Javaのトランザクション仕様であるJTA(Java Transaction API)とその実装であるアプリケーションサーバーは、この種の最適化をサポートしている場合がある。システムエンジニアは、使用するミドルウェアがこの機能を提供しているかを確認し、システムの要件に応じて適切に設定することが求められる。