ソフトデリート (ソフトデリート) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

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ソフトデリート (ソフトデリート) の読み方

日本語表記

論理削除 (ロンリサクジョ)

英語表記

soft delete (ソフトデリート)

ソフトデリート (ソフトデリート) の意味や用語解説

「ソフトデリート」は、情報システムにおいてデータを完全に消去せず、論理的に削除された状態にする処理を指す。これは「論理削除」とも呼ばれ、データがデータベースなどのストレージから物理的に削除される「ハードデリート(物理削除)」とは根本的に異なる。ハードデリートでは一度削除されたデータを復元することは極めて困難であるか、不可能である一方、ソフトデリートではデータは実際に残っているため、いつでも復元できるという大きな特徴がある。 この方式が採用される主な理由は、データの誤削除からの復旧を容易にするためである。システム運用において、ユーザーによる誤操作やプログラムのバグ、または意図しないデータ削除は頻繁に発生しうる。ハードデリートを採用している場合、これらの間違いは致命的となり、ビジネスに大きな損害を与える可能性がある。ソフトデリートであれば、論理的に削除フラグを立てるだけで済むため、もし誤って削除してしまったとしても、そのフラグを元に戻すだけでデータを容易に復元できる。これは、システムの可用性を高め、運用リスクを大幅に低減する重要な手段となる。 詳細に移る。ソフトデリートは、一般的にデータベースにおいて実装されることが多い。最も一般的な方法は、対象となるテーブルに「is_deleted」や「deleted_at」といった特別なカラムを追加することである。例えば、「is_deleted」カラムはブーリアン型(真偽値、true/falseまたは1/0)で、「true」または「1」が設定されていればそのデータは論理的に削除済みであることを示し、「false」または「0」であれば未削除であることを示す。「deleted_at」カラムは日時型で、データが削除された日時を記録するために使われる。このカラムに値が設定されていれば削除済み、NULLであれば未削除と判断する。後者の方法では、いつ削除されたかという情報も同時に保持できるため、監査証跡としても有用である。 アプリケーション側では、これらの削除フラグを参照してデータの表示・非表示を制御する。例えば、ユーザーリストを表示する画面では、SQLクエリに「WHERE is_deleted = false」または「WHERE deleted_at IS NULL」といった条件を追加し、論理的に削除されていないデータのみを取得するようにする。これにより、削除済みのデータがエンドユーザーの目に触れることはなくなる。しかし、システム管理者や特定の権限を持つユーザーに対しては、削除済みデータも含めて表示・管理できるような機能を提供することもある。 ソフトデリートを採用するメリットは多岐にわたる。第一に、前述の通り、データの復元が非常に容易であること。これは運用上の安心感に直結する。第二に、データの監査証跡として利用できること。誰がいつ、どのデータを削除したかという履歴をシステム内部に保持できるため、不正行為の追跡や、コンプライアンス要件への対応に役立つ。第三に、関連データの整合性を保ちやすいことである。例えば、顧客情報が削除された場合でも、その顧客が過去に行った注文履歴や問い合わせ履歴はそのままデータベースに残しておくことができる。物理的に顧客情報を削除してしまうと、関連する注文履歴などのデータが参照先を失い、データベースの整合性が損なわれたり、利用できなくなったりする可能性がある。ソフトデリートであれば、顧客情報は論理的に削除されても、関連するデータは引き続き存在するため、分析や履歴管理に利用できる。第四に、一時的なアカウント停止や利用停止など、物理的にデータを消さずに特定の機能利用を停止したい場合に柔軟に対応できる。 一方で、ソフトデリートにはいくつかのデメリットも存在する。最も大きなデメリットは、データベースのデータ量が増加することである。削除されたデータも物理的にはデータベース内に残るため、ストレージの消費が増え、それに伴いバックアップの容量も大きくなる。データ量が増えることで、検索や更新のパフォーマンスがわずかに低下する可能性もある。特に、削除済みデータが大量に蓄積されると、インデックスの効率が低下したり、クエリの実行計画が最適化されにくくなったりするケースも考えられる。 また、アプリケーションロジックが複雑化するという側面もある。常に削除フラグを意識した処理を記述する必要があり、SQLクエリのWHERE句に削除フラグの条件を追加し忘れるといったヒューマンエラーのリスクも生じる。さらに、データの一意性制約を考慮する必要がある場合もある。例えば、メールアドレスが一意であるべきユーザーテーブルにおいて、あるユーザーが論理削除された後に、同じメールアドレスを持つ新しいユーザーを登録しようとすると、一意制約違反となる可能性がある。これを避けるためには、一意制約の定義を変更したり、論理削除されたデータは別のテーブルに移動したりするなど、追加の設計が必要となる。 個人情報保護に関する規制、特に欧州のGDPR(一般データ保護規則)のような「忘れられる権利」を要求する規制下では、ソフトデリートだけでは不十分な場合がある。これらの規制は、ユーザーからの要求があった場合に、個人情報を完全に削除することを求めることがあるため、ソフトデリートで残されたデータも物理的に削除する必要が生じる。そのため、ソフトデリートを採用しつつも、定期的に古い論理削除データを物理的に消去する「パージ」処理を導入したり、特定の条件を満たした個人情報だけは物理削除する仕組みを別途構築したりすることが重要となる。 実装上の注意点としては、まず、削除フラグの命名規則をプロジェクト内で統一すること。そして、アプリケーションの全てのデータ参照箇所で削除フラグの条件を漏れなく適用することの徹底が挙げられる。また、関連データが多い場合は、どのデータをソフトデリートの対象とし、どのデータを物理削除の対象とするか、あるいは関連データも一緒に論理削除するかどうかなど、設計段階で十分に検討する必要がある。例えば、ある親データを論理削除した場合に、その子データも自動的に論理削除されるように連動させる仕組みを導入することもある。 ソフトデリートは、多くの現代的なシステムにおいて標準的なデータ管理手法となっている。誤操作からの復旧、監査証跡の確保、関連データの整合性維持といったメリットは、運用コストの削減とシステムの信頼性向上に大きく貢献する。しかし、データ量増加やアプリケーションの複雑化、そして個人情報保護規制への対応といったデメリットと課題も認識し、それらに対する適切な対策を講じながら慎重に設計・実装することが、システム開発においては不可欠である。

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