共通鍵暗号 (キョウツウカギアンゴウ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

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共通鍵暗号 (キョウツウカギアンゴウ) の読み方

日本語表記

共通鍵暗号 (キョウツウカギアンゴウ)

英語表記

symmetric-key cryptography (シンメトリックキー・クリプトグラフィー)

共通鍵暗号 (キョウツウカギアンゴウ) の意味や用語解説

共通鍵暗号は、データの秘匿性を確保するための暗号方式の一つである。この方式の最も大きな特徴は、暗号化と復号に同じ一つの鍵を用いる点にある。この鍵は「共通鍵」あるいは「秘密鍵」と呼ばれ、通信を行う両者が事前にこの鍵を共有している必要がある。鍵が共有されていることを前提とするため、「対称鍵暗号」とも称される。共通鍵暗号の主要な目的は、送信されたデータの内容が、許可された受信者以外には読み取れないようにすること、すなわちデータの秘匿性を保証することである。 共通鍵暗号の動作原理は比較的単純である。情報を送りたい送信者は、送りたい情報(平文)を共通鍵と特定の暗号化アルゴリズムを用いて暗号化する。これにより、第三者には意味不明なデータ(暗号文)が生成される。この暗号文を受信者に送信し、受信者は事前に共有している同じ共通鍵と対応する復号アルゴリズムを用いて暗号文を復号する。その結果、送信者が送った元の平文を正確に復元できる。もしこの共通鍵を持たない第三者が暗号文を入手しても、適切な鍵がなければ平文を読み取ることは非常に困難であるため、データの秘匿性が保たれる。代表的な共通鍵暗号アルゴリズムには、現在広く利用されているAES(Advanced Encryption Standard)や、以前から使われていたDES(Data Standard)、3DES(Triple DES)などがある。これらのアルゴリズムは、ビット列を入れ替えたり、特定の演算を繰り返したりすることで、平文を複雑な暗号文に変換する。 この方式の最大の利点は、その処理速度の速さにある。暗号化および復号の計算負荷が比較的低いため、大量のデータを高速に処理できる。これは、公開鍵暗号と比較した場合に特に顕著であり、そのため大量のデータを扱う場面や、リアルタイム性が求められる通信において非常に有効である。例えば、WebブラウザとWebサーバ間の通信(HTTPS)で確立されたセッション内の実データ転送、あるいはVPN(Virtual Private Network)におけるデータ転送、大容量ファイルの暗号化、ディスク全体の暗号化(フルディスク暗号化)などに利用される。 しかし、共通鍵暗号にはいくつかの課題も存在する。最も重要な課題は、いかにして安全に共通鍵を共有するかという点である。送信者と受信者が事前に物理的に会って鍵を交換したり、あるいは極めて信頼できる安全な通信路を用いて鍵を配送したりすることが、鍵の漏洩リスクを最小限に抑える理想的な方法ではあるが、インターネット経由での不特定多数との通信においては現実的ではない。もしこの共通鍵の配送中や共有後に第三者に漏洩した場合、その鍵で暗号化されたすべての通信内容が解読されてしまうという深刻なリスクを抱える。また、通信相手の数が増えるほど、管理すべき共通鍵の数も飛躍的に増加するという問題もある。例えば、N人のユーザーがそれぞれと秘密に通信を行う場合、それぞれの通信ペアに対して個別の共通鍵が必要となるため、N × (N - 1) / 2 個もの共通鍵を生成、配布、管理しなければならず、鍵管理の負担が非常に大きくなる。 さらに、共通鍵暗号はデータの秘匿性を提供するが、通信相手の認証、データの完全性保証、否認防止といった側面には直接的に寄与しない。共通鍵を知っている人であれば誰でも暗号文を復号できてしまうため、受信者はその暗号文が本当に特定の送信者から送られたものなのか、あるいは途中で改ざんされていないかを確認することは、共通鍵暗号単体ではできない。 これらの共通鍵の共有と管理の課題を解決するために、共通鍵暗号は公開鍵暗号という別の暗号方式と組み合わせて利用されることが一般的である。これは「ハイブリッド暗号方式」と呼ばれ、実際の多くのセキュリティプロトコルで採用されている。具体的には、公開鍵暗号の仕組みを使って、通信ごとに一時的な共通鍵(セッション鍵)を安全に交換・確立する。その後、この安全に確立されたセッション鍵を使って、高速な共通鍵暗号により実際の大量のデータを暗号化・復号するという流れになる。これにより、公開鍵暗号の鍵共有の安全性と、共通鍵暗号の高速処理というそれぞれの利点を組み合わせることができ、効率的かつセキュアな通信を実現している。 このように、共通鍵暗号は高速なデータ処理を可能にし、大量データの秘匿性確保に不可欠な基盤技術である。その鍵共有という根本的な課題は、現代のセキュアな通信環境では公開鍵暗号との連携によって効果的に解決されており、インターネットを介した多様なサービスを支える重要な要素となっている。システムエンジニアを目指す上では、この共通鍵暗号の原理と、それがどのような場面でどのように活用され、どのような課題を抱えているのかを正確に理解することが、安全で信頼性の高いシステムを設計・構築するための第一歩となる。

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