タイムシェアリングシステム (タイムシェアリングシステム) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
タイムシェアリングシステム (タイムシェアリングシステム) の読み方
日本語表記
時分割多重システム (ジブンカツタジュウシステム)
英語表記
Time-sharing system (タイムシェアリングシステム)
タイムシェアリングシステム (タイムシェアリングシステム) の意味や用語解説
タイムシェアリングシステムとは、一台のコンピュータを複数のユーザーが「あたかも自分専用のコンピュータであるかのように」同時に利用できるようにする技術である。高価で巨大だった初期のコンピュータ資源を多くの人々に共有させ、その利用効率を劇的に向上させるために開発された。このシステムは、CPUの処理時間を非常に短い間隔でユーザー間で高速に切り替えることで実現される。各ユーザーは、自分がキーボードから入力した内容に対して即座に反応が返ってくるため、まるでリアルタイムでコンピュータと対話しているかのように感じる。この技術の登場により、コンピュータの利用形態はバッチ処理から対話型へと大きく変化し、現代のマルチタスクOSやクラウドコンピューティングの基礎を築いた。 タイムシェアリングシステムが登場する以前のコンピュータは、主にバッチ処理方式で運用されていた。これは、ユーザーがプログラムやデータをパンチカードなどの形式でコンピュータセンターに提出し、それらがまとめて実行され、結果が出るまで数時間から一晩、あるいはそれ以上待つ必要があった。コンピュータ自体が非常に高価で大規模だったため、個人が専有することは現実的ではなく、一部の専門家や研究者のみが限られた時間利用できる状況だった。しかし、研究開発の現場では、プログラムを対話的に記述・実行し、すぐに結果を確認しながら試行錯誤したいという強いニーズが高まっていた。このような背景から、一台のコンピュータを効率的に複数人で共有し、かつ対話的な利用を可能にするシステムとしてタイムシェアリングシステムが考案された。 タイムシェアリングシステムの核心は、CPU(中央演算処理装置)の時間管理にある。オペレーティングシステム(OS)は、CPUの実行時間を「タイムスライス」や「タイムクォンタム」と呼ばれる非常に短い時間単位(例えば数ミリ秒)に分割する。この短いタイムスライスを、現在システムにログインしている複数のユーザーや、それぞれのユーザーが実行している複数のプログラム(プロセス)に対して順番に割り当てていく。例えば、ユーザーAのプログラムにタイムスライスを割り当て、その時間が経過したらユーザーBのプログラムに切り替え、その後はユーザーCのプログラムに切り替える、といった具合である。この切り替えは人間が知覚できないほど高速に行われるため、各ユーザーは自分がコンピュータを専有しているかのように感じ、あたかも同時に処理が進行しているかのように錯覚する。この切り替え処理は「コンテキストスイッチ」と呼ばれ、現在のプロセスの状態(CPUレジスタの内容、メモリポインタなど)を保存し、次に実行するプロセスの状態を読み込むことで行われる。OS内の「スケジューラ」と呼ばれるコンポーネントが、どのユーザーやプロセスに次のCPU時間を割り当てるかを決定する役割を担う。 対話性の実現には、CPUの時間分割だけでなく、以下のような複数の技術要素が不可欠だった。第一に、「マルチプログラミング」の概念がある。これは、複数のプログラムを同時にメインメモリ上にロードしておき、CPUが現在のプログラムの処理を待っている間(例えば、ディスクI/Oの完了待ちなど)、別のプログラムにCPUを割り当てることでCPUのアイドル時間を減らし、全体的なスループットを向上させる技術である。タイムシェアリングシステムは、このマルチプログラミングを基盤として、さらにユーザーへの対話性を重視した設計となっている。第二に、「メモリ保護」の仕組みが重要だった。複数のユーザーが同じメモリ空間を共有するため、あるユーザーのプログラムが誤って他のユーザーのプログラムやOS自身のメモリ領域を書き換えてしまうことを防ぐ必要がある。メモリ保護は、各プロセスに独立したメモリ空間を提供することで、システム全体の安定性とセキュリティを確保する。第三に、「仮想記憶(バーチャルメモリ)」技術も広く採用された。これは、物理的なメインメモリの容量が限られている状況でも、OSがディスクなどの補助記憶装置を併用することで、あたかもより広大なメモリ空間があるかのように各プログラムに見せる技術である。これにより、より多くのプログラムを同時に実行できるようになり、タイムシェアリングシステムの効率をさらに高めた。 タイムシェアリングシステムは、コンピュータの利用形態と社会における役割に革命をもたらした。それまで一部の専門家しか扱えなかったコンピュータを、より多くの人が手軽に対話的に利用できる環境を提供したのである。その思想と技術は、その後のコンピュータシステムの進化に絶大な影響を与えた。現代のパーソナルコンピュータやスマートフォンで当たり前のように利用されているマルチタスクオペレーティングシステム(Windows, macOS, Linuxなど)は、複数のアプリケーションを同時に実行できるという点で、タイムシェアリングシステムの概念を個人利用の環境に落とし込んだものに他ならない。さらに、インターネットの普及と共に発展したサーバー仮想化技術や、多数の利用者が共通のインフラストラクチャを共有するクラウドコンピューティング(IaaS, PaaS, SaaSなどのサービスモデル)も、一台の物理マシンを論理的に分割し、複数の利用者に共有させるという点で、タイムシェアリングシステムの現代的な応用形態と言える。このシステムが確立したCPU時間分割の概念、リソース管理、そして対話的利用の提供は、現代のあらゆる計算機システムの根幹を成す不可欠な要素となっている。