【ITニュース解説】Hacking the Source: The New Frontier of AI-Enabled Supply Chain Attacks
2025年09月06日に「Medium」が公開したITニュース「Hacking the Source: The New Frontier of AI-Enabled Supply Chain Attacks」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
AIを悪用した新たなサイバー攻撃に警戒が必要だ。特に、ソフトウェア開発で使う部品に悪意あるコードを仕込む「サプライチェーン攻撃」が巧妙化。AIが攻撃コードの生成や検知回避を自動化することで、その脅威は一層増大している。
ITニュース解説
現代のソフトウェア開発は、ゼロから全てのプログラムを書くのではなく、インターネット上で公開されている便利なプログラム部品、いわゆるオープンソースのライブラリやフレームワークを組み合わせて効率的に行われるのが一般的である。しかし、この開発手法にはセキュリティ上の大きなリスクが潜んでいる。もし、利用している部品の一つに悪意のあるコードが仕込まれていたら、それを使って作られたシステム全体が危険に晒されてしまう。このように、製品が利用者に届くまでの連鎖、すなわち「サプライチェーン」の途中で行われるサイバー攻撃を「サプライチェーン攻撃」と呼ぶ。これまでも、開発者がパッケージ名を打ち間違えることを狙って似た名前の悪意あるパッケージを公開したり、正当な開発者のアカウントを乗っ取って管理下のソフトウェアに不正なコードを埋め込んだりする攻撃が存在した。しかし、近年急速に発展している人工知能、特に大規模言語モデル(LLM)の登場により、このサプライチェーン攻撃は新たな次元の脅威へと進化しつつある。
AIがもたらした最も深刻な変化は、悪意のあるコードの巧妙化である。AIは、人間が書いたかのような自然で複雑なプログラムを自動で生成する能力を持つ。攻撃者はこの能力を悪用し、一見すると正常な機能に見せかけながら、裏では情報を盗み出したり、システムを乗っ取ったりするバックドアとして機能するコードを生成できる。生成されたコードは非常に巧妙に偽装されているため、人間によるコードレビューでは見抜くことが極めて困難になる。これにより、信頼されているはずのオープンソースプロジェクトに悪意のあるコードが紛れ込み、気づかれないまま世界中の多くのシステムに拡散してしまう危険性が高まっている。
さらに、AIは技術的な側面だけでなく、人間心理を突くソーシャルエンジニアリングの領域でも悪用される。攻撃者はAIを使い、実在するかのような架空の開発者プロフィールを自動で作り出すことができる。GitHubのアカウント、技術フォーラムでのもっともらしい議論、プロジェクトへの貢献履歴などを生成し、コミュニティ内での信頼を時間をかけて構築する。そして、十分に信頼を得た段階で、自らが作成した悪意のあるパッケージを提案したり、既存のプロジェクトに巧妙な罠を仕込んだコードを紛れ込ませたりするのである。AIは文脈に応じた説得力のある文章を生成できるため、他の開発者はそれが偽の人物であるとは疑わず、提案を受け入れてしまう可能性が高い。
AIの能力は、既存の脆弱性を悪用するだけでなく、未知の脆弱性を発見するためにも利用される。AIモデルに膨大な量のソースコードを学習させることで、これまで人間が見つけられなかったプログラムの欠陥、いわゆる「ゼロデイ脆弱性」を自動的に探し出すことが可能になる。攻撃者はこの能力を使い、多くのシステムで基盤として利用されている重要なソフトウェアライブラリの脆弱性を発見し、それを悪用して大規模なサプライチェーン攻撃を仕掛けることができる。影響範囲が広く、防御側が未知の攻撃に対応しなければならないため、非常に深刻な事態を引き起こす可能性がある。
このようなAIによって高度化した攻撃に対し、私たち開発者やセキュリティ担当者は、これまで以上に厳格な対策を講じる必要がある。まず基本となるのが、使用するライブラリなどの依存関係を厳格に管理することである。プロジェクトがどのバージョンのどの部品に依存しているかをロックファイルで固定し、意図しない更新によって悪意のあるバージョンが混入することを防ぐ。また、ソフトウェアがどのような部品から構成されているかを一覧化したリスト、いわゆる「ソフトウェア部品表(SBOM)」を作成し、管理することも重要である。SBOMがあれば、ある部品に脆弱性が発見された際に、どのシステムが影響を受けるのかを迅速に特定し、対処することが可能になる。さらに、プログラムがビルドされ、利用者に届けられるまでの一連のプロセス(CI/CDパイプライン)を継続的に監視し、不審な挙動やコードの改ざんがないかを常にチェックする体制も不可欠だ。
そして、攻撃者がAIを使う以上、防御側もAIを活用して対抗する必要がある。AIを用いたセキュリティツールは、ソースコードリポジトリをスキャンし、人間では見逃しがちな悪意のあるコードのパターンや、通常とは異なる不審な振る舞いを自動で検出することができる。このような先進的なツールを導入し、人間のレビューと組み合わせることで、防御の精度を高めることが求められる。AIが可能にする巧妙な攻撃は、もはやサイバーセキュリティにおける他人事ではない。システムエンジニアを目指す者は、単に機能するコードを書くだけでなく、自らが利用するツールやライブラリの安全性に常に注意を払い、サプライチェーン全体を意識した開発を行う必要がある。この新たな脅威に適応し、学び続ける姿勢こそが、安全なシステムを構築するための鍵となるだろう。