【ITニュース解説】[Boost]

2025年09月04日に「Dev.to」が公開したITニュース「[Boost]」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

システムでSNAPSHOTに起因する不具合が発生し、2時間のシステム停止につながった事例を解説。記事では、障害発生から原因究明、そして具体的な解決策と再発防止策までを詳しく紹介している。システムトラブル対応の学びとなる実践的な内容だ。

出典: [Boost] | Dev.to公開日:

ITニュース解説

今回は、ある企業のシステムで実際に発生した二時間にも及ぶシステム停止と、その原因、そしてどのように解決したのかについて解説する。この出来事は、システム開発における重要な教訓を示している。

ある日、本番稼働中の重要なアプリケーションが突然起動しなくなった。これにより、システムは完全に停止し、利用者に多大な影響を与える事態となった。このような、システムが正常に動作しなくなることを「システム停止(アウトエイジ)」と呼ぶ。利用者がサービスを利用できなくなるため、システム管理者にとっては最も避けたい事態の一つであり、原因究明のため、担当チームはすぐに調査を開始した。

まず、エラーログを確認したが、アプリケーションが起動に失敗したという一般的なメッセージしかなく、具体的な原因を特定するには至らなかった。ログはシステムの状態やエラーに関する記録であり、トラブルシューティングの第一歩となる重要な情報源だが、今回はそこから直接的な答えが得られなかったため、より詳細な調査が必要となったのだ。そこで、デバッグツールを使ってアプリケーションの内部動作を詳しく調べ、どの部分で問題が発生しているのかを探った。

調査を進める中で、アプリケーションが利用している「依存ライブラリ」に問題があるのではないかという疑いが浮上した。依存ライブラリとは、アプリケーションが特定の機能を実現するために必要とする、外部のプログラム部品のことだ。例えば、データベースと通信する機能や、画像処理、複雑な計算を行う機能などを自前で全て開発するのではなく、既に誰かが作って公開しているライブラリを利用することで、開発効率を高められる。開発チームが最近行った変更履歴をたどると、まさにこの依存ライブラリの一つがバージョンアップされていたことが判明した。

このバージョンアップされたライブラリこそが、今回のシステム停止の直接的な原因だった。問題のライブラリは、Java開発で広く使われるプロジェクト管理ツール「Maven(メイヴン)」で管理されており、その中でも「SNAPSHOT(スナップショット)」バージョンという特殊な形式で提供されていた。SNAPSHOTバージョンとは、まだ開発中の段階にある、不安定なバージョンのことを指す。通常、ソフトウェアのバージョンは「1.0.0」のように固定され、一度リリースされればその中身は変わらない。しかし、SNAPSHOTバージョンは「1.0.0-SNAPSHOT」といった形で表現され、同じバージョン番号であっても開発者がコードを更新するたびに、その中身が頻繁に上書きされる可能性がある。これは、開発中のチームが常に最新のコードでテストできるようにするための仕組みであり、リリース前の検証作業には非常に便利だ。

しかし、このSNAPSHOTバージョンを本番環境に適用したことが大きな落とし穴となった。このシステムでは、コードのビルド(実行可能なプログラムへの変換)から、テスト、そして本番環境へのデプロイ(配置)までの一連の作業を自動化する「CI/CDパイプライン」が構築されていた。CI/CDパイプラインは、継続的インテグレーション(CI)と継続的デリバリー/デプロイメント(CD)の略で、開発効率を高め、人為的なミスを減らすために非常に有効な仕組みだ。この自動化されたプロセスが、問題のSNAPSHOTライブラリをビルド時に「Nexus(ネクサス)」という社内用のライブラリ管理ツールから取得するように設定されていた。Nexusは、Mavenリポジトリの一種であり、開発に必要なライブラリを集中的に管理する役割を果たす。

ここで問題が発生した。開発環境でテストが成功した時点では、ある特定のSNAPSHOTライブラリの中身が使用されていた。しかし、その後、開発者がそのSNAPSHOTライブラリのコードをさらに変更し、Nexusに新しい中身をアップロードした。すると、次にCI/CDパイプラインが本番環境へデプロイするためにライブラリをビルドする際、MavenのSNAPSHOTバージョンの特性により、Nexusから「最新の」中身を取得してしまったのだ。結果として、開発環境でテストした時と、本番環境にデプロイされた時とで、同じSNAPSHOTバージョン名であるにもかかわらず、ライブラリの実体が異なってしまい、本番環境でのアプリケーション起動に失敗した。テストを通過したはずのアプリケーションが、本番で動かなくなるという、まさに「まさか」の事態だったのだ。

このトラブルから、チームは迅速な対応と、再発防止のための長期的な対策の両方に取り組んだ。まず、短期的には、問題を引き起こしたSNAPSHOTバージョンを、過去に安定稼働していたリリース済みの安定版ライブラリへと一時的に差し戻す「ロールバック」作業を行った。これにより、アプリケーションは無事に起動し、二時間ぶりにサービスが復旧した。

そして、今後同様の事態が二度と起こらないように、複数の長期的な対策を講じた。最も重要なのは、「本番環境でのSNAPSHOTバージョン使用の厳格な禁止」というポリシーを導入したことだ。本番環境にデプロイされるアプリケーションは、必ずリリース済みの安定版ライブラリのみを使用するよう徹底した。安定版ライブラリは、一度リリースされればその中身が変わることがないため、テスト済みのバージョンと本番環境で使用されるバージョンが食い違うリスクがない。

また、CI/CDパイプラインにも改善を加えた。ビルドとデプロイのプロセスにおいて、使用する依存ライブラリのバージョンを厳密に「固定」する仕組みを導入したのだ。これにより、意図しないライブラリの更新が自動的に行われることを防ぎ、常に予測可能な環境を維持できるようになった。さらに、開発環境、テスト環境、そして本番環境の全てにおいて、使用される依存ライブラリのバージョンが完全に一致するように管理を強化した。これにより、「ある環境では動くが、別の環境では動かない」といった、環境間の差異による問題を未然に防ぐことが可能になる。

今回のシステム停止は、開発中の不安定なバージョンであるSNAPSHOTライブラリを本番環境に適用したこと、そして自動化されたデプロイプロセスが意図せず最新のSNAPSHOTを取り込んでしまったことで引き起こされた。この経験は、システム開発において依存ライブラリの適切な管理がいかに重要であるか、また自動化されたプロセスであっても、その動作原理を深く理解し、予期せぬ挙動がないかを常に注意深く監視する必要があるという、大きな教訓となった。安定したサービス提供のためには、開発の利便性だけでなく、本番環境の堅牢性を最優先に考えるべきであると改めて認識させられた出来事だった。

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