【ITニュース解説】辞典の名門・ブリタニカがAI検索エンジンのPerplexityを著作権侵害・商標権侵害で提訴
2025年09月12日に「GIGAZINE」が公開したITニュース「辞典の名門・ブリタニカがAI検索エンジンのPerplexityを著作権侵害・商標権侵害で提訴」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
辞典のブリタニカがAI検索エンジンPerplexityを著作権・商標権侵害で提訴した。ブリタニカは、Perplexityが自社コンテンツを無断利用・悪用したと主張。AI技術と知的財産権の衝突が表面化した形だ。
ITニュース解説
このニュースは、長年にわたり信頼性の高い知識を提供してきたブリタニカグループが、新興のAI検索エンジンであるPerplexityを著作権侵害と商標権侵害で提訴したというものだ。これは、現代のIT社会において、人工知能(AI)と既存の知的財産(コンテンツやブランド)がどのように共存していくべきか、という重要な問いを投げかける出来事と言える。システムエンジニアを目指す皆さんにとって、技術開発と法的な側面がどのように絡み合うかを理解する上で、非常に良い事例となるだろう。
まず、今回の主要な登場人物である「ブリタニカ」と「Perplexity」について説明する。ブリタニカは、「ブリタニカ百科事典」や「ウェブスター辞典」などで知られる、世界的に権威のある出版社だ。彼らは何世紀にもわたり、専門家による厳密な監修のもと、質の高い正確な情報を編纂し提供してきた。そのコンテンツは、学術的な研究から一般の学習まで、多岐にわたる分野で信頼されてきた歴史を持つ。一方、Perplexityは、近年注目を集める「AI検索エンジン」と呼ばれる新しいタイプのサービスだ。従来の検索エンジンがウェブサイトへのリンクを主に提供するのに対し、PerplexityのようなAI検索エンジンは、インターネット上の多様な情報源からユーザーの質問に対する答えを抽出し、要約して直接提示する。まるでAIが、ウェブ上の情報を読み込み、ユーザーのために簡潔なレポートを作成するような働きをする。このプロセスの中で、AIは大量のテキストデータを「学習」する。
ブリタニカがPerplexityを訴えた主な理由は、「コンテンツの悪用」であり、具体的には「著作権侵害」と「商標権侵害」を主張している。これらの権利が何を意味し、なぜ今回の訴訟の焦点となっているのかを順に見ていこう。
まず「著作権侵害」について解説する。著作権とは、小説、音楽、絵画、写真、映画、そして今回の事例における百科事典や辞書の文章、図版といった「著作物」を生み出した人(著作者)に与えられる、その著作物を独占的に利用できる権利のことだ。例えば、ブリタニカの百科事典に書かれた詳細な解説文は、それを執筆し、編集し、発行したブリタニカグループに著作権がある。この権利があるため、他の人が許可なくその文章を丸ごとコピーしたり、少し改変しただけで自分のものとして公開したりすることは、基本的に許されない。著作権は、クリエイターが努力と時間、知識を費やして生み出した作品を保護し、それによって新しい創作活動を促進するための非常に重要な仕組みなのだ。 PerplexityのようなAI検索エンジンは、その仕組み上、ウェブ上の膨大な情報を学習データとして利用する。この「学習」という行為が著作権法上どう扱われるのか、そして学習した結果、AIが生成したテキストが元の著作物に酷似していたり、その内容を実質的に抽出してしまっていたりする場合に、それが著作権侵害にあたるのかどうか、という点が現在、世界中で活発に議論されている。ブリタニカは、Perplexityが自社の質の高い、著作権で保護されたコンテンツを許可なく利用し、それを学習データとして取り込んだり、あるいはその情報を元に生成した回答が、ブリタニカの著作物の複製や改変(翻案)にあたると主張している可能性が高い。
次に「商標権侵害」について解説する。商標とは、企業が提供する商品やサービスを他の企業のものと区別するために使用する、名前(サービス名、ブランド名)やロゴマーク、特定のデザインなどのことだ。例えば、「ブリタニカ」という名称やそのロゴは、ブリタニカグループが提供する百科事典や辞書、その他の情報サービスを識別するための「商標」として登録されている。商標権は、この商標を独占的に使用できる権利であり、他の企業が似たような商標を使ったり、既存の商標を不適切に利用したりして、消費者に誤解を与えたり、ブランドの信用を損ねたりすることを防ぐ目的がある。 今回のケースでブリタニカが商標権侵害を主張しているのは、Perplexityが、ブリタニカのコンテンツを利用する際に、ブリタニカのロゴや名称を不適切に表示したり、あるいはあたかもブリタニカがPerplexityのサービスに協力・提携しているかのような印象を消費者に与える方法で利用したりした可能性があるためだ。例えば、Perplexityが生成した回答の出典として「ブリタニカ」と表示したとしても、それが適切なライセンス契約に基づかないものであれば、消費者はPerplexityのサービスがブリタニカから公式に認められている、あるいは共同で提供されていると誤解しかねない。このような誤解は、ブリタニカのブランド価値を不当に利用し、信用を傷つける行為とみなされることがある。
今回の訴訟は、単なる二つの企業間の争いにとどまらない。生成AI技術が社会に急速に浸透し、その能力が飛躍的に向上する中で、既存の知的財産(コンテンツやブランド)をどのように保護し、またAIがそれをどのように利用すべきか、という根本的な法制度と倫理の課題を浮き彫りにしている。 システムエンジニアを目指す皆さんにとって、このニュースは非常に重要な示唆を含んでいる。AIシステムを開発する際、どのようなデータを学習させるか、そのデータの著作権や利用許諾はどうなっているのか、そしてAIが生成するアウトプットが既存の著作物や商標とどのように関わるのか、といった法的・倫理的な側面を常に考慮する必要がある。技術的な機能や性能を追求するだけでなく、その技術が社会にどのように受け入れられ、どのような影響を与えるかまでを見通す視点が、これからのシステムエンジニアには不可欠となる。 無断でコンテンツを利用することは、そのコンテンツを制作した人々や企業の努力と権利を軽視することにつながり、ひいては質の高いコンテンツが生まれにくくなる原因にもなりかねない。AIの開発は、データの収集から学習モデルの構築、そしてサービスとしての提供に至るまで、常に法的な制約や社会的な合意形成を意識しながら進める必要がある。 このような訴訟の結果は、今後のAI技術の発展の方向性や、コンテンツホルダーとAI開発者との間のライセンスモデルの形成に大きな影響を与えるだろう。システムエンジニアとして、最先端の技術を追求するだけでなく、その技術が社会に与える影響や、法律・倫理といった側面にも目を向け、多角的な視点を持って開発に取り組むことが求められる時代になっている。