【ITニュース解説】Why do browsers throttle JavaScript timers?

作成日: 2025年09月03日更新日: 2025年09月08日

ITニュース概要

ブラウザは、PCやスマホのバッテリー消費を抑え、動作を快適にするため、非アクティブなタブで動くJavaScriptのタイマー処理を意図的に遅らせる。これにより、見ていないページの無駄な処理を防ぎ、リソースを節約するのだ。

出典: Why do browsers throttle JavaScript timers? | Reddit /r/programming公開日: 2025年09月03日

ITニュース解説

現代のウェブアプリケーションは、JavaScriptの力を活用して、ユーザーインターフェースを動的に操作したり、バックグラウンドでデータを取得したり、様々な非同期処理を実行したりしている。これらの非同期処理を可能にする重要な機能の一つが「タイマー」である。JavaScriptにおけるタイマーは、具体的には`setTimeout()`や`setInterval()`といった関数として提供される。これらは、指定された時間後に特定のコードを一度だけ実行したり、指定された間隔でコードを繰り返し実行したりするために使われる。例えば、ニュースフィードを一定時間ごとに更新したり、画像のカルーセルを自動で動かしたり、滑らかなアニメーションを実現したりするために、タイマーは広く利用されている。しかし、ブラウザはこれらのJavaScriptタイマーに対して「スロットリング（制限）」という措置を講じている。スロットリングとは、タイマーの実行頻度を意図的に抑制したり、実行間隔を引き延ばしたりする仕組みのことだ。これは、単にウェブページが重くなるのを防ぐためだけではなく、複数の重要な理由があって行われる。システムエンジニアを目指す初心者にとっても、このブラウザの挙動とその背景を理解することは、効率的でユーザーに優しいウェブアプリケーションを開発するために不可欠な知識である。まず、最も分かりやすい理由の一つは「バッテリー消費の抑制とパフォーマンスの維持」である。現代のウェブページは非常に多くのJavaScriptコードを含んでおり、中にはユーザーが見ていないバックグラウンドのタブで動作し続けるものも少なくない。もしバックグラウンドのタブでタイマーが制約なく高頻度で実行され続けると、CPUリソースを継続的に消費し続けることになる。これは特にスマートフォンやノートパソコンのようなバッテリー駆動デバイスにとって深刻な問題となる。バッテリーが急速に消耗し、デバイスの稼働時間が大幅に短くなってしまうのだ。また、頻繁なタイマー実行は、たとえユーザーがアクティブに見ているタブであっても、ブラウザのメインスレッドを占有し、ウェブページの応答性を低下させる。メインスレッドはユーザーインターフェースの描画やイベント処理（クリックやスクロールなど）を担当する主要な処理経路であるため、これがブロックされると、スクロールがカクついたり、ボタンのクリック反応が遅れたり、アニメーションが不自然になったりして、ユーザー体験を著しく損なう。ブラウザはこのような状況を防ぐために、バックグラウンドのタブではタイマーの最小実行間隔を長く設定したり、アクティブでないタブではタイマーの実行頻度を大幅に減少させたりする。次に、「セキュリティとプライバシーの保護」もスロットリングの重要な理由である。一見するとタイマーとセキュリティが無関係に思えるかもしれないが、高精度なタイマーは特定の種類の攻撃に悪用される可能性がある。例えば、「サイドチャネル攻撃」と呼ばれる手法では、CPUのキャッシュメモリの動作タイミングや処理にかかるごく微細な時間差を利用して、秘密の情報（パスワードや暗号鍵など）を推測しようとする。高精度なJavaScriptタイマーが利用可能だと、攻撃者はウェブページ上でコードを実行し、これらの微細なタイミング差を正確に測定することで、攻撃を成功させやすくなるのだ。特に、SpectreやMeltdownといった投機的実行の脆弱性が発見されて以降、ブラウザベンダーはJavaScriptから利用できるタイマーの精度を意図的に低下させることで、これらのタイミング攻撃を困難にする対策を講じている。また、タイマーの精度は「フィンガープリンティング」にも利用されうる。これは、ユーザーのデバイスやブラウザの設定、インストールされているフォントなど、様々な情報を組み合わせて、個々のユーザーを特定する技術だ。高精度なタイマーが提供する情報も、このフィンガープリンティングの精度を高める要素となり得るため、ユーザーのプライバシー保護の観点からもその精度は制限されるべきだと考えられている。さらに、「ネットワークリソースの効率的な利用とサーバー負荷の軽減」も、タイマーのスロットリングが貢献する側面である。多くのウェブアプリケーションは、タイマーを使って定期的にサーバーへ問い合わせを行い、最新の情報を取得する（これを「ポーリング」と呼ぶ）。もしバックグラウンドのタブで、このポーリングが制約なく高頻度で実行され続けると、不必要なネットワーク通信が大量に発生する。これはユーザーのデバイスのデータ通信量を浪費するだけでなく、サーバー側にも余計な負荷をかけることになる。特にモバイル環境ではデータ通信量が制限されていることが多く、不必要な通信はユーザーにとって経済的な負担となる。ブラウザがバックグラウンドのタイマーをスロットリングすることで、このような無駄なネットワーク通信を減らし、全体的なインターネット環境の効率化に貢献しているのだ。ブラウザによるタイマーのスロットリングは、具体的にはいくつかの方法で行われる。例えば、多くのブラウザでは、非アクティブなタブ（ユーザーが現在見ていないタブ）の`setTimeout`や`setInterval`の最小実行間隔を、アクティブなタブのそれよりも大幅に長く設定する。通常、アクティブなタブで`setTimeout(fn, 0)`のように0ミリ秒を指定しても、実際にはイベントループの特性により数ミリ秒後に実行されることが多いが、非アクティブなタブではこの最小間隔が1秒、場合によっては1分以上へと延長されることもある。また、特定の条件（例えば、ページが音声再生中である、WebRTCを使用しているなど）を満たさない限り、バックグラウンドタブでのタイマー実行をさらに厳しく制限するブラウザもある。これにより、ユーザーが意識していない間にリソースが消費されるのを防ぎ、全体的なユーザー体験を向上させているのだ。これらのスロットリングは、ウェブアプリケーションの開発者にとって考慮すべき重要な点である。タイマーに依存して正確なタイミングで処理を実行したい場合、スロットリングによって期待通りの動作が得られない可能性がある。そのため、開発者は`requestAnimationFrame()`といった、アニメーションなどの描画処理に特化した、より効率的でブラウザの描画サイクルと同期するAPIを利用したり、Web Workersを使ってメインスレッドとは別のバックグラウンドスレッドで重い処理を実行したりするなど、スロットリングの影響を受けにくい代替手段を検討する必要がある。結論として、ブラウザがJavaScriptタイマーをスロットリングする理由は多岐にわたる。ユーザーのデバイスのバッテリー寿命を延ばし、ウェブページのパフォーマンスと応答性を保ち、セキュリティ上のリスクを低減し、そしてネットワークリソースを効率的に利用することで、より快適で安全なウェブ体験を提供するためだ。システムエンジニアを目指す者として、このようなブラウザの内部的な動作原理を理解することは、パフォーマンスが高く、安全で、ユーザーに優しいウェブアプリケーションを開発するために不可欠な知識である。