【ITニュース解説】Building a DOOM-like multiplayer shooter in pure SQL

2025年09月10日に「Hacker News」が公開したITニュース「Building a DOOM-like multiplayer shooter in pure SQL」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

データベース言語SQLを使い、人気FPSゲームDOOM風のマルチプレイヤーシューティングを開発。プレイヤーの位置や弾丸をテーブルで管理し、移動や射撃といった操作をSQLクエリで実行する。データベースの常識を覆すユニークな技術的挑戦である。

ITニュース解説

「DOOM」のような複雑な一人称視点のマルチプレイヤーシューティングゲームが、データベースを操作するための言語であるSQLだけで構築されるという、非常に挑戦的なプロジェクトが公開された。この「DOOMQL」と名付けられたプロジェクトは、ゲーム開発における従来の常識を覆し、データベースが持つ本来の能力を改めて示すものだ。通常、こうしたリアルタイム性の高いゲームは、C++やC#といったプログラミング言語と、UnityやUnreal Engineのような専用のゲームエンジンを用いて開発される。ゲームのキャラクターや物体の状態は、コンピュータのメモリ上で高速に処理されるのが一般的である。しかし、このプロジェクトでは、ゲームの世界全体をデータベースの中に構築し、その操作をすべてSQLで行うという全く異なるアプローチを採用している。

このシステムの中心的な考え方は、ゲーム内のあらゆる状態をデータベースのテーブルとして管理することにある。例えば、プレイヤーキャラクターの位置座標、体力、向いている角度、所持している武器といった情報は「players」テーブルに一行のデータとして格納される。同様に、発射された弾丸一つひとつも「bullets」テーブルに、その位置や進行方向、速度といった情報とともに記録される。ゲームの世界が変化するということは、これらのテーブルのデータが更新されることと同義だ。プレイヤーがキーボードを操作して前進すれば、クライアントアプリケーションは「players」テーブル内の対応するプレイヤーの座標データを更新するSQL文(UPDATE文)をデータベースに送信する。敵を攻撃するために弾を発射すれば、新しい弾丸のデータを「bullets」テーブルに追加するSQL文(INSERT文)が実行される。このように、ゲーム内でのすべてのアクションが、データベースに対するデータの読み書きや更新処理として表現されるのである。

ゲームの進行や描画の仕組みも独特だ。プレイヤーが見ているゲーム画面は、一定の間隔でデータベースに問い合わせ(SELECT文)を行い、プレイヤーの視点から見える範囲の壁、敵、弾丸などの最新データをすべて取得する。そして、取得したデータに基づいて3Dグラフィックスを画面上に描画する。この「問い合わせと描画」の繰り返しが、一般的なゲームにおける「ゲームループ」の役割を果たしている。つまり、データベースがゲーム世界の現在の「スナップショット」を常に保持しており、プレイヤーはそれを定期的に覗き見ることで、動的に変化する世界を体験することになる。

さらに、弾が敵や壁に当たったかどうかを判定する「当たり判定」のような複雑な計算ロジックも、SQLクエリの中で実装されている。例えば、ある弾丸の現在の座標と、すべての敵キャラクターの座標を比較し、両者の距離が一定値以下になった場合に「命中」と判定する、といった計算をSQLの数学関数や条件式を駆使して行う。また、一連の処理をまとめて実行するための「ストアドプロシージャ」というデータベースの機能も活用されている。これは、例えば「弾を発射し、プレイヤーの弾薬を1つ減らし、発射音のログを記録する」といった複数の処理を一つの手続きとしてデータベース側にあらかじめ定義しておく仕組みである。これにより、クライアントは複雑なSQL文を毎回送信する必要がなくなり、より簡潔な命令で複雑なゲームロジックを実行できる。

このプロジェクトは、実用的なゲーム開発の手法を提案するものではない。SQLでリアルタイムなゲームを構築するのは、パフォーマンスの観点から見れば非効率的である。しかし、その技術的な挑戦には大きな意義がある。第一に、データベースが単なるデータを保存・検索するための「倉庫」ではなく、複雑な計算やロジック処理を実行できる強力な「計算エンジン」としての側面も持つことを明確に示している点だ。第二に、データベース技術の根幹をなす「トランザクション」の概念が、ゲームの状態管理に応用できる可能性を示唆している。トランザクションは、一連の処理がすべて成功するか、すべて失敗するかのどちらかであることを保証する仕組みであり、これを使えばゲームの状態を矛盾なく安全に更新することができる。

DOOMQLは、技術とは特定の用途に縛られるものではなく、その本質を深く理解することで応用範囲が無限に広がることを教えてくれる好例だ。システムエンジニアを目指す者にとって、SQLやデータベースを単なるデータ操作のツールとして学ぶだけでなく、その背後にあるアーキテクチャや計算能力を理解することが、より柔軟で創造的なシステム設計能力につながることを、このユニークなプロジェクトは示している。