【ITニュース解説】Guidance on running ML project
2025年09月05日に「Reddit /r/programming」が公開したITニュース「Guidance on running ML project」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
学生がGPUを要するMLプロジェクトの環境構築で悩む。Python 3.7, CUDA 11.1, PyTorch 1.9.1が必要だが、Colabではバージョンが合わず動かせない。ChatGPTはGoogle Cloud VMの利用を提案。環境構築の助言を求めている。
ITニュース解説
このニュース記事は、機械学習(ML)プロジェクトの実行に際して、一人の学生が直面している具体的な課題と、その解決策についてのアドバイスを求める内容である。これはシステムエンジニアを目指す初心者にとって、実際の開発現場で遭遇する可能性のある環境構築の難しさや、その解決策を学ぶ良い機会となるだろう。
まず、この学生が実行しようとしている「MLプロジェクト」について理解しよう。機械学習プロジェクトとは、AI(人工知能)の一分野である機械学習の技術を使って、データからパターンを学習させ、予測や分類などのタスクを実行するプログラムのことだ。例えば、画像認識や自然言語処理など、近年注目されている多くのAI技術は、この機械学習によって実現されている。このようなプロジェクトでは、大量のデータを扱うため、非常に多くの計算能力が必要となる場合が多い。
学生が最初に直面した課題は、「事前学習済みモデルがGPUを要求するため、ノートPCでは実行できない」という点だ。GPU(Graphics Processing Unit)とは、もともとコンピューターゲームなどで高速なグラフィック処理を行うために開発された半導体チップだが、その構造が大量の単純な計算を並行して実行することに非常に適しているため、機械学習、特に深層学習のような計算量の多いタスクで利用されるようになった。一般的なノートPCに搭載されているCPU(Central Processing Unit)も計算はできるが、GPUはCPUに比べて桁違いに多くの並列計算が可能である。そのため、大規模な機械学習モデルの学習や、すでに学習済みの「事前学習済みモデル」を使って推論を行う際にも、GPUが必須となることが多いのだ。学生のノートPCに高性能なGPUが搭載されていなかったため、プロジェクトが実行できなかったのは当然の結果と言える。
そこで学生は、手軽にGPU環境を利用できる「Google Colab」を試した。Google Colabは、Googleが提供するクラウドベースのサービスで、Webブラウザを通じてPythonを記述・実行できる環境であり、無料でGPUやTPUといった計算リソースを利用できる点が大きな魅力だ。しかし、ここで新たな問題が発生した。プロジェクトのリポジトリが「Python 3.7、CUDA 11.1、PyTorch 1.9.1」という特定のバージョンのソフトウェアを要求しているのに対し、Google Colabでは「最新のPython、CUDA、PyTorchバージョン」が提供されていたため、バージョン不一致による問題に直面してしまったのだ。
ここで重要なのは、「なぜ特定のバージョンが必要なのか」という点だ。Pythonは多くの機械学習プロジェクトで利用されるプログラミング言語である。CUDAは、NVIDIA社製のGPUで計算を行うためのプラットフォームやAPI(Application Programming Interface)で、GPUを効果的に利用するために不可欠なソフトウェアである。そしてPyTorchは、Facebook(現Meta)が開発した、機械学習モデルを構築するためのフレームワーク(枠組み)だ。これらのソフトウェアはそれぞれが独立しているが、連携して動作するため、互いに互換性のあるバージョンを選ばなければならない。
ソフトウェアの世界では、新しいバージョンがリリースされると、それまでのバージョンで動いていたプログラムが動かなくなったり、予期せぬエラーが発生したりすることがよくある。これを「後方互換性の問題」と呼ぶ。特に機械学習のライブラリは進化が速く、特定の機能が変更されたり、削除されたりすることが頻繁にあるため、開発者はプロジェクトを開発した時点での安定したバージョン構成を推奨することが多い。今回のケースもまさにこれで、プロジェクトのコードがPython 3.7、CUDA 11.1、PyTorch 1.9.1の組み合わせで開発され、テストされているため、それ以外のバージョンでは正しく動作しない可能性が高いのだ。Google Colabは最新の環境を提供することで、多くのユーザーに最新の機能を使ってもらおうとしているが、それが既存の特定のバージョンに依存するプロジェクトの実行には足かせとなってしまったわけだ。
このような状況で、学生がChatGPTから得たアドバイスが非常に適切だ。「Google Cloud VM (Ubuntu 18.04 + GPU) を利用し、オリジナルのPyTorch 1.9 + CUDA 11.1 環境をインストールする」という提案である。
「Google Cloud VM」とは、Googleが提供するクラウドコンピューティングサービス「Google Cloud Platform (GCP)」の一部である「仮想マシン(Virtual Machine)」のことだ。仮想マシンとは、物理的なコンピューターの内部に、ソフトウェアで別のコンピューター環境を作り出す技術を指す。これにより、ユーザーは物理的なハードウェアに縛られず、必要なOS(オペレーティングシステム)やスペック(CPU、メモリ、ストレージなど)を持つ仮想的なコンピューターを、インターネット経由で利用できる。
なぜこれが解決策になるのかというと、仮想マシンを利用すれば、ユーザーは「OSのバージョン」「搭載するGPUの種類」「インストールするソフトウェアのバージョン」といった環境設定を、自分の手で細かくコントロールできるようになるからだ。
具体的には、以下の手順で問題を解決できる。
- Ubuntu 18.04の選択: UbuntuはLinux系のOSで、多くの開発現場で利用されている。バージョン18.04は少し前の安定版であり、プロジェクトが要求するPyTorch 1.9.1やCUDA 11.1との互換性が高い可能性が高い。仮想マシン上では、好きなOSバージョンを自由に選んでインストールできるため、Google Colabのように「最新版しか使えない」という制約から解放される。
- GPUの搭載: Google Cloudの仮想マシンは、必要に応じてNVIDIA製の高性能GPUを搭載することができる。これにより、学生のノートPCでは不足していたGPUの計算能力を確保できる。
- PyTorch 1.9.1とCUDA 11.1のインストール: 仮想マシンを構築した後は、その仮想マシン上で、プロジェクトが要求するPython 3.7、CUDA 11.1、PyTorch 1.9.1といった特定のバージョンのソフトウェアを、手動でインストールする。これにより、必要な環境を正確に再現することが可能となる。
この解決策は、一時的に最新環境しか使えないGoogle Colabの制約を回避し、プロジェクトが求める「特定のバージョンのソフトウェアとハードウェアの組み合わせ」を忠実に再現する最も確実な方法と言えるだろう。クラウド上の仮想マシンを利用することで、高価なGPUを自分で購入することなく、必要な時だけ高性能な計算リソースを利用できるというメリットもある。ただし、クラウドサービスは利用した時間やリソースに応じて費用が発生するため、利用時間や設定には注意が必要だ。
この学生が直面した一連の課題は、システムエンジニアを目指す上で非常に重要な教訓を含んでいる。それは、「開発環境の構築と管理がいかに重要か」ということだ。単にコードを書くだけでなく、そのコードが適切に動作するための土台(環境)を整えるスキルは、エンジニアにとって不可欠である。特定のプロジェクトを実行するためには、OS、プログラミング言語、ライブラリ、ドライバーなど、様々なソフトウェアのバージョンが正確に一致している必要がある。そして、もし手元の環境でそれが困難な場合、クラウドサービスのような外部のリソースを活用して、必要な環境を構築するという発想も重要となる。
環境構築は時に複雑で手間がかかる作業だが、一度正しい環境を構築できれば、プロジェクトはスムーズに動き出す。この経験を通じて、学生は単にMLプロジェクトを動かすだけでなく、システム全体を動かすための基盤を理解し、問題解決能力を養うことができるだろう。これは、将来システムエンジニアとして活躍するために不可欠なスキルの一つだ。