【ITニュース解説】Intelの製品担当最高責任者だったミシェル・ホルトハウスが退職

2025年09月09日に「GIGAZINE」が公開したITニュース「Intelの製品担当最高責任者だったミシェル・ホルトハウスが退職」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

CPUで知られる半導体大手Intelで、30年以上製品部門を率いたミシェル・ホルトハウス氏が退職。同社の製品戦略を担ってきた重要人物の退任であり、今後の開発体制や製品ロードマップへの影響が注目される。

ITニュース解説

コンピュータの頭脳にあたる中心的な部品であるCPU(中央演算処理装置)を開発・製造する世界最大手の半導体メーカー、Intelで重要な人事異動が発表された。30年以上にわたって同社に在籍し、製品部門の最高責任者を務めていたミシェル・ホルトハウス氏が退職するというニュースだ。これは単なる一企業の幹部の退職ではなく、Intelが現在進めている大規模な事業構造改革の重要性と、その過程で起きている大きな変化を象見せる出来事である。システムエンジニアを目指す上で、ITインフラの根幹を支える半導体業界の動向を理解することは非常に重要であり、今回のニュースはその格好の題材となる。

Intelは長年、パソコンやサーバー向けCPUの分野で圧倒的なシェアを誇る王者として君臨してきた。自社で半導体の設計から製造までを一貫して行うビジネスモデルはIDM(垂直統合型デバイスメーカー)と呼ばれ、その高い技術力と生産能力で業界をリードしてきた。しかし、近年その地位は揺らいでいる。AMDのような競合企業が性能の高いCPUを開発してシェアを伸ばし、さらに半導体の製造技術そのものにおいて、台湾のTSMCといった製造専門企業(ファウンドリ)に後れを取るようになった。半導体の性能は、回路をどれだけ微細化できるかに大きく左右されるが、Intelはこの微細化競争で苦戦し、自社の最新CPUの製造をライバルであるTSMCに委託せざるを得ない状況も生まれている。

この危機的状況を打開すべく、2021年にIntelのCEOに復帰したパット・ゲルシンガー氏は、「IDM 2.0」と名付けた大胆な改革戦略を打ち出した。この戦略の柱は、自社の製造技術を復活させると同時に、外部のファウンドリも積極的に活用し、さらに自社の工場を他社にも開放して製造を受託するファウンドリ事業を本格化させるというものだ。この戦略を推し進めるため、Intelは大規模な組織再編に着手した。その核心が、会社を大きく二つの部門に分けることである。一つは、CPUなどの製品の設計・開発に特化する「Intel Products」。もう一つは、半導体の製造に特化する「Intel Foundry」だ。

この組織再編の目的は、各部門の役割と責任を明確にし、経営の効率性と透明性を高めることにある。製品を設計する部門と製造する部門を分けることで、それぞれのコストや収益が可視化される。これにより、製造部門は自社製品だけでなく、他社からの製造委託も含めて採算性を厳しく問われることになり、競争力強化が促される。また、ファウンドリ事業を成功させる上で、この分離は極めて重要だ。AppleやNVIDIAのような企業はIntelの競合であり、彼らがIntelに製造を委託する際、自社の製品の設計情報がIntelの製品開発部門に漏れるのではないかという懸念を抱くのは当然である。組織を明確に分けることで、Intel Foundryが中立的な立場で製造サービスを提供することを示し、顧客の信頼を得る狙いがある。

今回のニュースの主役であるミシェル・ホルトハウス氏がトップを務めていたのが、まさにこの改革の要である「Intel Products」部門だった。この部門は2024年初めに設立されたばかりであり、その初代責任者が1年足らずで退職するのは極めて異例の事態と言える。これは、Intelが進める改革が、単なる組織図の変更にとどまらない、事業の根幹にメスを入れる非常に大きなものであることを物語っている。後任がすぐには決まらず、当面はゲルシンガーCEO自身が部門を直接率いるという点からも、この改革に対するCEOの強い意志と、事態の重要性がうかがえる。

このIntelの変革は、システムエンジニアが将来扱うことになるITインフラの未来に直接的な影響を与える可能性がある。Intelがファウンドリ事業を成功させれば、半導体製造の選択肢が増え、業界全体の競争が促進される。これにより、サーバーやネットワーク機器に搭載される半導体の性能向上や価格低下につながるかもしれない。逆に、改革がうまく進まなければ、Intelの競争力はさらに低下し、特定の企業への依存度が高まるリスクもある。半導体は、クラウドコンピューティング、AI、IoTといった現代のITを支えるすべての技術の基盤である。その供給網や技術動向の変化を理解しておくことは、将来、最適なシステムを設計・構築する上で不可欠な知識となる。Intelという巨人の動向は、今後のテクノロジーの潮流を占う上で重要な指標であり、注目し続ける価値がある。