【ITニュース解説】Intel沈没、“半導体の巨人”に何が起きているのか?

2025年09月04日に「TechTargetジャパン」が公開したITニュース「Intel沈没、“半導体の巨人”に何が起きているのか?」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

生成AIブームで活況を呈する半導体業界で、Intelは深刻な業績不振に陥り、大規模な人員削減を実施している。かつての「半導体の巨人」に何が起きているのか、その現状と背景を探る。

ITニュース解説

近年、人工知能(AI)の急速な発展は、半導体業界に大きな活気をもたらしている。特にAIの計算に必要な高性能な半導体チップの需要はかつてないほど高まり、多くの企業が好調な業績を上げている状況だ。しかし、この華やかな業界の裏側で、かつて「半導体の巨人」と称されたインテル(Intel)が厳しい状況に直面している。

インテルは、長年にわたりコンピュータの頭脳であるCPU(中央演算処理装置)市場を牽引してきた企業だ。特にパソコン向けのCPUでは圧倒的なシェアを誇り、世界中のパソコンにインテルのチップが搭載されてきた歴史がある。同社は、チップの設計から製造まで全て自社で行う「垂直統合型デバイスメーカー(IDM)」という独自のビジネスモデルを確立し、これにより技術革新と品質管理を徹底してきた。

しかし、時代とともに市場の状況は変化した。パソコン市場はすでに成熟期に入り、新規需要の伸びが鈍化した。さらに、人々の生活の中心がパソコンからスマートフォンやタブレットへと移行する中で、インテルはこのモバイル市場への対応で遅れをとってしまう。スマートフォンで主流となったのは、インテルが主力とするx86アーキテクチャとは異なるARMアーキテクチャであり、この市場の変化に乗り遅れたことはインテルにとって大きな痛手となった。

一方、クラウドコンピューティングの普及により、データセンター向けの高性能なサーバー用CPUの需要は依然として高い。インテルはここでも長らくトップシェアを維持してきたが、近年は競争が激化している。ライバルであるAMDが技術力を向上させ、高性能でコスト効率の良い製品を製品を投入。さらに、生成AIブームの火付け役ともなったNVIDIAが、AIの計算に特化したGPU(画像処理装置)でデータセンター市場を席巻し、インテルが提供するCPUの領域にも影響を与えている。加えて、アマゾンやグーグルといった大手クラウドサービス事業者が、自社のサービスに最適化されたカスタムチップを開発し始める動きも、インテルにとっては新たな脅威となっている。

半導体業界では、チップの性能向上において「微細化」が非常に重要となる。これは、チップ上に配置されるトランジスタという部品のサイズをより小さくする技術で、微細化が進むほど、より多くのトランジスタを搭載でき、性能向上と省電力化が実現する。インテルはかつてこの微細化技術で業界をリードしていたが、近年はその開発ペースが鈍化し、台湾のTSMCといった他社のファウンドリ(半導体受託製造企業)が先行する状況に陥っている。これにより、インテルが設計するチップは、性能やコスト面で不利になるケースが増え、顧客離れの一因となっている。

自社で全てを完結させるインテルのIDMモデルは、かつては強みだった。しかし、最先端の半導体製造には莫大な設備投資と高度な技術が必要となり、そのコスト負担は年々大きくなっている。そこでインテルは、自社の製造工場を他社にも開放するファウンドリ事業への参入を表明し、ビジネスモデルの変革を図ろうとしている。しかし、この分野にはすでにTSMCのような強力な先駆者が存在し、後発であるインテルが競争力を確立するには、さらなる投資と時間、そして技術革新が求められる困難な道のりとなる。

こうした複数の要因が重なり、インテルは業績不振に陥っている。収益性の悪化は企業経営を圧迫し、大規模な人員削減は、事業の効率化とコスト削減を進めるための苦渋の選択と言える。これは、インテルが直面する危機がいかに深刻であるかを示している。

インテルが再び「半導体の巨人」としての地位を確立できるかは、今後の戦略にかかっている。新しい市場での存在感の確立、最先端の製造技術の早期挽回、そして変化に対応できる柔軟なビジネスモデルの構築が喫緊の課題だ。厳しい競争環境の中で、インテルがどのような変革を遂げ、どのような未来を描くのか、その動向は半導体業界全体に大きな影響を与えることだろう。

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