【ITニュース解説】マイクロソフトCTO、Rust Nation UKでRustの成功と課題、Rustへのコミットメントについて語る
2025年09月08日に「InfoQ」が公開したITニュース「マイクロソフトCTO、Rust Nation UKでRustの成功と課題、Rustへのコミットメントについて語る」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
マイクロソフトがプログラミング言語Rustへの注力を表明。同社のCTOは、Rustの安全性と性能を評価し、自社製品での採用を拡大していると語った。AIによる既存のC/C++からの移行支援も進めている。
ITニュース解説
マイクロソフトのような巨大IT企業が、ある特定のプログラミング言語に強い関心を示している。その言語は「Rust(ラスト)」である。Microsoft Azureの最高技術責任者(CTO)であるMark Russinovich氏が、イギリスで開催されたカンファレンスでRustの重要性について講演した。この出来事は、これからのシステム開発のあり方を考える上で非常に重要な意味を持つ。
まず、Rustがなぜこれほど注目されているのかを理解する必要がある。プログラミング言語にはそれぞれ特徴があるが、Rustの最大の強みは「メモリ安全性」と「高いパフォーマンス」を両立している点にある。システム開発、特にOSやクラウド基盤のような大規模で高性能が求められるシステムでは、長年にわたりC言語やC++が使われてきた。これらの言語は、コンピュータのハードウェアに近いレベルで細かな制御ができ、非常に高速に動作するプログラムを作れるという利点がある。しかし、その反面、「メモリ管理」をプログラマが手動で行う必要があり、ここに大きな落とし穴が存在した。メモリ管理のミスは、プログラムの予期せぬ停止や、セキュリティ上の深刻な欠陥(脆弱性)に直結する。実際、マイクロソフトの調査によれば、過去に報告されたセキュリティ脆弱性の約70%が、このメモリ安全性の問題に起因していた。一方で、JavaやC#といった言語は、ガベージコレクションという仕組みによってメモリ管理を自動化し、安全性を高めている。しかし、この自動化には若干の処理コストがかかるため、C/C++ほどの極限のパフォーマンスを出すことが難しい場面があった。Rustは、この両者の「いいとこ取り」を目指した言語である。「所有権」という独自の仕組みを導入し、プログラムのコンパイル段階でメモリの使われ方を厳格にチェックする。これにより、実行時のパフォーマンスを犠牲にすることなく、C/C++で起こりがちだったメモリ関連のバグをコンパイルエラーとして未然に防ぐことができる。つまり、C/C++並みの速さと、Java/C#並みの安全性を兼ね備えた言語なのである。
Russinovich氏の講演が示したのは、マイクロソフトがこのRustの特性を高く評価し、自社製品の品質とセキュリティを向上させるための切り札と考えているという事実である。同社の基幹製品であるWindowsや、クラウドサービスのAzureは、膨大な量のC/C++コードで構築されている。これらの既存のソフトウェア資産を維持しつつ、新たな脅威から守り続けることは、同社にとって最重要課題の一つだ。そのため、新しい機能やコンポーネントを開発する際には、積極的にRustを採用する方針を打ち出している。例えば、Windowsのカーネル(OSの中核部分)の一部をRustで書き直すといった実験的な取り組みも進められており、すでに一部のシステムコンポーネントでRustが実用化されている。これにより、原理的にメモリ関連の脆弱性が入り込む余地のない、堅牢なソフトウェアを構築しようとしている。
しかし、ここで大きな課題が立ちはだかる。何十年にもわたって蓄積されてきた数億行にもおよぶC/C++のコードを、すべて手作業でRustに書き換えるのは、時間的にもコスト的にも現実的ではない。この巨大な壁を乗り越えるための鍵として、マイクロソフトが期待を寄せているのが「生成AI」の活用である。講演では、C/C++のコードを解析し、安全で効率的なRustコードへと自動的に変換するツールを開発していることが明らかにされた。このツールは、単に言語の文法を置き換えるだけでなく、C/C++のコードが意図していたであろう処理や、メモリ管理の慣習を理解し、Rustの「所有権」システムに適合するような、より安全なコードを生成することを目指している。この取り組みが成功すれば、既存のソフトウェア資産を安全なRust製へと移行させるプロセスが劇的に加速し、業界全体に大きなインパクトを与える可能性がある。
この一連の動きは、システムエンジニアを目指す人々にとっても重要な示唆を含んでいる。それは、ソフトウェア開発において「安全性」という価値が、これまで以上に重視される時代になっているということだ。高速に動作するだけでなく、いかに安全で堅牢なシステムを構築できるかが、エンジニアの重要なスキルとなる。マイクロソフトのような業界の巨人がRustの採用を強力に推進しているという事実は、Rustが将来的に主要な開発言語の一つになる可能性が高いことを示している。C/C++が築いてきたシステムプログラミングの領域に、安全性という新たな基準をもたらすRustの動向は、今後も注意深く見守る必要があるだろう。