【ITニュース解説】Microsoft escapes EU antitrust fine after unbundling Teams
2025年09月12日に「Engadget」が公開したITニュース「Microsoft escapes EU antitrust fine after unbundling Teams」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
MicrosoftはTeamsをOfficeに抱き合わせ販売し、EUから独占禁止法違反と判断された。巨額の罰金を避けるため、TeamsをOfficeから分離し、Teamsなし版を安価に提供、競合との連携も強化するなどの改善策を講じた結果、罰金を免れた。
ITニュース解説
システムエンジニアを目指す皆さんにとって、日々のITニュースは、技術動向だけでなく、ビジネスや法律がどのようにIT業界に影響を与えるかを理解する上で非常に重要だ。今回注目するのは、世界的なIT企業であるMicrosoftが、EU(欧州連合)から独占禁止法違反の疑いをかけられ、最終的に巨額の罰金を免れたというニュースだ。この一件は、ソフトウェアの「抱き合わせ販売」というビジネス戦略が、いかに競争の公平性を左右し得るかを示している。
事の発端は、数年前に遡る。Microsoftは、ビジネスで広く使われている「Office 365」や「Microsoft 365」といった生産性向上スイートに、チームコラボレーションツールである「Teams」を組み合わせて提供していた。この「抱き合わせ販売」、専門用語では「バンドル」と呼ばれるが、これに対し、Teamsの競合サービスである「Slack」が、EUの欧州委員会に対し、「MicrosoftがOfficeスイートという圧倒的な市場支配力を使って、Teamsを不当に優遇している」と訴えたのが始まりだ。Slackは、MicrosoftがTeamsをOffice製品群に違法にバンドルし、公正な競争を阻害していると主張した。
この訴えを受けて、欧州委員会は2023年に正式な調査を開始した。独占禁止法とは、企業が市場で過度な力を持つことで、公正な競争が妨げられたり、消費者の選択肢が不当に制限されたりするのを防ぐための法律である。欧州委員会の調査は、Microsoftが実際にこの法律に違反しているかどうかを調べるものであった。そして、2024年に欧州委員会は予備的な調査結果を発表し、Microsoftが独占禁止法に違反していたとの見解を示した。
欧州委員会が指摘したのは、主に二つの点であった。一つ目は、「MicrosoftがTeamsを利用したい顧客に対して、Officeスイートとセットでしか購入できないようにすることで、顧客にTeamsを入手するかどうかの選択肢を与えなかった」という点だ。これにより、Teamsは他の競合サービスと比べて、流通面で圧倒的な優位性を得ていた可能性があるとされた。多くの企業が既にOfficeスイートを利用しているため、追加費用なしでTeamsも使えるとなれば、わざわざ他のサービスを選ぶ理由は少なくなる。二つ目は、「Teamsの競合他社がMicrosoftの他の製品とスムーズに連携できないようにする、つまり相互運用性に制限を設けた」という点だ。これもまた、Teamsの競争上の優位性をさらに強める結果につながった可能性があると判断された。これらの違反が認定された場合、Microsoftは年間世界売上高の最大10%に相当する、数百億ドル規模にもなり得る巨額の罰金を科される可能性があった。
この厳しい状況に対し、Microsoftは罰金を避けるため、様々な対応を余儀なくされた。欧州委員会が予備的な調査結果を公表する前から、Microsoftは既に欧州連合域内で、Office 365やMicrosoft 365の生産性向上スイートからTeamsを切り離す、つまり「アンバンドル」する措置を開始していた。しかし、欧州委員会は、この最初の変更だけでは「懸念に対処するには不十分」だと判断した。
そこでMicrosoftは、さらに踏み込んだ形で欧州委員会に「コミットメント」(約束)を提示した。このコミットメントには、以下のような具体的な内容が含まれている。
まず、欧州の顧客に対して、Teamsを含まないバージョンのOffice 365およびMicrosoft 365スイートを「著しく低い価格」で提供すること。これにより、顧客はTeamsが必要なければ、より安価な選択肢を選ぶことができるようになる。 次に、Teams単体、またはTeamsを含むスイートに対して、不当な割引を行わないこと。これにより、価格面での不公正な競争が防止される。 さらに、Teamsの競合他社がMicrosoftの製品やサービスと「効果的に相互運用」できるようにすること。これは、例えば、競合のチャットツールがOfficeの文書編集機能などとスムーズに連携できるようにする、といった技術的な協力体制を意味する。また、競合サービスがOfficeアプリを自社の製品に組み込めるようにもする。 そして、顧客が自分のTeamsのメッセージングデータを、競合する他のサービスで利用できるように、データを簡単に抽出できる機能を提供すること。これは「データポータビリティ」と呼ばれるもので、ユーザーが特定のベンダーに縛られず、自分のデータを自由に移動できる権利を保障するものだ。
これらのコミットメントは、欧州委員会によって2024年5月から6月にかけて実際にテストされた。テストの結果を受け、Microsoftはさらに対応を強化した。具体的には、Teamsを含むMicrosoft 365およびOffice 365スイートと、Teamsを含まないスイートとの価格差を、当初の予定よりもさらに50%拡大させた。これにより、顧客がTeamsなしの製品を選ぶ際の経済的なメリットがさらに大きくなった。加えて、MicrosoftがTeamsを含むスイートを広告する際には、Teamsを含まないスイートの選択肢も同時に表示する義務も負うことになった。これは、顧客が製品を選ぶ際に、選択肢が公平に提示されることを保証するための措置である。
最終的に欧州委員会は、Microsoftが提示したこれらのコミットメントを受け入れ、罰金は免除されることになった。このコミットメントは、相互運用性とデータポータビリティに関するものは10年間、それ以外のコミットメントは7年間、効力を持ち続ける。この期間中、独立した受託者(trustee)がMicrosoftのコミットメントの履行状況を監視し、Microsoftが約束を守り続けることを確認する。
この一件は、システムエンジニアを目指す皆さんにとって、技術的な側面だけでなく、IT企業がどのように法的・倫理的な側面と向き合っているかを知る良い機会となる。市場での公正な競争は、新しい技術やサービスが生まれる土台であり、ユーザーがより良い選択肢を得る上でも不可欠だ。このような規制当局による監視や企業間の競争は、最終的に技術革新を促し、より良いITサービスが私たちに提供されることにつながるのである。独占禁止法や公正な競争の原則は、これからのIT業界で働く上で、技術的な知識と同じくらい重要なビジネスの常識として理解しておくべきだろう。