【ITニュース解説】ML needs a new programming language – Interview with Chris Lattner

2025年09月05日に「Hacker News」が公開したITニュース「ML needs a new programming language – Interview with Chris Lattner」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

機械学習(ML)の進化には、新しいプログラミング言語が不可欠だと、クリス・ラトナー氏が語る。既存言語ではML特有の複雑な計算や並列処理を効率的に扱えず、開発者の負担が大きい。次世代のML開発を加速させるには、専用の言語が求められている。

ITニュース解説

機械学習(ML)は、現代のIT分野で非常に重要であり、画像認識、自然言語処理、推薦システムなど、私たちの生活に深く根付いている。システムエンジニアを目指す皆さんにとって、機械学習の知識は今後ますます不可欠となるだろう。現在、機械学習の開発ではPythonが広く利用されているが、このPythonをはじめとする既存の言語が、機械学習の進化とともに限界に直面しているという議論がある。この記事は、著名なプログラマーであるクリス・ラトナー氏が、機械学習には新しいプログラミング言語が必要だと主張する内容を解説したものだ。

なぜ既存の言語では不十分なのだろうか。まず大きな問題は、パフォーマンスだ。機械学習では、膨大なデータを高速に処理する必要がある。Pythonは手軽に書ける一方で、実行速度が他の言語に比べて遅いという特性がある。このため、実際にはPythonからC++のような高速な言語で書かれたライブラリを呼び出して利用しているのが現状だ。これは、開発者がPythonのコードを書きつつも、その裏で動く低レベルな部分の挙動を意識しなければならず、複雑さが増している。

次に、エコシステムの断片化が挙げられる。機械学習の開発プロセスは、データの前処理、モデルの構築、学習、評価、そして最終的なデプロイ(実際にサービスとして動かすこと)など、多くのフェーズに分かれている。それぞれのフェーズで、異なるライブラリやフレームワークが使われることが多い。例えば、データ処理にはPandas、モデル構築にはTensorFlowやPyTorch、デプロイにはONNXなどといった具合だ。これらのツールはそれぞれ異なる設計思想やデータ形式を持っており、互いの連携がスムーズでない場合がある。これにより、開発者は各ツールの使い方を学び、異なるツール間でデータを変換したり調整したりする手間がかかる。この断片化は、開発の効率を大きく阻害し、バグの原因にもなりかねない。

また、抽象度のミスマッチも問題だ。現在のプログラミング言語は、汎用的な目的のために設計されている。しかし、機械学習にはテンソル(多次元配列)の操作や、自動微分(モデルの学習に必要な複雑な計算を自動で行う機能)など、特有の概念や操作が多く存在する。既存の言語でこれらを表現しようとすると、冗長なコードになったり、直感的に理解しづらかったりすることがある。機械学習の専門家が、より高レベルな抽象度で直接的にモデルを記述できるような言語が求められているのだ。

こうした課題を解決するために、クリス・ラトナー氏は機械学習に特化した新しいプログラミング言語が必要だと提言している。では、その新しい言語はどのような特徴を持つべきなのだろうか。

まず最も重要なのは、性能と効率だ。新しい言語は、コンパイラと呼ばれるプログラムを最適化する仕組みを強力に備えることで、Pythonのように手軽に書けても、C++のような高速な実行速度を実現する必要がある。特に、GPU(グラフィック処理装置)のような高性能なハードウェアを最大限に活用できるような設計が求められる。これにより、大規模なモデルの学習や、大量のデータ処理が格段に速くなることが期待される。

次に、機械学習に特化した高水準な抽象化と表現力だ。新しい言語は、テンソルや自動微分、ニューラルネットワークのレイヤー構造といった機械学習固有の概念を、言語の基本機能として直接扱えるようにするべきだ。これにより、開発者は複雑なライブラリの内部実装を意識することなく、より直感的にモデルを記述し、そのロジックに集中できるようになる。自動微分機能が言語レベルで組み込まれていれば、モデルの学習に必要な勾配計算を自動で、かつ効率的に行うことが可能になる。

さらに、静的型付けと安全性も重要な要素だ。静的型付けとは、プログラムが実行される前に、変数の型(種類)をチェックすることで、間違いを早く見つける仕組みのことだ。現在のPythonのような動的型付け言語では、実際にプログラムを実行してみないと型の不一致によるエラーが発見されにくい場合がある。機械学習のモデルは非常に複雑になりがちで、小さなバグが大きな誤動作につながる可能性があるため、静的型付けによってエラーを早期に発見し、コードの信頼性を高めることは非常に重要だ。

また、開発からデプロイまでの一貫性も新しい言語が解決すべき課題だ。現在の開発では、モデルを開発する環境と、実際にサービスとして動かす本番環境とで、異なる言語やフレームワークを使うことがよくある。この環境のギャップは、デプロイの複雑さを増し、予期せぬ問題を引き起こす原因となる。新しい言語は、開発から本番環境への移行をシームレスに行えるように、統一されたツールチェーンやランタイム(プログラムを実行する環境)を提供する必要がある。これにより、開発者は「自分の書いたコードが本番環境でちゃんと動くか」という心配を減らし、より迅速にサービスを展開できるようになる。

最後に、新しい言語は、既存の機械学習エコシステム、つまりPythonで開発された膨大なライブラリやツール群と、うまく連携できる相互運用性を持つことも重要だ。新しい言語がすぐに既存の全ての機能を代替することは難しいため、当面はPython製のライブラリを呼び出したり、既存のモデルを新しい言語で扱ったりできるような仕組みが必要になるだろう。これにより、既存の資産を無駄にすることなく、段階的に新しい言語への移行を進めることができる。

クリス・ラトナー氏の提言は、機械学習開発の未来を見据えたものであり、新しいプログラミング言語の登場が、機械学習の可能性をさらに広げ、より効率的で信頼性の高いシステム開発を可能にするだろう。システムエンジニアを目指す皆さんにとって、このような技術の進化の動向を理解することは、将来のキャリア形成において非常に有益な視点となるはずだ。

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