【ITニュース解説】Carbon Language Plans Seamless Interop with Rust, Kotlin, and Swift (To Avoid Ecosystem Duplication)

Googleが開発を進める新しいプログラミング言語「Carbon Language」が、Rust、Kotlin、Swiftといった既存の言語との連携を重視している点が注目されている。この方針は、今後のソフトウェア開発の方向性を示すものとして理解できる。

まず、Carbon Languageとはどのような言語なのかを簡単に説明する。Carbon Languageは、主にC++の後継となることを目指して開発されている。C++は長年にわたり多くのシステム開発を支えてきた強力な言語だが、現代のソフトウェア開発で求められる安全性や生産性といった点で課題も抱えている。そこでCarbon Languageは、C++の良い点を引き継ぎつつ、メモリ安全性の向上やモダンなプログラミング機能を取り入れることで、より安全で効率的な開発を可能にしようとしているのだ。

このCarbon Languageの最も興味深い方針の一つが、「エコシステムの重複を避ける」という点だ。プログラミング言語にはそれぞれ「エコシステム」と呼ばれるものが存在する。これは、その言語で書かれたプログラムを開発する際に利用できるライブラリ、ツール、フレームワーク、コミュニティといった、開発を支える一連の環境全体を指す言葉だ。新しい言語が登場すると、通常はその言語専用の新しいエコシステムをゼロから構築する必要がある。これは非常に時間と労力がかかる作業であり、新しい言語が普及する上での大きな障壁となることがある。Carbon Languageは、この問題を解決するために、既存の強力なエコシステムを積極的に活用する道を選んだ。

具体的に、Carbon Languageが連携を深めようとしている主要な言語の一つが「Rust」だ。Rustは、高い安全性とパフォーマンスを特徴とする人気のプログラミング言語である。Rustのエコシステムの中核をなすのが「Cargo（カーゴ）」というパッケージマネージャーと、それによって管理される膨大な数のライブラリだ。ニュース記事によると、Cargoには現在10万を超えるライブラリが存在するという。これらのライブラリは、データベース接続、ネットワーク通信、データ処理など、さまざまな種類の機能を提供するコードの集合体であり、開発者はこれらを自身のプロジェクトに組み込むことで、ゼロからコードを書く手間を省き、効率的に開発を進めることができる。

Carbon Languageは、このRustのCargoシステムにある豊富なライブラリを、自身のプロジェクトで「相互運用（インターオペラビリティ）」によって利用することを目指している。相互運用とは、異なるプログラミング言語やシステム間で、互いの機能を問題なく利用できるようにすることだ。もしCarbon LanguageがRustのライブラリをシームレスに利用できるようになれば、Carbon Languageの開発者は、すでにRustコミュニティによって開発・維持されている高性能で安全なライブラリ群を、自身のCarbonプロジェクトにそのまま組み込んで活用できるようになる。これは、Carbon Languageが自身で同じ機能を持つライブラリを開発する手間を省き、より迅速に成長し、より多くの開発者に採用されるための強力な手段となる。まさに「エコシステムの重複回避」という目標を具体的に実現するアプローチだと言える。

しかし、この相互運用には技術的な課題も存在する。ニュース記事にも触れられているように、Rustには現在、「安定したABI（アプリケーションバイナリインターフェース）」がないという点がその一つだ。ABIとは、異なるソフトウェアコンポーネントが互いに通信し合うための低レベルな規約のことで、これが安定していると、ある言語でコンパイルされたコードを別の言語から呼び出して問題なく利用できるようになる。RustのABIが安定していないということは、Rustのバージョンアップによってその規約が変更される可能性があり、それによってCarbon LanguageとRust間の相互運用が不安定になる恐れがあることを意味する。Carbon Language開発チームは、この課題を解決するための技術的な努力を続けることになるだろう。

Rust以外にも、Carbon Languageは「Kotlin」や「Swift」といった言語との相互運用も目指している。KotlinはAndroidアプリ開発、SwiftはApple製品向けアプリ開発の主要言語である。Carbon Languageがこれらの言語ともシームレスに連携できるようになれば、C++の後継としての役割を担いつつ、モバイルプラットフォームへの展開も容易になる。これは、開発者がCarbon Languageを使って、パフォーマンスが重要なバックエンドシステムから、ユーザーが直接触れるモバイルアプリケーションまで、幅広い領域で開発を行える可能性を示している。

そして、Carbon Languageが最も重視しているのは、既存の「C++」とのシームレスな相互運用だ。Carbon LanguageはC++の後継を目指す言語であるため、既存の膨大なC++コードベースをスムーズに利用できることが非常に重要になる。もしCarbon LanguageがC++のコードを簡単に呼び出したり、C++のライブラリを再利用したりできるようになれば、C++からCarbon Languageへの移行が段階的に行えるようになり、企業や開発者にとって大きなメリットとなる。これは、既存の資産を無駄にすることなく、最新の技術へスムーズに移行するための重要な戦略だ。

このように、Carbon Languageが掲げる「エコシステム重複回避」と「広範な相互運用」という方針は、既存の多様な技術スタックと共存し、それぞれの強みを引き出し合うことで、ソフトウェア開発全体の生産性と効率を高めようとする現代的なアプローチである。将来、複数のプログラミング言語や技術を組み合わせて開発する機会が増えるシステムエンジニアにとって、Carbon Languageが示すこの方向性は、言語間の連携やエコシステムの活用が不可欠なスキルとなることを示唆している。