【ITニュース解説】第237回 MySQL 8.4でのMaster/Slave構文の廃止にどう対応するか

2025年01月21日に「Gihyo.jp」が公開したITニュース「第237回 MySQL 8.4でのMaster/Slave構文の廃止にどう対応するか」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

データベースMySQLのバージョン8.4では、データの複製(レプリケーション)で使われていた「Master/Slave」構文が廃止された。今後は新しい「Source/Replica」構文への移行が必要となり、エンジニアは新方式への対応が必須である。

ITニュース解説

データベース管理システムの一つであるMySQLの新しいバージョン、MySQL 8.4が一般公開されてから、システムのバージョンアップを検討する開発現場が増えている。このMySQL 8.4には、システムエンジニアを目指す上で必ず理解しておくべき重要な変更点が含まれている。それは、データベースの可用性やパフォーマンスを向上させるための基本的な技術である「レプリケーション」に関する構文の変更である。具体的には、これまで長年使われてきた「Master」と「Slave」という用語が完全に廃止され、新しい用語に置き換えられた。この変更は単なる名称の変更に留まらず、今後のMySQLの標準となるため、初心者エンジニアにとっても必須の知識となる。

まず、レプリケーションがどのような技術であるかを理解する必要がある。レプリケーションとは、一つのデータベース(メイン)のデータを、リアルタイムでもう一つの、あるいは複数のデータベース(コピー)に複製する仕組みのことである。これにより、メインのデータベースに障害が発生しても、コピー側のデータベースに切り替えることでサービスの停止を防いだり(可用性の向上)、データの読み取り処理をコピー側のデータベースに分散させることで、メインのデータベースへの負荷を軽減したり(負荷分散)することが可能になる。従来、この構成において、メインのデータベースは「Master(マスター)」、コピー側のデータベースは「Slave(スレーブ)」と呼ばれてきた。そして、レプリケーションを設定するためのSQLコマンドや、状態を確認するためのコマンドにも「MASTER」や「SLAVE」といった単語が使われていた。

しかし、MySQL 8.4では、この「Master/Slave」という用語が廃止され、新たに「Source(ソース)」と「Replica(レプリカ)」という用語が採用された。データの源泉となるメインのデータベースが「Source」、その複製であるコピー側のデータベースが「Replica」と呼ばれる。この変更の背景には、IT業界全体で、より中立的で包括的な言葉遣いを推進する動きがある。技術的な機能とは無関係に、特定の歴史的・社会的な文脈を想起させる言葉を避けようという考え方に基づいている。MySQLもこの流れに沿い、より技術的な実態を的確に表す「Source(源泉)」と「Replica(複製)」という言葉を選んだのである。

この用語変更に伴い、関連するSQL構文、設定パラメータ、ステータス変数などがすべて一新された。例えば、レプリケーションを設定する際に使われていたCHANGE MASTER TOというコマンドは、CHANGE REPLICATION SOURCE TOに変更された。同様に、レプリケーションを開始・停止するためのSTART SLAVESTOP SLAVEは、それぞれSTART REPLICASTOP REPLICAとなった。また、レプリケーションの状態を詳細に確認するためのSHOW SLAVE STATUSコマンドも、SHOW REPLICA STATUSに置き換えられている。これらの古い構文はMySQL 8.4では完全にサポートが終了し、実行するとエラーが発生する。したがって、これからMySQL 8.4を使ってシステムを新規に構築する場合は、必ずこの新しい「Source/Replica」構文を使用しなければならない。

既存のシステムをMySQL 8.4へバージョンアップする場合は、特に注意が必要である。アップグレード作業を行う前に、現在使用しているレプリケーション関連の設定ファイル、運用監視に用いているスクリプト、バックアップ手順書などをすべて見直し、古い構文が使われている箇所を特定して、新しい構文に修正する必要がある。これを怠ると、バージョンアップ後にレプリケーションが正常に機能しなくなり、システム障害を引き起こす可能性がある。そのため、本番環境に適用する前に、必ずテスト環境で新しい構文への書き換えと、その後の動作検証を徹底的に行うことが不可欠である。

この変更は、これからシステムエンジニアとしてのキャリアを歩み始める初心者にとって、非常に重要な学習ポイントとなる。古い技術記事や書籍では依然として「Master/Slave」という用語で解説されている場合が多いが、最新の現場では「Source/Replica」が標準となる。公式ドキュメントや最新の技術情報を参照する際には、新しい用語で理解を深める必要がある。また、チームメンバーとのコミュニケーションにおいても、正確な用語を使うことで円滑な意思疎通が可能になる。MySQL 8.4におけるレプリケーション構文の変更は、単なる言葉の置き換えではない。データベース技術の進化と、それを取り巻くIT業界の文化的な変化を反映したものであり、現代のエンジニアとして身につけておくべき基本的な知識の一つと言えるだろう。