【ITニュース解説】The Night Netflix Almost Died
2025年09月15日に「Medium」が公開したITニュース「The Night Netflix Almost Died」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
2008年、Netflixは3日間の大規模システム障害でサービス停止に追い込まれ、会社存続の危機に直面した。この苦い経験が、あえてシステムを意図的に壊し、その耐性を検証する「カオスエンジニアリング」誕生のきっかけとなった。
ITニュース解説
Netflixは今日、世界中で利用されているストリーミングサービスだが、その歴史にはサービスの存続を揺るがすほどの大規模な危機が存在した。2008年、Netflixは3日間にも及ぶサービス停止という深刻な障害に見舞われ、この経験が後に「カオスエンジニアリング」という革新的なアプローチを生み出すきっかけとなった。
この障害が発生したのは、Netflixが従来のDVDレンタル事業から、オンラインでの動画ストリーミングサービスへと事業の軸足を移そうとしていた重要な時期だった。当時のNetflixのシステムは、まだ自社のデータセンターで運用されており、全てのデータを管理する中心的なデータベースがサービスの中核を担っていた。しかし、この中核データベースが破損するという致命的な問題が発生した。データベースの破損は、システム全体が正常に機能しなくなることを意味し、結果としてNetflixの全サービスが停止する事態に陥ったのである。3日間にわたるサービス停止は、ユーザーの信頼を大きく損ね、ビジネス存続の危機に直面させるほどの深刻さだった。
この苦い経験から、Netflixは多くの重要な教訓を得た。一つは、自社データセンターで物理的な機器を運用することの限界だ。サーバーやネットワーク機器の購入、設置、保守には莫大なコストと時間がかかり、物理的な故障に対する迅速な対応も難しい。もう一つは、システムにおける「単一障害点(Single Point of Failure)」の危険性である。単一障害点とは、そこが停止するとシステム全体が停止してしまうような、ボトルネックとなる部分のことだ。Netflixの場合、破損した中核データベースがまさにそれだった。システムの安定稼働のためには、特定のコンポーネントが停止しても、他のコンポーネントがその機能を肩代わりできるよう、システム全体に「冗長性(redundancy)」、つまり複数の代替手段を持たせることが不可欠だと痛感した。
こうした教訓から、Netflixは抜本的なシステム改革を決断する。それが、自社データセンターから「Amazon Web Services(AWS)」のようなクラウドプラットフォームへの全面移行だった。クラウドサービスを利用することで、物理的なサーバーの管理やメンテナンスから解放され、必要な時に必要なだけコンピューティングリソースを利用できるようになる。また、AWSは複数のデータセンターにわたってサービスを提供しているため、ある場所で障害が発生しても、別の場所のリソースに切り替えることでサービスを継続できる、という高い可用性を提供している。Netflixはこのクラウドの特性を活かし、システム全体を分散化し、単一障害点を極力排除するアーキテクチャへと移行していった。
しかし、クラウドへの移行は、同時にシステムの複雑性を増大させる側面も持っていた。多数のマイクロサービス(独立した小さなサービス群)が連携し、膨大な数のサーバーやデータベースが動的に稼働する環境では、予期せぬ障害がどこで、いつ発生するか予測することは非常に困難になる。そこでNetflixのエンジニアたちは、システムの信頼性をさらに高めるための画期的なアイデアを考案した。それが、「カオスエンジニアリング」である。
カオスエンジニアリングとは、一言で言えば、本番環境のシステムにおいて意図的に障害を発生させ、その障害に対してシステムがどのように振る舞い、回復するかを検証するアプローチだ。まるで予防接種のように、小さな障害をあらかじめ体験させることで、より大きな障害に対する耐性を付けることを目的としている。Netflixは、この概念を具現化するために「Chaos Monkey(カオスモンキー)」と呼ばれるツールを開発した。Chaos Monkeyは、稼働中のサーバーをランダムに停止させたり、ネットワーク接続を切断したりといった障害を自動的に引き起こす。
初心者のシステムエンジニアには少し驚きかもしれないが、このツールは実際に本番環境で動作する。なぜそのようなことをするのかというと、開発者が設計したシステムが、予期せぬ障害にどれだけ強く、どのように回復するのかを実際に試すためだ。例えば、あるサーバーが停止した場合、他のサーバーが自動的にその役割を引き継ぎ、サービスが中断することなく稼働し続けるか。あるいは、データベースに問題が生じた際に、バックアップシステムがスムーズに起動するか、といった点を検証する。開発者はChaos Monkeyによって引き起こされる障害を目の当たりにすることで、システムの脆弱性を特定し、それを修正するための改善策を講じることができるのだ。
カオスエンジニアリングの導入によって、Netflixのシステムは格段に「レジリエント(Resilient)」、つまり回復力が高まった。エンジニアたちは、常に障害が発生する可能性を前提としてシステムを設計し、開発するようになった。単一障害点を許さず、たとえ個々のコンポーネントが故障しても、システム全体としてはサービスを継続できるような設計思想が根付いたのだ。これは、障害発生時に慌てて対応するのではなく、事前に障害対策をシステムに組み込むという、能動的なアプローチだと言える。
Netflixの事例は、大規模なシステムを運用する上で、障害対策がいかに重要であるかを教えてくれる。2008年の深刻な経験は、単なる失敗で終わらず、システムの信頼性と安定性を極限まで高めるための革新的な手法、「カオスエンジニアリング」を生み出す原動力となった。システムエンジニアを目指す皆さんにとって、この話は、技術的な知識だけでなく、予期せぬ事態にどう備え、どう対処していくかという、運用設計の奥深さと重要性を示唆している。現代のクラウド環境における大規模システム開発では、障害は避けられないものとして受け入れ、いかにその影響を最小限に抑え、素早く回復できるシステムを構築するかが、成功の鍵となるのだ。