【ITニュース解説】なぜOracleは「自社クラウドへの誘導」を捨ててAWSと手を組んだのか
2025年09月04日に「TechTargetジャパン」が公開したITニュース「なぜOracleは「自社クラウドへの誘導」を捨ててAWSと手を組んだのか」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
オラクルはこれまで自社クラウド(OCI)への移行を促してきたが、大手クラウドのAWSと提携した。今後はAWS上でオラクルデータベースを直接稼働させられる新サービスが利用可能となる。
ITニュース解説
OracleとAWS、この二つの巨大IT企業が手を組むというニュースは、クラウドコンピューティングの世界に大きな波紋を広げた。これまでOracleは、自社の強みであるデータベースの技術を活かし、顧客を自身のクラウドサービスであるOCI(Oracle Cloud Infrastructure)へと誘導する戦略を積極的に推進してきた。しかし、今回の提携により、「AWS(Amazon Web Services)でOracleデータベースを稼働させる」という、以前の戦略とは一見すると矛盾するサービスが実現する。この大きな方向転換がなぜ起こったのか、その背景と狙いを詳しく見ていこう。
まず、クラウドコンピューティングとは何か、その基本から理解しよう。クラウドコンピューティングとは、インターネット経由でサーバーやストレージ、データベースなどのコンピューター資源を利用できるサービスのことだ。これにより、企業は自前で高価な設備を用意したり、専門の技術者を雇用したりすることなく、必要な時に必要な分だけITリソースを使えるようになる。AWSは、このクラウドコンピューティング市場において圧倒的なシェアを誇るリーディングカンパニーであり、世界中の多くの企業がAWSのサービスを利用してシステムを構築している。
一方、Oracleは世界中で使われている高性能なデータベースソフトウェアを提供している企業として有名だ。データベースとは、大量のデータを効率的に保存、管理し、必要な時に取り出せるようにするシステムであり、企業の業務システムやウェブサービスには欠かせない基盤となる。Oracleデータベースは、その信頼性や処理能力の高さから、特に大規模な基幹システムで長年利用されてきた実績を持つ。
Oracleは、自社のデータベース技術を最大限に活かすため、そして新たな収益源を確保するために、OCIという独自のクラウドサービスを提供してきた。OCIは、Oracleデータベースを動かすのに最適化されており、高いパフォーマンスとコスト効率をアピールし、顧客をOCIへと引き込むことに注力していたのだ。自社のデータベースと自社のクラウドサービスを組み合わせることで、顧客に最高の体験を提供し、他のクラウドプロバイダーに顧客が流れるのを防ぐ、という囲い込み戦略の典型と言えるだろう。
しかし、なぜOracleはこの自社クラウドへの誘導という戦略から転換し、競合とも言えるAWSと手を組んだのだろうか。その最大の理由は、市場の現実と顧客のニーズにある。多くの企業はすでにAWS上で既存のシステムを稼働させており、そこにOracleデータベースの利用ニーズがある。企業がOracleデータベースを使いたい場合でも、現在利用しているAWS環境を大きく変更したり、わざわざ別のクラウドサービスであるOCIに乗り換えたりする手間やコストは避けたいと考えるのが自然だ。特に、大規模なシステムを運用している企業ほど、既存のインフラを変更することには慎重になる。
この状況において、Oracleが自社クラウドのみに固執していては、AWSを利用する顧客層を取りこぼしてしまうことになる。市場の主流であるAWS上でOracleデータベースを提供することで、より多くの潜在顧客にリーチし、データベース市場でのOracleの優位性を維持・拡大することが可能となる。これは、顧客の選択肢を広げ、利便性を向上させることにも繋がる。顧客は、既存のAWS環境を活かしつつ、信頼性の高いOracleデータベースを利用できるようになるのだ。
また、AWSとOracleが直接協力することで、OracleデータベースがAWS上で最高のパフォーマンスと安定性で稼働するための技術的な最適化が図られる。それぞれの企業が持つ強みを組み合わせることで、単独では提供できないような高品質なサービスが生まれる。この提携は、Oracleがクラウド市場全体の変化に対応し、データベースベンダーとしての本質的な価値提供に立ち返ったとも言えるだろう。自社クラウドでの囲い込み戦略から、より多くの顧客が利用する環境でサービスを提供するオープンな戦略へと舵を切ったのだ。
この動きは、システムエンジニアを目指す者にとっても重要な示唆を与える。クラウドサービスは一つではなく、複数のサービスを使いこなす知識が求められる時代になっている。また、特定のベンダーの製品に固執するのではなく、顧客のニーズや市場の動向を正確に理解し、柔軟な発想で最適なソリューションを提供することの重要性を示している。OracleとAWSの提携は、IT業界における競争と協調の新しい形を提示し、今後のクラウドサービスのあり方にも大きな影響を与えることになるだろう。企業が利用するITインフラはますます複雑化し、複数のクラウドサービスや様々なデータベースを連携させるスキルが、システムエンジニアに求められるようになっていく。