【ITニュース解説】The origin story of merge queues
2025年09月11日に「Hacker News」が公開したITニュース「The origin story of merge queues」について初心者にもわかりやすく解説しています。
ITニュース概要
複数開発者がコードを統合する際、エラーやコンフリクトは避けられない。これを解決し、安全かつ効率的なコードマージを実現するため「マージキュー」が誕生した。自動で変更を順番に処理し、常に安定したコードベースを保つこの仕組みの歴史と重要性を解説する。
ITニュース解説
ソフトウェア開発の世界では、複数の開発者が協力して一つのシステムを作り上げていくことが一般的である。それぞれの開発者が自分の担当する機能を開発し、最終的にはそれらの変更を一つのまとまったコードベースに統合する。この「統合」のプロセスが、システムの安定性を左右する非常に重要な工程となる。
開発者は通常、自分の作業用のコードのコピー(ブランチ)を作成し、そこで新機能の開発やバグの修正を行う。作業が完了すると、その変更をシステムの「メイン」となるブランチ(通常は「main」や「master」と呼ばれる)に取り込んでもらうために、「プルリクエスト」と呼ばれる提案を作成する。プルリクエストが作成されると、他の開発者がそのコードの内容を確認し、問題がなければ、自動的にコードの品質をチェックする仕組み(継続的インテグレーション、略してCI)が実行される。CIがすべてのテストをパスすれば、その変更はメインブランチに「マージ」されるという流れが一般的だった。
しかし、この伝統的な開発フローには、いくつかの課題があった。最も大きな問題は、メインブランチが意図せず壊れてしまうリスクである。開発者は自分のブランチでCIを実行し、テストがすべて成功したことを確認してプルリクエストを出す。しかし、そのプルリクエストがメインブランチにマージされるまでの間に、他の開発者の別のプルリクエストが先にマージされることがある。この場合、自分のプルリクエストがマージされる時点でのメインブランチは、自分がテストした時とは異なる状態になっている可能性がある。もし、自分の変更が、先にマージされた他の開発者の変更と予期せぬ形で衝突した場合、CIがパスしたはずの変更でも、メインブランチにマージされた途端に、システムが正しく動作しなくなる「競合状態(レースコンディション)」が発生する可能性があった。例えば、Aさんが特定の機能を修正するコードを提出し、CIで問題なしと確認されたとする。しかし、Aさんのコードがマージされる前に、BさんがAさんの修正箇所と関連するが異なる変更を加えてマージしてしまうと、Aさんのコードがマージされた際に全体が壊れてしまうような状況である。このような状況は、メインブランチを壊し、他の開発者の作業を妨げ、緊急の修正対応を必要とさせるため、開発効率を著しく低下させる要因となっていた。
また、CIの実行には時間がかかることが多く、特に大規模なプロジェクトでは数分、時には数十分を要することも珍しくない。多くのプルリクエストが同時に処理待ち状態になると、それぞれのCI実行が順番待ちとなり、マージまでの時間が長くなるという非効率性も問題視されていた。開発者は、自分の変更がいつメインにマージされるかわからない状態に置かれ、心理的なストレスも抱えることになった。
このような背景から生まれたのが、「マージキュー」という概念である。マージキューは、プルリクエストがメインブランチにマージされる前に、その安全性を最大限に確保するための「待機リスト」のような役割を果たす。マージキューの基本的な仕組みは以下の通りである。まず、プルリクエストがマージキューに入ると、キューは自動的に、そのプルリクエストの変更を、メインブランチの最新のコードに一時的に統合した仮想的なバージョンを作成する。次に、その仮想的なバージョンに対して、すべての自動テスト(CI)を改めて実行する。この時点で初めて、その変更がメインブランチの最新の状態と結合された時に問題なく動作するかどうかが厳密に検証されるのだ。
もしこのCIが成功すれば、そのプルリクエストはメインブランチに安全にマージされる。しかし、もしCIが失敗した場合、そのプルリクエストはマージされず、開発者にフィードバックされる。これにより、メインブランチに問題のあるコードがマージされることを効果的に防ぐことができる。重要なのは、マージキューがプルリクエストを一つずつ順番に処理するだけでなく、時には複数のプルリクエストをまとめて(「バッチ」として)テストする機能も持つ点である。これにより、CIの実行回数を減らし、全体のマージプロセスを高速化することが可能になる。ただし、バッチテストの場合、そのバッチに含まれるいずれかの変更が原因でCIが失敗すると、バッチ全体がリジェクトされるため、原因特定の難しさや再試行の手間が発生する可能性もある。
マージキューの導入により、ソフトウェア開発の現場には大きなメリットがもたらされた。最も顕著なのは、メインブランチの安定性が飛躍的に向上したことである。開発者は、自分のコードがマージキューを通過しさえすれば、メインブランチが壊れる心配なく、安全に統合されることを確信できる。これにより、開発者は安心して自分の作業に集中できるようになり、心理的な負担が軽減される。また、メインブランチが安定していることは、継続的デリバリー(CD)のプロセス、つまり開発されたソフトウェアを常にリリース可能な状態に保つことにも直結し、製品の品質と信頼性を高める。
歴史的に見ると、マージキューのような概念は、Googleのような大規模なモノリシックリポジトリを持つ企業で、早くから内部ツールとして開発され、その有効性が証明されてきた。その後、GitHub Actionsのような強力な自動化プラットフォームや、Mergifyのような専門サービスが登場したことで、中小規模のチームでも手軽にマージキューの恩恵を受けられるようになった。これらのツールは、マージキューの処理をより賢く、より柔軟に、そしてよりスケーラブルにするための様々な機能を提供している。例えば、プルリクエストの優先順位付け、様々なマージ戦略(fast-forward、rebase、merge commit)への対応、依存関係の自動解決などである。
現代のソフトウェア開発において、コードの変更を安全かつ効率的にメインブランチに統合するマージキューは、もはや不可欠なツールとなっている。これにより、チーム全体の生産性が向上し、より高品質なソフトウェアを迅速に提供することが可能になるのである。システムエンジニアを目指す初心者にとって、このような現代的な開発フローとそれを支える技術への理解は、今後のキャリアを築く上で非常に重要だと言えるだろう。